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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年9月8日16時03分 宮城県金華山南方沖合 2 船舶の要目 船種船名
油送船秀洋丸 漁船第一秀栄丸 総トン数 698トン 19トン 全長 65.00メートル 20.50メートル 機関の種類
ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力 1,323キロワット
294キロワット 3 事実の経過 秀洋丸は、主に愛知県衣浦、茨城県鹿島及び千葉の各港で積み、静岡県清水港で揚げる液化ガスの運搬に従事する船尾船橋型鋼製タンカーで、A、B両受審人ほか5人が乗り組み、空倉のまま、船首2.05メートル船尾3.55メートルの喫水をもって、平成10年9月7日12時55分北海道苫小牧港を発し、鹿島港に向かった。 ところで、A受審人は、船橋当直(以下「当直」という。)を単独の3直4時間制とし、平素から口頭で、当直中は書類の整理や書き物などをしないで見張りに専念し、他船の動向に注意して何かあれば報告する旨を指示し、安全運航についてのポスター及び平成9年7月船員労務官指導で作成した航海当直基準表を船橋内に掲示していた。 翌8日15時50分B受審人は、金華山灯台から175度(真方位、以下同じ。)5.8海里の地点で、前直の甲板長と当直を引き継ぎ、単独で当直に就き、針路を198度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.6ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行した。 15時53分少し過ぎB受審人は、金華山灯台から177度6.4海里の地点で、右舷船首40度2.0海里に前路を左方に横切る第一秀栄丸(以下「秀栄丸」という。)を視認し得る状況となったが、周囲を一瞥して接近する他船を見なかったことから衝突のおそれのある他船はいないと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、このことに気付かず、その後船橋左舷後部の海図台のそばで後方に向き、立って船位記入の作業に従事し、同一針路で続航した。 16時00分少し過ぎB受審人は、金華山灯台から180度7.4海里の地点に達したとき、前路を左方に横切る秀栄丸とその方位がほとんど変わらず衝突のおそれがある態勢で1,000メートルに接近したが、依然船位記入の作業に従事し、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、これに気付かず、大きく右転するなり、行きあしを止めるなどして秀栄丸の進路を避けないで進行中、16時03分金華山灯台から181度8.0海里の地点において、秀洋丸は、原針路、原速力のまま、その右舷中央部に秀栄丸の船首が後方から82度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力3の南東風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。 A受審人は衝撃を感じ、急ぎ昇橋し事後の措置に当たった。 また、秀栄丸は、まぐろはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人ほか5人が乗り組み、操業の目的で、船首1.5メートル船尾2.2メートルの喫水をもって、同月8日12時30分宮城県塩釜港を発し、北西太平洋の漁場に向かった。 C受審人は、発航から単独で操船に当たり、13時20分洞掛根灯浮標を右舷正横に見る、波島灯台から230度1.1海里の地点で、針路を116度に定め、機関を全速力前進にかけ、8.0ノットの速力で自動操舵により進行した。 15時53分少し過ぎC受審人は、金華山灯台から190度7.6海里の地点に達したとき、左舷船首58度2.0海里に前路を右方に横切る秀洋丸を視認し得る状況となったが、周囲を一瞥して接近する他船を見なかったことから衝突のおそれのある他船はいないと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、このことに気付かず、その後警告信号を行わず、僚船間の無線による連絡を聴きながらメモをとり、同一針路で続航した。 16時00分少し過ぎC受審人は、金華山灯台から183度7.9海里の地点で、前路を右方に横切る秀洋丸とその方位がほとんど変わらず衝突のおそれがある態勢で1,000メートルに接近したが、依然僚船間の無線による連絡を聴きながらメモをとり、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、これに気付かず、行きあしを止めるなどして衝突を避けるための協力動作をとらないで進行中、16時03分わずか前船首至近に迫った秀洋丸を初めて認め、全速力後進にしたが及ばず、秀栄丸は原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、秀洋丸は右舷中央部外板に凹損及びハンドレールに曲損を生じ、秀栄丸は船首部を圧壊したが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、金華山南方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、秀洋丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る秀栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、秀栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) B受審人は、金華山南方沖合において、単独で当直に当たる場合、前路を左方に横切る秀栄丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、周囲を一瞥して接近する他船を見なかったことから衝突のおそれのある他船はいないと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、秀栄丸と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、船橋左舷後部の海図台のそばで後方に向き、立って船位記入の作業に従事し、大きく右転するなり、行きあしを止めるなどして秀栄丸の進路を避けないで進行して同船との衝突を招き、秀栄丸の船首部を圧壊させ、秀洋丸の右舷中央部外板に凹損及びハンドレールに曲損を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 C受審人は、金華山南方沖合において、単独で当直に当たる場合、前路を右方に横切る秀洋丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、周囲を一瞥して接近する他船を見なかったことから衝突のおそれのある他船はいないと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、秀洋丸と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、僚船間の無線による連絡を聴きながらメモをとり、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらないで進行して秀洋丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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