日本財団 図書館




2000年(平成12年)

平成11年長審第68号
    件名
漁船利栄丸漁船八幡丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年3月22日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

坂爪靖、安部雅生、原清澄
    理事官
小須田敏

    受審人
A 職名:利栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:八幡丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
利栄丸・・・右舷船首部に擦過傷
八幡丸・・・左舷船尾部を大破、舵板折損、のち廃船処理、船長が、入院加療とその後の通院治療を要する前頭部割創、頚椎捻挫

    原因
利栄丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
八幡丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、利栄丸が、見張り不十分で、ほとんど停留中の八幡丸を避けなかったことによって発生したが、八幡丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年7月22日12時05分
長崎県有家漁港南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船利栄丸 漁船八幡丸
総トン数 4.8トン 1.01トン
登録長 10.90メートル 5.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 25 5
3 事実の経過
利栄丸は、船体中央部に操舵室を設けたFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、たい引網漁を行う目的で、船首0.20メートル船尾0.60メートルの喫水をもって、平成10年7月22日08時00分長崎県布津漁港を発し、同県有家漁港東方1.7海里ばかりの漁場に向かった。
08時10分A受審人は、漁場に至って操業を開始し、その後、有家漁港南方沖合へと漁場を移動しながら操業を繰り返していたところ、11時00分ごろ同業船から知人の息子が自船に乗り込み、他の同業船あてに親族の危篤を無線で連絡して欲しい旨依頼されたので、その旨連絡を行ったのち、漁獲が雑魚約20キログラムと思わしくなかったので操業を打ち切り、同時10分堂崎港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から215度(真方位、以下同じ。)1.0海里の地点に移動し、漂泊して同業船の帰りを待ち受けた。

11時40分ごろA受審人は、到来した同業船に知人の息子を乗り移らせて帰航することとし、同時58分わずか過ぎ西防波堤灯台から227度1.5海里の地点を僚船日吉丸とともに発進して帰途についた。
ところで、利栄丸は、船首甲板後端から操舵室前面付近にかけての前部甲板上に、高さが同室前面の下部窓枠ほどで、幅が同室ほどの網捌(さば)きローラー用架台を設け、その上部に同ローラー、同ローラー駆動用歯車装置などを設置していたので、操舵位置からは船首方向に死角を生じて見通しが妨げられる状況であった。
発進後、A受審人は、針路を060度に定めて手動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの南西流に抗して9.3ノットの速力で進行し、12時03分わずか前西防波堤灯台から214度1,450メートルの地点に達したとき、正船首600メートルのところに、船尾を向けてほとんど停留状態の八幡丸を視認でき、その後、同船にほぼ向首して衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、発進したとき、前方に他船が見当たらなかったことから、前路に他船はいないものと思い、時々操舵室の右舷側から顔を出して前方を見るだけで、船首を左右に振るなどの船首死角を補う見張りを十分に行うことなく、八幡丸の存在に気付かないで、やがて自船の左舷側50メートルばかりを並走する日吉丸の船長が無線で前路に他船がいる旨を連絡してきたことにも気付かないまま続航した。
A受審人は、船首死角を補う見張りを十分に行っていなかったので、八幡丸を避けることができないまま進行中、12時05分西防波堤灯台から198度950メートルの地点において、原針路、原速力のまま、利栄丸の船首が八幡丸の左舷船尾に後方から15度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、付近海域には0.7ノットの南西流があった。
また、八幡丸は、船体中央からやや後方に機関室を設け、一本釣り漁業に従事する木製和船型漁船で、B受審人が1人で乗り組み、べらを釣る目的で、船首0.43メートル船尾0.85メートルの喫水をもって、同日10時00分有家漁港を発し、前示衝突地点付近の漁場に向かった。
10時10分B受審人は、漁場に至って船尾甲板左舷側に船首方を向いて座り、潮に立てるために機関を低速回転にかけ、船首を北東方に向けてほとんど停留状態とし、左手で釣り糸を持ち、右手で舵柄を操作しながら釣りを始めた。

B受審人は、右舷前方の数隻のたこ釣り漁船などを見ながら釣りを行っていたところ、11時45分ごろ衝突地点付近から南西方へ200メートルばかり圧流されたので潮上りし、同時55分ごろ同地点付近に戻って再び釣りを始めた。
12時03分わずか前B受審人は、船首を045度に向けて船首方を見ながら釣りを行っていたとき、左舷船尾15度600メートルのところに、自船に向けて接近する利栄丸を視認でき、その後、同船が自船にほぼ向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、ほぼ停留状態の自船に向けて接近してくる他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、利栄丸に気付かないまま釣りを続けた。
B受審人は、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、避航の気配を見せずに接近する利栄丸に気付かず、機関を使用するなどの衝突を避けるための措置をとることができないまま魚釣り中、12時05分わずか前同船の機関音に気付き、後ろを振り向いて左舷船尾至近に迫った同船を認めたが、どうすることもできず、前示のとおり衝突した。

衝突の結果、利栄丸は、右舷船首部に擦過傷を生じたのみであったが、八幡丸は、左舷船尾部を大破したほか、舵板折損などを生じ、来援した利栄丸の僚船により有家漁港に曳(えい)航され、のち廃船処理された。また、B受審人は、衝突の衝撃で2箇月10日間の入院加療とその後の通院治療を要する前頭部割創、頚椎捻挫などを負った。

(原因)
本件衝突は、長崎県有家漁港南方沖合において、航行中の利栄丸が、見張り不十分で、前路でほとんど停留して一本釣り漁に従事中の八幡丸を避けなかったことによって発生したが、八幡丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、長崎県有家漁港南方沖合において、漂泊状態から発進したのち、同県布津漁港に向けて帰航する場合、船首方向に死角を生じて見通しが妨げられる状況であったから、前路の他船を見落とすことのないよう、船首を左右に振るなどの船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、発進したとき、前方に他船が見当たらなかったことから、前路に他船はいないものと思い、船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路でほとんど停留して一本釣り漁に従事中の八幡丸に気付かず、同船を避けることができないまま進行して衝突を招き、利栄丸の右舷船首部に擦過傷を生じさせ、八幡丸の左舷船尾部大破などにより同船を廃船とさせ、B受審人に前頭部割創、頚椎捻挫などを負わせるに至った。

以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、長崎県有家漁港南方沖合において、ほとんど停留して一本釣り漁に従事する場合、接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、ほとんど停留状態の自船に向けて接近してくる他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、避航の気配を見せずに接近する利栄丸に気付かないまま、一本釣り漁を続けていて衝突を招き、前示の損傷を生じさせ、自らは負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION