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2000年(平成12年)

平成11年仙審第45号
    件名
貨物船神珠丸漁船第三十八稲荷丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年1月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

長谷川峯清、上野延之、内山欽郎
    理事官
大本直宏

    受審人
A 職名:神珠丸二等航海士 海技免状:三級海技士(航海)(履歴限定)
B 職名:第三十八稲荷丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
神珠丸・・・左舷船尾外板に凹損
稲荷丸・・・船首部に破口を伴う損傷

    原因
稲荷丸・・・動静監視不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
神珠丸・・・横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第三十八稲荷丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る神珠丸の進路を避けなかったことによって発生したが、神珠丸が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)

2 船舶の要目
船種船名 貨物船神珠丸 漁船第三十八稲荷丸
総トン数 4,409トン 75トン
全長 141.75メートル 33.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 6,619キロワット 592キロワット
3 事実の経過
神珠丸は、大阪、仙台、釧路及び苫小牧各港を1週間で往復する定期航路に就航する船尾船橋型の鋼製ロールオン・ロールオフ貨物船で、船長D及びA受審人ほか11人が乗り組み、雑貨積みシャーシ36両等を載せ、船首5.00メートル船尾6.30メートルの喫水をもって、平成10年9月6日08時15分宮城県塩釜港仙台区を発し、北海道釧路港に向かった。
ところで、平素D船長は、船橋当直者に対し、予定針路にこだわらず早めに大きく避けることなど同当直中の注意事項についての指示を与えていた。

12時00分A受審人は、歌津埼灯台から108度(真方位、以下同じ。)13.2海里の地点で、甲板手1人を伴って昇橋したのち、船橋当直に就き、前直が10時33分金華山灯台から270度3.2海里の地点で定めた針路020度及び機関を全速力前進にかけて可変ピッチプロペラの翼角を自動制御させる自動負荷制御装置のスイッチを入れた状態で引き継ぎ、自動操舵により進行した。

当時、天候は曇で風力3の南東風が吹き、視界は良好で、潮候は上げ潮の末期であった。
また、稲荷丸は、船首楼付一層甲板船首船橋型の鋼製漁船で、沖合底びき網漁業に従事する2艘びきの従船であり、B受審人及びC指定海難関係人ほか9人が乗り組み、底びき網漁の目的で、船首1.7メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、同月5日01時45分主船の漁生丸とともに岩手県宮古港を発し、同県沖合の底びき網漁場に向かい、04時15分同県釜石港東方沖合に至って操業を始めた。

ところで、稲荷丸は、農林水産大臣から青森、岩手両県界正東線と宮城県金華山山頂正東線との間の区域での周年操業の許可を得ており、漁生丸との2艘びき操業を、岩手県南の綾里埼から同県県北の八木沖合までの水深200ないし900メートルの海域において、休漁期の7及び8両月を除き、9月から11月までの間スルメイカ、11月から翌年5月までの間スケトウダラ、マダラ、キチジ及びヒゲダラ、5月から6月末までスルメイカをそれぞれ漁獲対象として行っていた。当時、両漁船は、スルメイカの漁模様が悪く、曳網水深200ないし360メートルのスケトウダラ及びマダラ、並びに同水深450ないし900メートルのキチジ及びヒゲダラを対象として1曳網約3時間の操業を繰り返していた。
B受審人は、漁場到着後の2艘びき操業に関連する運航については漁生丸の漁撈長の指揮に従い、自船の漁場移動、操船及び船橋当直についての指揮を稲荷丸の漁撈長であるC指定海難関係人に行わせ、視界が制限されるときや他船が多いときには自ら操船していたが、操業中に主として船橋当直に就くC指定海難関係人に対しては、同人が同当直に慣れているから、船橋当直中の注意事項については言うまでもあるまいと思い、他船を認めたらその動静を十分に監視して接近するときにはその状況を速やかに報告することなどについての指示を徹底することなく、自らは夜間曳網中に同指定海難関係人が仮眠する約2時間の同当直に当たっていた。


C指定海難関係人は、同作業を行っているとき、漁生丸の漁撈長からキチジを漁獲対象とする水深540メートルの漁場に移動する旨の指示を受け、魚群探索を行いながら同漁場に向かうこととなり、15時35分同地点を発進し、針路を125度に定め、波しぶきが操舵室内に入らないよう窓も扉も閉め切って単独の船橋当直に就き、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力で、自動操舵により進行した。


15時41分少し前C指定海難関係人は、ふと右方を見て船首至近に迫った神珠丸の船体を初めて認め、機関を全速力後進にかけるとともに右舵一杯としたが効なく、ほぼ原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、神珠丸は左舷船尾外板に凹損を生じ、稲荷丸は船首部に破口を伴う損傷を生じたが、のちそれぞれ修理された。


(原因)

稲荷丸の運航が適切でなかったのは、船長が、無資格の船橋当直者に他船を認めたらその動静を十分に監視して接近するときにはその状況を速やかに報告することなどについての指示を徹底しなかったことと、船橋当直者が他船の動静監視を十分に行わなかったこととによるものである。


(受審人等の所為)

以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


C指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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