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2000年(平成12年)

平成11年函審第68号
    件名
漁船第百二十八大安丸漁船第二十一萬盛丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年3月2日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大石義朗、酒井直樹、古川隆一
    理事官
東晴二

    受審人
A 職名:第百二十八大安丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:第百二十八大安丸一等航海士兼漁労長 海技免状:四級海技士(航海)
C 職名:第二十一萬盛丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
大安丸・・・船首部外板及び球状船首に凹損
萬盛丸・・・左舷側中央部の水面下の外板に大破口、浸水して沈没

    原因
大安丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守(主因)
萬盛丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第百二十八大安丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことによって発生したが、第二十一萬盛丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことも一因をなすものである。
受審人Aの三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
受審人Bを戒告する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年2月5日13時00分
千島列島北部幌筵(ぱらむしる)島東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第百二十八大安丸 漁船第二十一萬盛丸
総トン数 279トン 186トン
全長 58.76メートル 39.56メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,912キロワット 698キロワット
3 事実の経過
第百二十八大安丸(以下「大安丸」という。)は、推進器として可変ピッチプロペラ1個を備え、遠洋底びき網漁業に従事する船首船橋型の鋼製漁船で、A受審人、B受審人ほか18人が乗り組み、ロシア連邦の漁業監督官1人を乗せ、操業の目的をもって、船首3.0メートル船尾7.4メートルの喫水で、平成10年1月28日15時15分北海道釧路港を発し、越えて2月1日00時15分千島列島北部幌筵島南方沖合の漁場に至り、投網を開始し、操業に従事したのち同月5日11時15分北緯49度51.3分東経156度27.0分の地点を発進し、北方20海里ばかりの漁場に向け移動を開始した。

A受審人は、発進時から船橋当直に当たり、次の投網地点を決めるため在橋していたB受審人を見張りに就け、機関を回転数毎分300にかけ、プロペラ翼角を前進23度の全速力とし、9.6ノットの対地速力で自動操舵により北上し、12時30分北緯50度03.0分東経156度23.0分の地点に達したとき、針路を自動操舵のまま030度(真方位、以下同じ。)に定め、プロペラ翼角を前進7度の微速力に減じ、折からの北北西の季節風により30度ばかり右方に圧流されながら、5.0ノットの対地速力で進行した。
A受審人は、発進時から雪により時々視界が制限される状況となっていたので、航行中の動力船の灯火を表示したほか作業灯16個を点灯し、操舵室内中央前面に設置された主レーダーにより見張りを行い、レンジを種々切り替えてみた。しかし、同人は、主レーダー画面上に他船の映像を認めなかったことから、付近に他船はいないものと思い、主レーダーの感度調整を適切に行わなかったので、第二十一萬盛丸(以下「萬盛丸」という。)の映像を認めることができず、やがて吹雪となり、視程が約50メートルに狭められたが、霧中信号を行うことなく続航した。

B受審人は、操舵室内左舷側後部の主レーダーから映像信号を受けているレーダー監視装置で見張りの補助に当たっていたところ、他船の映像が同監視装置の画面上に認められなかったものの、A受審人が主レーダーの感度調整に慣れているから大丈夫と思い、同人に対してレーダーの感度調整を適切に行うよう助言することなく、主レーダーと同じ状態の画面で見張りの補助を続けていた。
12時54分A受審人は、右舷船首45度840メートルのところにレーダーで、延縄を揚縄しながら低速力で北方に進行中の萬盛丸の映像を認めることができ、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、依然、レーダーの感度調整を適切に行わず、見張りを十分に行わなかったので、同船の映像を認めることができず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく進行中、13時00分少し前、右舷船首至近のところに萬盛丸の船体を認め、左舵一杯、プロペラ翼角を15度の全速力後進としたが、13時00分北緯50度04.1分東経156度26.1分の地点において、030度を向いた大安丸の右舷船首が5.0ノットの対地速力で、萬盛丸の左舷側中央部付近に後方から50度の角度で衝突した。

当時、天候は雪で風力7の北北西風が吹き、視程は約50メートルであった。
また、萬盛丸は、推進器として可変ピッチプロペラ1個を備え、バウスラスター及びスターンスラスターを装備し、延縄漁業に従事する中央船橋型の鋼製漁船で、C受審人、D指定海難関係人ほか14人が乗り組み、ロシア連邦の漁業監督官1人を乗せ、操業の目的をもって、船首2.3メートル船尾4.0メートルの喫水で、同年1月30日11時00分北海道花咲港を発し、越えて2月1日16時ごろ千島列島北部幌筵島東方沖合の漁場に至り、投縄を開始し、漁場を移動しながら操業に従事した。
D指定海難関係人は、同月5日06時00分投縄航行の操船に当たり、北緯50度08.0分東経156度30.0分ばかりの地点に達したとき、南西方に向け延縄の投縄を開始し、1連の長さ3海里ばかりの延縄を投縄したのち、南方に向け第2連の延縄を投縄し、更にその南端から南西方に向け第3連の延縄を投縄して07時00分北緯50度00.0分東経156度23.4分の地点で投縄を終了し、漂泊待機した。

10時00分C受審人は、航行中の動力船の灯火を表示したほか作業灯10個を点灯したものの、漁労に従事している船舶の形象物を掲げずに揚縄航行の操船に当たり、投縄終了地点から第3連の揚縄を開始して北東方に向け進行中、11時半ごろ昇橋したD指定海難関係人に揚縄航行の操船を委ね、同人が揚縄航行の経験が豊富であるから任せておいても大丈夫と思い、視界制限状態となったら報告するよう指示することなく、操舵室後部の作業室に赴いて延縄の整理作業を始めた。
揚縄航行の操船を引き継いだD指定海難関係人は、操舵室内前部右舷側のいすに腰を掛け、前部上甲板右舷側のラインホーラーから揚がってくる延縄を見ながら、遠隔操舵装置と可変ピッチプロペラを適宜使用して続航中、12時16分北緯50度03.0分東経156度26.1分の地点に達したとき、進路を360度に定め、延縄の方向に沿って左右に20度ばかり船首を振りながら1.5ノットの対地速力で進行した。

こうして、D指定海難関係人は、12時半ごろ吹雪となり、視程が約50メートルに狭められたが、C受審人に視界制限状態となった旨を報告することなく、霧中信号を行わないまま続航中、同時54分船首が360度を向いたとき、左舷正横後10度840メートルに大安丸のレーダー映像を認めることができるようになり、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、ラインホーラーから揚がってくる延縄に気を取られ、レーダーによる見張りを十分に行わなかったので、同船の映像に気付かないまま続航中、13時00分突然衝撃を受け、前示のとおり衝突した。
C受審人は、作業室で延縄の整理作業中、左舷側中央部通路にいた甲板員の大声を聞いて左舷側の通路に出たとき、至近に迫った大安丸の船首を初めて認めたが、何をすることもできず、急ぎ昇橋し、乗組員から機関室に激しく浸水している旨の報告を受け、沈没の危険を感じて膨脹式救命いかだを投下させ、離船を命じた。

衝突の結果、大安丸は、船首部外板及び球状船首に凹損を生じたが、のち修理され、萬盛丸は、左舷側中央部の水面下の外板に大破口を生じ、浸水して沈没し、乗組員及びロシア連邦の漁業監督官は、全員膨脹式救命いかだに移乗し、大安丸に救助された。

(原因)
本件衝突は、吹雪による視界制限状態の千島列島北部幌筵島東方沖合において、漁場移動航行中の大安丸が、霧中信号を吹鳴せず、レーダーによる見張りが不十分で、漁労に従事している船舶の形象物を掲げないまま延縄揚縄中の萬盛丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことによって発生したが、萬盛丸が、霧中信号を吹鳴せず、レーダーによる見張りが不十分で、大安丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、行きあしを止めなかったことも一因をなすものである。
大安丸の運航が適切でなかったのは、船長が、主レーダーの感度調整を適切に行わなかったことと、主レーダーから映像信号を受けているレーダー監視装置で見張りの補助に当たっていた漁労長が、主レーダーの感度調整を適切に行うよう船長に助言しなかったこととによるものである。

萬盛丸の運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対して視界が制限される状況になった際、報告するよう指示しなかったことと、船橋当直者が、視界が制限される状況になった際、船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、吹雪による視界制限状態の千島列島北部幌筵島東方沖合において、漁場移動航行する場合、右方から接近する萬盛丸の映像を見落とすことのないよう、主レーダーの感度調整を適切に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、主レーダー画面上に他船の映像を認めなかったことから、付近に他船はいないものと思い、主レーダーの感度調整を適切に行わなかった職務上の過失により、萬盛丸の映像を認めることができず、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かないで、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めないまま進行して同船との衝突を招き、大安丸の船首部ブルワーク及び球状船首に凹損を生じさせ、萬盛丸の左舷中央部の水面下の外板に大破口を生じさ

せて浸水沈没させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
B受審人は、吹雪による視界制限状態の千島列島北部幌筵島東方沖合において、漁場移動航行中、船長が見張りに使用している主レーダーから映像信号を受けているレーダー監視装置で見張りの補助に当たっているとき、同監視装置の画面上に他船の映像を認めなかった場合、接近する萬盛丸の映像を見落とすことのないよう、船長に対して主レーダーの感度調整を適切に行うよう助言すべき注意義務があった。しかるに、B受審人は、船長が主レーダーの感度調整に慣れているから大丈夫と思い、同人に対して主レーダーの感度調整を適切に行うよう助言しなかった職務上の過失により、萬盛丸の映像を認めることができないまま進行して同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。

以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、千島列島北部幌筵島東方沖合において、延縄を揚縄しながら航行中、漁労長に操船を委ねる場合、視界制限時に自ら操船の指揮を執ることができるよう、視界制限状態となったら報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、漁労長が揚縄航行の経験が豊富であるから任せておいても大丈夫と思い、視界制限状態となったら報告するよう指示しなかった職務上の過失により、視界制限状態となった旨の報告が得られず、自ら操船の指揮を執れないまま進行して大安丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

D指定海難関係人が、揚縄航行の操船中、吹雪により視界制限状態となった際、船長に報告しなかったことは、本件発生の原因となる。
D指定海難関係人に対しては、勧告しない。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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