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2000年(平成12年)

平成11年函審第54号
    件名
漁船第28大幸丸漁船第12満勝丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年1月20日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

酒井直樹、大石義朗、古川隆一
    理事官
東晴二

    受審人
A 職名:漁船第28大幸丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第12満勝丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
大幸丸・・・右舷船首外板に擦過傷
満勝丸・・・左舷側前部外板を圧壊、廃船処分、船長が、右肋骨骨折及び腰椎骨折、甲板員が右上腕骨骨折

    原因
満勝丸・・・灯火・形象物不表示、見張り不十分、注意喚起信号不履行(主因)
大幸丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第12満勝丸が、無灯火のまま漁ろうに従事したばかりか、見張り不十分で、第28大幸丸に対し、有効な音響による注意喚起信号を行わなかったことによって発生したが、第28大幸丸が、見張り不十分で、前路で停留中の第12満勝丸を避けなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年5月8日04時00分
北海道昆布森漁港南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第28大幸丸 漁船第12満勝丸
総トン数 7.3トン 2.27トン
登録長 13.62メートル 7.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
漁船法馬力数 120 30

3 事実の経過
第28大幸丸(以下「大幸丸」という。)は、かにかご漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、試験操業の目的で、同業船2隻とともに船首0.6メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成9年5月8日03時55分昆布森漁港を発し、同漁港の南南東方7海里ばかりの漁場に向かった。
この試験操業は、2月から4月までの漁期を過ぎたのち、釧路水産試験所の依頼を受けて行うもので、同日の試験操業船は大幸丸と同業船2隻の3隻だけであった。
ところで、大幸丸は、船首が高い構造で、操舵室中央部の操舵位置からは、広い範囲で前方が見通せないので、同室左舷側に高い椅子を置き、これに腰を掛けて遠隔操舵装置により手動操舵に当たっていたものの、この位置からは、左舷船首約5度と右舷船首約10度の間に死角を生じ、前方を見通すことができない状況であった。

A受審人は、発航時、航行中の動力船の灯火を表示し、操舵室左舷側の椅子に腰を掛けて1人で船橋当直に当たり、03時57分半、昆布森港南防波堤灯台から210度(真方位、以下同じ。)60メートルの地点で、針路を2海里ばかり前方を先行する同業船1隻の船尾灯にほぼ向首する178度に定め、機関を半速力前進にかけ、9.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
A受審人は、定針したとき、日出前の薄明時で、正船首695メートルに無灯火のまま停留して刺網揚網作業中の第12満勝丸(以下「満勝丸」という。)の船体を視認できる状況であった。しかし、同人は、先行している同業船に追尾して航行しているから、前路に衝突のおそれのある他船はいないものと思い、操舵室左舷側の窓から顔を出したり、船首を左右に振るなどして船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかったので満勝丸の存在に気付かなかった。

A受審人は、その後満勝丸と衝突のおそれのある態勢で接近したが、このことに気付かず、同船を避けることなく続航中、04時00分昆布森港南防波堤灯台から180度740メートルの地点において、大幸丸は、原針路、原速力のまま、その船首が満勝丸の左舷船首部に後方から38度の角度で衝突した。
当時、天候は小雨で風力2の南東風が吹き、潮候は下げ潮の初期にあたり、日出時刻は04時07分であった。
A受審人は、衝突に気付かないまま続航中、04時02分後続の同業船の知らせで衝突を知り、直ちに反転して衝突地点に赴いた。
また、満勝丸は、灯火設備を有しない、かれい刺網漁業に従事する無甲板のFRP製漁船で、B受審人が妻の甲板員と乗り組み、前日に設置しておいた刺網の揚網作業の目的で、船首0.3メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、8日03時50分昆布森漁港を発し、同漁港の南方750メートルばかりの漁場に向かった。

B受審人は、自船に灯火設備がなかったので白色全周灯及び両色灯を掲げず、単一乾電池6本入りの懐中電灯を他船に向けて点灯できるよう手元に置いて無灯火のまま航行し、03時53分昆布森港南防波堤灯台から180度740メートルの地点に設置しておいた刺網の南南西端を示す浮標に接近し、船外機を中立として漂泊し、同時54分漁ろうに従事していることを示す灯火を掲げることなく、甲板員とともに左舷側前部の揚網機で同浮標とその旗竿及び同浮標に連結した長さ約15メートルの瀬縄の引き揚げ作業を開始した。
B受審人は、03時56分刺網の浮標を揚収したとき、中立運転を続けている船外機が突然自停したので、甲板員に瀬縄とその下端に連結した長さ約20メートルの捨て縄及び刺網固定用錨の揚収作業を行わせ、自らは船尾で船外機の点検に当たっていたところ、03時57分半、船首が140度を向き、甲板員に同固定用錨を巻き上げさせているとき、左舷船尾38度695メートルに、自船に向首接近する大幸丸の白、紅、緑3灯及び船体を視認することができる状況であった。しかし、B受審人は、日出前の薄明時に停留して揚網作業を行っているので、接近する他船が自船を視認して避けてくれるものと思い、船外機の点検に気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、大幸丸に気付かず、その後同船が衝突のおそれのある態勢で接近したが、着用している作業用救命衣の呼子笛を吹くなどして有効な音響による注意喚起信号を行うことなく船外機の点検を続け、甲板員が刺網固定用錨を取り込んで所定の位置に置いて、捨て縄を巻き上げ、同時59分半刺網が揚網機にかかり、これを揚網中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、大幸丸は、右舷船首外板に擦過傷を生じたのみであったが、満勝丸は、左舷側前部外板を圧壊し、昆布森漁港に引き付けられたが廃船処分され、B受審人及び甲板員は海中に投げ出されたが、大幸丸の後続船に救助され、B受審人は、右肋骨骨折及び腰椎骨折などを、甲板員は、右上腕骨骨折を負った。
 
(原因)
本件衝突は、日出前の薄明時、北海道昆布森漁港南方沖合において、満勝丸が、無灯火のまま漁ろうに従事したばかりか、見張り不十分で、衝突のおそれのある態勢で接近する大幸丸に対し、有効な音響による注意喚起信号を行わなかったことによって発生したが、漁場に向け航行中の大幸丸が、見張り不十分で、前路で停留中の満勝丸を避けなかったことも一因をなすものである。

 
(受審人の所為)
B受審人は、日出前の薄明時、北海道昆布森漁港南方沖合において、無灯火のまま停留して刺網の揚網作業を行う場合、接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、日出前の薄明時に停留して揚網作業を行っているので、接近する他船が自船を視認して避けてくれるものと思い、自停した船外機の点検に気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのある態勢で接近する大幸丸に気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことなく船外機の点検を続けて同船との衝突を招き、大幸丸の右舷船首外板に擦過傷を生じさせ、満勝丸の左舷側前部外板を圧壊して廃船処分させ、甲板員に右上腕骨骨折を負わせ、自身も右肋骨及び腰椎骨折などを負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、日出前の薄明時、北海道昆布森漁港南方沖合において、漁場に向け航行する場合、船首が高い構造で、船首方に死角を生じ、前方を見通すことができない状況であったから、前路で停留中の満勝丸を見落とすことのないよう、操舵室左舷側の窓から顔を出したり、船首を左右に振るなどして船首方の死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、先行している同業船に追尾して航行しているから、前路に衝突のおそれのある他船はいないものと思い、船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、正船首方で停留して揚網中の満勝丸と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、同船を避けることなく進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、B受審人及び甲板員に前示の骨折を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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