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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年8月30日08時30分 鹿児島県立目埼西方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船第三十三昌徳丸 総トン数 19トン 登録長 19.11メートル 機関の種類 ディーゼル機関 漁船法馬力数
190 船種船名 プレジャーボート第八優美号 総トン数 4.2トン 登録長 11.36メートル 機関の種類
ディーゼル機関 漁船法馬力数
80 3 事実の経過 第三十三昌徳丸(以下「昌徳丸」という。)は、FRP製の中型まき網漁業付属運搬船で、A及びB両受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.8メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成10年8月29日16時30分鹿児島県枕崎漁港を発し、志布志湾南方沖合5.0海里ばかりの漁場に向かい、22時00分ごろ同漁場付近に到着して錨を投入して休息し、翌30日01時00分積み込みの準備を行ったのち、02時30分積み込みを開始し、あじ及びさば約25トンを載せ、04時30分火埼灯台から199度(真方位、以下同じ。)4.2海里の地点を発進し、水揚げのため同県山川漁港へ向かった。 ところで、A受審人は、航海当直について、主として自らとB受審人の2人で、単独の輪番制で行い、状況に応じて甲板員のうちの1人が加わることにしていたが、各人の当直時間を定めず、当直の交替については、当直者が適宜睡眠中の者を起こして都度眠気の有無を確認したうえ同意を得て行うなり、代わって自らが行うなりすることにしていた。 A受審人は、発航とともに単独で当直に就き、大隅半島沿いに南下し、06時30分佐多岬灯台から066度10.5海里ばかりの地点に達したとき、当直交替のため昇橋したB受審人にいつものように眠気の有無を確認した後、眠気を催したら起こすよう同人に指示して当直を任せ、自室で休息した。 B受審人は、07時55分佐多岬灯台から245度1,000メートルの地点において、針路を001度に定め、機関を全速力前進にかけ、8.7ノットの対地速力とし、自動操舵に切り替え、操舵室中央部やや右舷寄りの操舵輪の後方に設置してあるいすに腰掛けて当直にあたった。 B受審人は、08時10分ごろ未明からの魚の積み込み作業とその後の後片付け、食事の準備等に続く航海当直で、眠気を催したが、もう間もなく入港だからなんとか我慢できるものと思い、A受審人を起こして当直を交替するなどして、居眠り運航を防止する措置をとることなく、いすに腰掛けたまま、見張りにあたって進行し、いつしか居眠りに陥った。 B受審人は、08時27分立目埼灯台から212度750メートルの地点に達したとき、正船首800メートルのところにほぼ北を向いている第八優美号(以下「優美号」という。)を視認することができ、同船が錨泊中であることを表示する形象物を掲げていなかったものの、波がなく、航跡を認めず、船首の向きが変わらないなど動きがないことから、やがて錨泊していると認められる状況で、その後同船に向首したまま、衝突のおそれがある態勢で接近したが、居眠りに陥っていてこれに気付かず、優美号を避けることができないまま進行中、08時30分立目埼灯台から313度500メートルの地点において、昌徳丸は、原針路、原速力のまま、その船首が優美号の船尾左舷に後方から平行に衝突した。 当時、天候は晴で風はなく、潮候は上げ潮の中央期で、視界は良好であった。 A受審人は、B受審人から衝突したことを知らされ、直ちに操舵室に赴き、事後の措置にあたった。 また、優美号は、モーターホーン及び号鐘を装備したFRP製小型遊漁兼用船で、C受審人が1人で乗り組み、友人3人を同乗させ、遊漁の目的で、船首0.45メートル船尾0.30メートルの喫水をもって、同月29日09時00分鹿児島県加治木港を発し、同時20分鹿児島港に寄港して氷を積み込んだ後、同時40分同港を発航し、11時20分釣り場に到着して、前示衝突地点付近において、水深50メートルの地点に重量10キログラムの四爪錨を投入したうえ、錨索を150メートル延出して錨泊し、錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げずに魚釣りを開始した。 C受審人は、同乗者とともに夜半に至るまで魚釣りをしたあと、仮眠をとり、翌30日06時30分ごろ釣りを再開し、08時06分ごろ船首がほぼ北方を向き、左舷側船尾甲板上に座って釣りをしていたとき、右舷側船尾甲板上に座って釣りをする同乗者の指摘で、正船尾3.5海里ばかりのところに自船に向かって接近する昌徳丸とこれと併走する第三船を初めて認めた。 C受審人は、08時23分少し過ぎ両船が1.0海里ばかりに接近して第三船が左転して自船を避航したものの、昌徳丸が一向に自船を避ける気配がないまま接近し、同時27分同船が正船尾800メートルに近づき、その後自船に向かって衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めたが、付近を通航する他の船舶が間近で自船を避けていったところから、いずれ間近に接近してから自船を避けてくれるものと思い、モーターホーンなどを使用して注意喚起信号を行うことなく、見守っていたところ、同時29分少し過ぎ昌徳丸が200メートルとなり、衝突の危険を感じて同乗者とともに立ち上がったうえ、手を振って大声で叫び続けたものの効なく、同時30分少し前船首方に退避したとき、優美号は、001度に向首して前示のとおり衝突した。 衝突の結果、昌徳丸は、損傷を生じなかったが、優美号は、操舵室の旋回窓及び窓ガラスを損壊して船尾左舷外板に亀裂を生じ、のち修理され、衝突の衝撃で優美号の同乗者1人が海中に転落したが、優美号に救助された。
(原因) 本件衝突は、立目埼西方沖合において、昌徳丸が、漁場から帰航中、居眠り運航の防止措置が不十分で、錨泊中の優美号を避けなかったことによって発生したが、優美号が、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) B受審人は、立目埼西方沖合において、漁場から帰航中、眠気を感じた場合、A受審人から同人を起こすよう指示されていたのだから、居眠り運航とならないよう、A受審人を起こして同人と当直を交替するなどして、居眠り運航を防止する措置をとるべき注意義務があった。しかるに、B受審人は、もう間もなく入港だからそれまでなんとか我慢できるものと思い、居眠り運航を防止する措置をとらなかった職務上の過失により、いすに腰掛けたまま、見張りにあたって進行し、いつしか居眠りに陥り、錨泊中の優美号に気付かず、同号を避けることができないまま進行して同号との衝突を招き、優美号の操舵室の旋回窓及び窓ガラスを損壊し、船尾左舷外板に亀裂を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 C受審人は、立目埼西方沖合において、錨泊して魚釣り中、自船に向かって衝突のおそれがある態勢で接近する他船を認めた場合、モーターホーンなどを使用して注意喚起信号を行うべき注意義務があった。しかるに、C受審人は、付近を通航する他の船舶が間近で自船を避けていったところから、いずれ昌徳丸も間近に接近してから自船を避けてくれるものと思い、注意喚起信号を行わなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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