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2000年(平成12年)

平成11年函審第72号
    件名
油送船光隆丸貨物船第七ふじ丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年3月14日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

酒井直樹、大石義朗、古川隆一
    理事官
東晴二

    受審人
A 職名:光隆丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
C 職名:第七ふじ丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
光隆丸・・・船尾部右舷側ブルワークとその上部の端艇甲板支柱2本に凹損
ふじ丸・・・船尾部左舷側外板に凹損

    原因
光隆丸・・・横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
ふじ丸・・・警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、光隆丸が、前路を左方に横切る第七ふじ丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第七ふじ丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年11月21日13時03分
北海道恵山岬北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 油送船光隆丸 貨物船第七ふじ丸
総トン数 699トン 698トン
全長 74.50メートル 74.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット 1,471キロワット
3 事実の経過
光隆丸は、推進器として可変ピッチプロペラ1個を備え、軽質の石油製品を国内各港に輸送している船尾船橋型の油送船で、A受審人がB指定海難関係人ほか5人と乗り組み、ガソリン基剤2,000キロリットルを載せ、船首3.40メートル船尾4.40メートルの喫水をもって、平成9年11月19日15時40分千葉港を発し、北海道苫小牧港に向かった。
ところでA受審人は、航海中の船橋当直を同人、一等航海士及びB指定海難関係人の3人による単独4時間当直の三直制で行っており、B指定海難関係人が無資格であることから、接近する他船を認めたときや視界不良時には速やかに船長に報告して操船指揮を要請することなどの船橋当直中の注意事項を操舵室内に掲示して同指定海難関係人に当直を任せていた。

A受審人は、浦賀水道を出航したのち房総半島及び本州の東岸に沿って北上し、同月21日08時00分青森県白糠漁港の南東方13海里ばかりのところで昇橋し、一等航海士から当直を引き継いで単独船橋当直に就き、11時30分恵山岬灯台から119度(真方位、以下同じ。)12.2海里の地点に達したとき、針路を北海道渡島の恵山岬の東方8海里ばかりのところに向く342度に定め、機関を回転数毎分235にかけ、プロペラ翼角を前進18度の全速力とし、12.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
A受審人は、12時00分恵山岬灯台から091度8.9海里の地点に達したとき、昼食を終えて昇橋した次直のB指定海難関係人に当直を任せることとし、前示針路及び速力と恵山岬灯台に並航予定時刻の同時15分に苫小牧港向け015度に転針することなどの引継ぎ事項を指示した。しかし、同受審人は、付近に他船が認められず、船橋当直中の注意事項を操舵室内に掲示していることから、新たに口頭で指示しなくても大丈夫と思い、接近する他船を認めたときは速やかに報告するよう指示することなく、同指定海難関係人に当直を任せて降橋し、食堂に赴いて昼食をとり始めた。

B指定海難関係人は、単独当直に就いたのち操舵室内を移動しながら周囲の見張りに当たり12時15分恵山岬灯台から071度8.4海里の地点に達したとき、自動操舵のまま針路を015度に転じて間もなく右舷船首68度3.2海里のところに北上中の第七ふじ丸(以下「ふじ丸」という。)を初めて認め、その動静監視に当たって続航した。
B指定海難関係人は、12時45分恵山岬灯台から048度12.8海里の地点に達したとき、同船の方位が変わらず1.2海里に認められるようになり、前路を左方に横切る態勢で接近することを知ったが、いずれ同船が自船と同様に苫小牧港に向けて右転し、無難に右方に替わってゆくものと思い、同船の接近模様を船長に報告しなかったため、早期に減速するなどの同船の進路を避ける措置がとられないまま続航中、13時02分半、ふじ丸が右舷前方60メートルに接近したとき、衝突の危険を感じてプロペラ翼角を前進9度7ノットばかりの半速力に減じて進行した。

