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2000年(平成12年)

平成11年長審第29号
    件名
漁船第3正栄丸プレジャーボート海光丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年3月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

坂爪靖、原清澄、保田稔
    理事官
畑中美秀

    受審人
A 職名:第3正栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:海光丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
正栄丸・・・ほとんど損傷なし
海光丸・・・左舷船尾部を圧壊、のち廃船、同乗者1人が入院加療を要する右鎖骨遠位端粉砕骨折、頭部挫傷及び皮下血腫

    原因
正栄丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
海光丸・・・動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第3正栄丸が、見張り不十分で、錨泊中の海光丸を避けなかったことによって発生したが、海光丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年1月27日12時40分
長崎県平戸島薄香(うすか)湾
2 船舶の要目
船種船名 漁船第3正栄丸 プレジャーボート海光丸
総トン数 4.93トン
登録長 10.77メートル 4.43メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 139キロワット 40キロワット
3 事実の経過
第3正栄丸(以下「正栄丸」という。)は、船体中央からやや後方に操舵室を設けたFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、いか一本釣り漁の目的で、船首0.68メートル船尾1.71メートルの喫水をもって、平成11年1月27日12時35分長崎県薄香湾漁港を発し、同県北松浦郡田平町北方沖合の漁場に向かった。
発航後、A受審人は、操舵室中央の舵輪右横に立って左手で舵輪を握り、右手で機関の操縦レバーを操作しながら操舵と肉眼による見張りに当たり、12時38分少し前薄香湾港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から040度(真方位、以下同じ。)10メートルの地点に達したとき、針路を平戸海洋牧場第1号浮標灯(以下「海洋牧場浮標灯」という。)にほぼ向首する310度に定め、速力を全速力前進から少し下げた13.0ノットとし、船首が浮上して船首方向に死角を生じた状態で進行した。

定針したとき、A受審人は、正船首900メートルのところに、錨泊中の海光丸を視認でき、その後、同船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、西防波堤灯台に並航する少し前前方をいちべつして他船が見当たらなかったことから、前路に他船はいないものと思い、船首を左右に振るなどの船首死角を補う見張りを十分に行うことなく、海光丸に気付かないまま続航した。
A受審人は、海光丸を避けることができないまま進行中、12時40分西防波堤灯台から311度900メートルの地点において、原針路、原速力のまま、正栄丸の船首が海光丸の左舷船尾部に直角に衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期にあたり、視界は良好であった。
また、海光丸は、航行区域を限定沿海区域とするFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、友人2人を同乗させ、魚釣りの目的で、船首0.20メートル船尾0.30メートルの喫水をもって、同日07時40分長崎県平戸島江袋(えぶくろ)湾後平(うしろびら)の係留地を発し、同県生月島北岸鞍馬鼻沖合の釣り場に向かった。

08時00分B受審人は、釣り場に至って釣りを始め、その後、生月島東方沖合の平瀬付近に移動して釣りを行ったのち、12時30分前示衝突地点付近に至り、船首から錨を投入して錨索を40メートルばかり延出し、錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げないまま、船首を南西方に向けて釣りを始めた。
12時37分半B受審人は、船首が220度を向いた状態で、船首部に腰掛け、左舷方を向いて竿釣りをしていたとき、左舷正横1,000メートルのところに、薄香湾漁港の西防波堤の内側から自船の方に向かってくる正栄丸を初認し、その後、同船が自船に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、自船が禁漁区域の中心を示す海洋牧場浮標灯の近くに錨泊していたことから、正栄丸が注意しにきたもので、自船に近づけば停止するか、避けるかするものと思い、正栄丸に対する動静監視を十分に行うことなく、時々同船の方を見る程度で特に気にも留めずに釣りを続けた。

B受審人は、正栄丸に対する動静監視を十分に行っていなかったので、同船が避航する気配を見せないで間近に接近したとき、機関を使用するなどの同船との衝突を避けるための措置をとることができないまま魚釣り中、12時40分少し前同船が自船に約100メートルまで迫ったので衝突の危険を感じ、立ち上がって両手を左右に振り、大声で叫んだが、効なく、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、正栄丸は、ほとんど損傷を生じなかったが、海光丸は、左舷船尾部を圧壊し、のち廃船とされた。また、海光丸の同乗者Cが衝突の衝撃で39日間の入院加療を要する右鎖骨遠位端粉砕骨折、頭部挫傷及び皮下血腫を負った。


(原因)
本件衝突は、長崎県平戸島薄香湾内において、漁場に向けて航行中の正栄丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中の海光丸を避けなかったことによって発生したが、海光丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、長崎県平戸島薄香湾内において、1人で操船に当たって薄香湾漁港から漁場に向けて航行する場合、船首が浮上して船首方向に死角を生じ、見通しが妨げられる状況であったから、前路の他船を見落とすことのないよう、船首を左右に振るなどの船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、西防波堤灯台に並航するころ前方をいちべつして他船が見当たらなかったことから、前路に他船はいないものと思い、船首を左右に振るなどの船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊して魚釣り中の海光丸に気付かず、同船を避けることができないまま進行して衝突を招き、海光丸の左舷船尾部を圧壊して廃船とさせ、同船のC同乗者に右鎖骨遠位端粉砕骨折、頭部挫傷及び皮下血腫を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、長崎県平戸島薄香湾内において、錨泊して魚釣り中、薄香湾漁港の西防波堤の内側から自船の方に向かってくる正栄丸を認めた場合、同船と衝突のおそれがあるかどうかを判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船が禁漁区域の近くに錨泊していたことから、正栄丸は注意しにきたもので、自船に近づけば停止するか、避けるかするものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、正栄丸が避航する気配を見せないで間近に接近したとき、機関を使用するなどの同船との衝突を避けるための措置をとることができないまま、錨泊して魚釣りを続け、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。

以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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