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2000年(平成12年)

平成11年広審第66号
    件名
貨物船第二十八天神丸貨物船五陽丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年3月22日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

中谷啓二、釜谷奬一、杉崎忠志
    理事官
川本豊

    受審人
A 職名:第二十八天神丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:五陽丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
天神丸・・・船首部左舷外板に破口を伴う凹損、左舷錨を海没
五陽丸・・・船首部外板に凹損

    原因
天神丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守
五陽丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守

    主文
本件衝突は、第二十八天神丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、五陽丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
受審人Bの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年5月7日21時00分
瀬戸内海 播磨灘
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二十八天神丸 貨物船五陽丸
総トン数 457トン 199トン
全長 61.14メートル 51.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 735キロワット
3 事実の経過
第二十八天神丸(以下「天神丸」という。)は、主に備讃瀬戸大槌島東方海域で砂利を採取し、阪神諸港に輸送する砂利採取運搬船で、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま、船首1.2メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成10年5月7日16時20分大阪港を発し、荷役待機をする目的で、岡山県宇野港に向かった。
19時30分ごろA受審人は、家島諸島院下島南方を進行中、機関部員と共に船橋当直に就き、同時37分院下島灯台から159度(真方位、以下同じ。)0.4海里の地点に達したとき、針路を249度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、9.0ノットの対地速力で、所定の灯火を表示し、霧模様で視程が約1.5海里になった播磨灘北西部を西進し、20時30分小豆島北方沖に差し掛かったころ、急激に濃霧となり視程が約50メートルまで低下したことから、機関を半速力に減じて5.0ノットの安全な速力としたものの、霧中信号を開始せず、レーダーを1.5海里レンジとして作動させ続航した。

20時54分A受審人は、備前黄島灯台(以下「黄島灯台」という。)から103度2.8海里の地点に達したとき、レーダーにより左舷船首6度1.5海里のところに、五陽丸の映像を探知することができたが、周囲に他船はいないものと思い、レーダーによる見張りを十分に行うことなく、五陽丸に気付かず当直を続け、同船と著しく接近することを避けることができない状況であったものの、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、また必要に応じて停止することもせず操舵室前部に立って続航中、突然衝撃を感じると同時に五陽丸を初認し、天神丸は、21時00分黄島灯台から110度2.4海里の地点において、原針路、原速力のまま、その左舷船首部に五陽丸の船首が前方から9度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風はほとんどなく、潮候はほぼ高潮時で、視程は約50メートルであった。

また、五陽丸は、主に香川県高松港と阪神諸港間の海砂輸送に従事する石材兼砂利運搬船で、B受審人及びC指定海難関係人ほか3人が乗り組み、砂利700トンを積載し、船首2.8メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、同日19時30分高松港を発し、兵庫県東播磨港に向かった。
B受審人は、出航操船に従事したのち、霧模様であったので引き続き在橋して指揮をとり、当直者のC指定海難関係人を見張りに当たらせ、所定の灯火を表示し、備讃瀬戸東航路を横断して豊島、小豊島間の水路を北上し、20時30分播磨灘北西部の讃岐千振島灯台から329度0.7海里の地点に達したとき、針路を060度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で、そのころ視程が約0.5海里であったものの安全な速力にすることも霧中信号を行うこともせずに進行した。

20時54分B受審人は、黄島灯台から133度1.9海里の地点で、3海里レンジで使用していたレーダーで周囲を観測したとき、右舷船首3度1.5海里のところに、西進中の天神丸の映像を初めて認めたが、同映像を一瞥しただけでまだ距離があるので問題ないと思い、十分に動静を監視することなく、C指定海難関係人がレーダーによる見張りを行えることを知っていたので、同人に気をつけて運航するよう告げたのみで当直を委ね、夕食をとるため降橋した。
C指定海難関係人は、その後1人で操舵室前部に立って前方の見張りを行っていたものの、B受審人から適切な指示がなかったこともあり、レーダーによる見張りを十分に行わなかったので天神丸に気付かず、同船と著しく接近することを避けることができない状況であったが、同船と接近している旨の報告がB受審人に行われず、五陽丸は、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて停止することもせず続航中、視界が急激に悪化し、20時59分C指定海難関係人は、レーダーにより右舷前方0.3海里ばかりに迫った天神丸の映像に初めて気付き、危険を感じて機関を半速力に減じた。

B受審人は、機関音が変化したことに気付き、急ぎ昇橋し、至近に迫った天神丸のレーダー映像を認め全速力後進をかけたが効なく、五陽丸は、原針路のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、天神丸は、船首部左舷外板に破口を伴う凹損を生じ、左舷錨を海没し、五陽丸は船首部外板に凹損を生じたが、のちいずれも修理された。


(原因)
本件衝突は、天神丸及び五陽丸の両船が、霧により視界制限状態にある播磨灘北西部を航行中、天神丸が、霧中信号を行わず、レーダーによる見張り不十分で、五陽丸と著しく接近することを避けることができない状況になった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて停止しなかったことと、五陽丸が、霧中信号を行わず、レーダーにより前路に探知した天神丸に対する動静監視が不十分で、同船と著しく接近することを避けることができない状況になった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて停止しなかったこととによって発生したものである。
五陽丸の運航が適切でなかったのは、船長が、レーダーにより天神丸の映像を認めた際、十分に動静監視を行わず、単独となる当直者に対しレーダーによる見張りについて適切に指示しなかったことと、当直者が、単独の当直に当たり、レーダーによる見張りを十分に行わなかったこととによるものである。


(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、霧により視界制限状態にある播磨灘北西部を西進する場合、前路に接近する五陽丸を見落とすことのないよう、レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、周囲に他船はいないものと思い、レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、五陽丸との衝突を招き、天神丸の左舷錨を海没させ、船首部左舷外板に破口を伴う凹損を、五陽丸の船首部外板に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
B受審人は、夜間、霧により視界制限状態にある播磨灘北西部を東進中、レーダーにより天神丸の映像を認めた場合、同船に著しく接近することとなるかどうかを判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、まだ距離があるので問題ないと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、天神丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。

以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
C指定海難関係人が、夜間、霧により視界制限状態にある播磨灘北西部を東進中、単独の当直に当たった際、レーダーによる見張りを十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
C指定海難関係人に対しては、勧告しない。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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