A受審人は昼食を終えて自室で休息中、機関音の変化を感じて急ぎ昇橋し、13時03分少し前、右舷前方30メートルに迫ったふじ丸を初めて認め、左舵一杯をとったが及ばず、13時03分恵山岬灯台から041度15.8海里の地点において、005度に向いた光隆丸の船尾部右舷側が、10.0ノットの前進速力で、ふじ丸の船尾部左舷側に後方から20度の角度をもって衝突した。
当時、天候は曇で、風力2の南西風が吹き、潮候はほぼ低潮時で、視界は良好であった。
また、ふじ丸は、主として北海道南部の各港から千葉港に山砂を輸送している船尾船橋型の鋼製貨物船で、C受審人がほか5人と乗り組み、空倉のまま、船首2.30メートル船尾4.60メートルの喫水をもって、同月19日13時35分千葉港を発し、北海道白老港に向かった。
C受審人は、浦賀水道を出航したのち船橋当直を同人、一等航海士及び次席一等航海士の3人による単独4時間当直の三直制として房総半島及び本州の東岸に沿って北上し、同月21日09時55分青森県尻屋埼を左舷側2海里ばかりに通過したのち恵山岬の東方11海里ばかりのところに向け北上を続け、11時45分恵山岬灯台から101度12.0海里の地点に達したとき、昇橋して針路を北海道白老港に向く355度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。

定針後C受審人は、08時ごろから船橋当直に就いている一等航海士に当直を委ねて降橋し、昼食を済ませたのち12時45分恵山岬灯台から051度13.8海里の地点に達したとき、再び昇橋して一等航海士から当直を引き継いだ。
当直を引き継いだときC受審人は、左舷正横の後方2度1.2海里のところに、前路を右方に横切る態勢で北上中の光隆丸を初めて認め、その動静監視に当たっていたところ、その後同船の方位が変わらず衝突のおそれのある態勢で接近していることを知り、同時57分同船が左舷側方750メートルに認められるようになった。しかし、同人は、光隆丸が避航船であることから、いずれ左転して自船を避航してくれるものと思い、警告信号を吹鳴せず、13時01分光隆丸が左舷側方250メートルに接近したとき、その操舵室内に人影を認めたことから、依然、同船の避航動作を期待し、速やかに右転するなどの衝突を避けるための協力動作をとらないまま続航中、13時02分半、左舷側60メートルに迫っても避航する気配が無いことに気付いて衝突の危険を感じ、全速力のまま右舵一杯をとり、次いで舵中央に戻したが、同時03分船首が025度を向いて前示のとおり衝突した。
衝突の結果、光隆丸は、船尾部右舷側ブルワークとその上部の端艇甲板支柱2本に凹損を生じ、ふじ丸は、船尾部左舷側外板に凹損を生じたが、のち損傷部は修理された。


(原因)
本件衝突は、北海道恵山岬北東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、光隆丸が、前路を左方に横切るふじ丸の進路を避けなかったことに因って発生したが、ふじ丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
光隆丸の運航が適切でなかったのは、船長が無資格の甲板長に船橋当直を任せて降橋する際、接近する他船を認めたときは速やかに報告するよう指示しなかったことと、同船橋当直者が、ふじ丸の接近模様を船長に報告しなかったこととによるものである。


(受審人等の所為)
A受審人は、北海道恵山岬北東方沖合を北上中、無資格の甲板長に船橋当直を任せて降橋する場合、接近する他船を認めたときは速やかに報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、接近する他船を認めたときや視界不良時には直ちに船長に報告して操船指揮を要請することなどの船橋当直中の注意事項を操舵室内に掲示していることから、新たに口頭で指示しなくても大丈夫と思い、接近する他船を認めたときは速やかに報告するよう指示しなかった職務上の過失により、ふじ丸が前路を左方に横切る態勢で接近する旨の報告が得られず、同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き、光隆丸の船尾部右舷側ブルワークとその上部の端艇甲板支柱2本に凹損を生じさせ、ふじ丸の船尾部左舷側外板に凹損を生じさせるに至った。

以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、船橋当直に就いて北海道恵山岬北東方沖合を北上中、ほぼ左舷正横に前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する光隆丸を認め、さらに接近するも避航の気配が認められない場合、速やかに警告信号を吹鳴し、右転するなどの衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、同船は避航船であるからいずれ左転して自船を避航してくれるものと思い、右転するなどの衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、協力動作をとることなく進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

B指定海難関係人が、単独船橋当直に就いて北海道恵山岬北東方沖合を北上中、右舷前方に前路を左方に横切る態勢で接近するふじ丸を認めた際、同船の接近模様を船長に報告しなかったことは本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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