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2000年(平成12年)

平成11年広審第89号
    件名
貨物船林永漁船(船名なし)衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年3月22日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

横須賀勇一、釜谷奬一、織戸孝治
    理事官
前久保勝己

    受審人
A 職名:林永船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:漁船(船名なし)船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
林永・・・・・・・・左舷船首部外板に擦過傷
漁船(船名なし)・・・左舷船首部ブルワークが損傷

    原因
林永・・・・・・・・見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
漁船(船名なし)・・・見張り不十分、警告信号不履行、各種船間の航法(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、林永が、見張り不十分で、漁ろうに従事している漁船(船名なし)の進路を避けなかったことによって発生したが、漁船(船名なし)が、見張り不十分で、警告する信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年10月27日01時53分
播磨灘南西海域
2 船舶の要目
船種船名 貨物船林永 漁船(船名なし)
総トン数 416トン 4.85トン
全長 58.50メートル
登録長 10.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット
漁船法馬力数 15
3 事実の経過
林永は、船尾船橋型の液体化学薬品ばら積み船で、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま、船首1.6メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、平成10年10月26日20時10分新居浜港を発し、千葉港に向かった。
23時50分A受審人は、南備讃瀬戸大橋を通過したところで船橋当直を一等航海士から引き継いで、航行中の動力船の灯火を表示し、その後備讃瀬戸東航路をこれに沿って東行して、翌27日01時33分地蔵埼灯台から256度(真方位、以下同じ。)2.2海里の地点に達したとき、針路を鳴門海峡に向け112度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて、12.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。

01時41分A受審人は、備讃瀬戸東航路を出たとき、出港前に応急修理した燃料油移送ポンプのことが気になり始め、一瞥して支障となる他船が見当たらなかったことから、機関長を船橋に呼んで、その後操舵スタンド右舷側の機関操縦盤の上に同ポンプの図面を広げて検討を始めた。
01時48分半A受審人は、馬ヶ鼻灯台から358度2.2海里の地点に達したとき、左舷船首2度1.0海里のところに漁ろうに従事している漁船(船名なし、以下「一丸」という。)の緑、白の2灯を視認でき、その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近することを認め得る状況となったが、前示図面の検討に専念して、見張りを十分に行うことなく、一丸に気付かず、同船の進路を避けずに続航中、同時53分わずか前ふと左舷船首方を見たとき至近に一丸の灯火を認めたが、何をするいとまもなく、01時53分林永は、馬ヶ鼻灯台から022度2.0海里の地点において、原針路、原速力のまま、その左舷船首部が一丸の左舷船首部に前方から12度の角度で衝突した。

当時、天候は雨で風はほとんどなく、視界は良好で、潮候は低潮期で潮流はほとんどなかった。
A受審人は、衝撃を感じなかったことから一丸が左舷に替わったと思い続航し、和歌山県市江埼沖を航行中、海上保安部からの連絡で衝突の事実を知った。
また、一丸は、汽笛を装備しない小型底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、船首尾とも0.4メートルの等喫水をもって、えびこぎ網漁を行う目的で、同月26日16時香川県志度港を発し、17時馬ヶ鼻北東沖合の漁場に至って操業を開始した。
ところで、同船の操業模様は、全長40メートルの袋網の開口部に、長さ150メートルの曵網索2本をそれぞれ結び、この他端を船尾甲板に備えつけたブームの先端に固定した状態で曵網するものであった。
翌27日00時00分B受審人は、馬ヶ鼻灯台から069度3.8海里の地点において、マストに緑、白の全周灯を表示し、針路を280度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、1.5ノットの曳網速力で進行した。

01時23分B受審人は、馬ヶ鼻灯台から041度2.3海里に達したとき、操業を終えるつもりで、後部甲板に出て、デッキの水洗いと揚網準備に取り掛かった。
01時48分半B受審人は、馬ヶ鼻灯台から025度2.0海里の地点に達したとき、右舷船首10度1.0海里のところに、林永の表示する灯火を視認でき、その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近することを認め得る状況となったが、自船は操業しているので他船が避けるものと思い、後部甲板で揚網準備に専念して、見張りを十分に行うことなく進行し、林永に気付かず、同船に対して探照灯を照射するなどして警告する信号を行わず、その後衝突を避けるための措置をとらないで曳網中、一丸は、同じ針路、速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、林永は、左舷船首部外板に擦過傷を生じ、一丸は、左舷船首部ブルワークが損傷したが、のちいずれも修理された。


(原因)
本件衝突は、夜間、播磨灘南西海域において、林永が、見張り不十分で、漁ろうに従事している一丸の進路を避けなかったことによって発生したが、一丸が、見張り不十分で、警告する信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、播磨灘南西海域を東行中、前路で漁ろうに従事している一丸を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、発航前に修理した燃料油移送ポンプの図面の検討に専念して、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、一丸に気付かず、同船の進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、林永の左舷船首部外板に擦過傷を、一丸の左舷船首部ブルワーク等の損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、播磨灘南西海域において、漁ろうに従事する場合、林永を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船は操業しているので他船が避けるものと思い、後部甲板で揚網準備に専念し、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、林永に気付かず、衝突を避けるための措置をとることなく進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。

以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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