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2000年(平成12年)

平成11年門審第80号
    件名
瀬渡船第十八海竜丸防波堤衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年3月15日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

清水正男、阿部能正、供田仁男
    理事官
伊東由人

    受審人
A 職名:第十八海竜丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
海竜丸・・・船首に破口を伴う凹損、釣り客1人が顔面挫創及び外傷性頚部症候群、同1人が右肩打撲及び右下腿挫創並びに同1人が右肘打撲、臀部打撲、右第8肋骨骨折及び左肩挫傷

    原因
針路保持不十分

    主文
本件防波堤衝突は、針路の保持が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年10月3日04時45分
大分県大分港
2 船舶の要目
船種船名 瀬渡船第十八海竜丸
総トン数 4.4トン
登録長 9.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 169キロワット
3 事実の経過
第十八海竜丸(以下「海竜丸」という。)は、専ら大分県大分港の港内において釣り客の瀬渡しに従事する小型遊漁兼用船で、A受審人が1人で乗り組み、釣り客11人及び友人1人を乗せ、同港内の各防波堤への瀬渡しの目的で、船首0.6メートル船尾0.9メートルの喫水をもって、平成10年10月3日04時15分同港大在泊地の公共桟橋を発し、大分港大在西地区中防波堤(以下「中防波堤」という。)に向かった。
ところで、中防波堤は、設置されたケーソンの上部にコンクリートのかさ上げ工事が行われており、その西端から東側135メートルまでは同工事が未了で、未了部分は基本水準面からの高さが3.4メートルで、その西端には株式会社ゼニライト ブイ製のゼニライトE−1型と称する灯高が約1.4メートルの黄色点滅式小型標識灯(以下「標識灯」という。)が設置されていた。

A受審人は、中防波堤の南側3箇所で合計6人、更に西方の大分港6号地第2西防波堤で2人の釣り客を瀬渡ししたのち、04時39分同防波堤を発進し、同港大在泊地中防波堤の東端で残りの3人の釣り客を瀬渡しするため、同防波堤に向かった。
A受審人は、操舵室前面左舷側の舵輪の後方に設置された、甲板上からの高さ90センチメートル(以下「センチ」という。)の操舵席のいすに腰を掛けて操舵に当たり、正船首少し右に標識灯の灯火、右舷前方に大分港大在西地区中防波堤東灯台(以下「防波堤東灯台」という。)の灯火及び日吉原工業団地の照明灯などを認めて東行し、04時44分少し前防波堤東灯台から294度(真方位、以下同じ。)1,240メートルの地点において、針路を中防波堤の北方を経由して同港大在泊地中防波堤の東端に向かう103度に定め、機関回転数を全速力前進より落した毎分1,800にかけ、15.0ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。

04時45分少し前A受審人は、防波堤東灯台から301度730メートルの地点に達したとき、たばこを吸おうとして取り出したライターを床に落して見失い、右舷船首方90メートルの近距離に標識灯の灯火を認めていたが、舵を中央にしておけば舵輪から手を離しても短時間なら直進するから大丈夫と思い、予定針路線から逸脱することのないよう、中防波堤西端を安全に替わすまで舵輪を手にして針路を保持することなく、ライターを捜すこととした。
A受審人は、舵を中央にして舵輪から手を離し、操舵席のいすから下りて身をかがめた際、左肘が舵輪に触れてわずかに右舵がとられ、徐々に右回頭しながら中防波堤西端に向かって進行していることに気付かないまま続航し、04時45分わずか前ライターを見つけて再びいすに腰を掛けたところ、前方至近に標識灯の灯火を認めたものの、どうすることもできず、04時45分防波堤東灯台から302度650メートルの地点において、海竜丸は、船首が136度を向いたとき、原速力のまま、中防波堤西端面のほぼ中央部に80度の角度で衝突した。

当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の末期で、視界は良好であった。
防波堤衝突の結果、海竜丸は船首に破口を伴う凹損を生じたが、のち修理され、釣り客Bが顔面挫創及び外傷性頚部症候群、同Cが右肩打撲及び右下腿挫創並びに同Dが右肘打撲、臀部打撲、右第8肋骨骨折及び左肩挫傷の傷を負った。


(原因)
本件防波堤衝突は、夜間、大分港において、中防波堤の西方海域を東行中、針路の保持が不十分で、徐々に右回頭しながら同防波堤西端に向かって進行したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、大分港において、中防波堤の西方海域を東行中、右舷船首方近距離に同防波堤の標識灯の灯火を認めている場合、予定針路線から逸脱することのないよう、針路を保持すべき注意義務があった。しかるに、同人は、舵を中央にしておけば舵輪から手を離しても短時間なら直進するから大丈夫と思い、中防波堤西端を安全に替わすまで舵輪を手にして針路を保持しなかった職務上の過失により、床に落して見失ったライターを捜すため、舵輪から手を離し、操舵席のいすから下りて身をかがめた際、左肘が舵輪に触れてわずかに右舵がとられ、徐々に右回頭しながら中防波堤西端に向かって進行し、同防波堤との衝突を招き、海竜丸の船首に破口を伴う凹損を生じさせ、釣り客3人に打撲、挫創などの傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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