|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年4月28日10時30分 長崎県島原新港東方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船富陽丸 プレジャーボート睦丸 総トン数 1.1トン 全長 7.90メートル 登録長 6.80メートル
3.75メートル 機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関 出力 58キロワット
7キロワット 3 事実の経過 富陽丸は、船体中央部やや後方の甲板上に高さ約1.1メートルの操縦台を設けたFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、ぐちの一本釣り漁を行う目的で、船首0.30メートル船尾0.80メートルの喫水をもって、平成10年4月28日07時00分長崎県島原市船泊町の船溜まりを発し、同県島原新港東方沖合の漁場に向かった。 07時30分A受審人は、島原新港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)の北東方1,000メートルばかりの漁場に至り、多数の漁船やプレジャーボートとともに機関を中立運転として操業を始め、その後、これらの他船と同様に潮上りを繰り返していたところ、南防波堤灯台から118度(真方位、以下同じ。)1,000メートルの地点まで流されたので、改めて潮上りすることとし、10時27分半機関回転数を毎分1,500にかけて針路を357度に定め、折りからの南東方に向かう潮流によって3度右方に圧流されながら、付近にわかめやのりの養殖場を示す標識が点々とあり、速力を出して航行できないので、5.9ノットの対地速力とし、操縦台の後方に立って手動操舵で進行した。 潮上りを始めたころA受審人は、正船首490メートルのところに漂泊中の睦丸を視認できる状況であったが、前路至近の状況を確認しただけで、自船の針路上に他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行うことなく、睦丸に気付かないまま続航し、まもなく針路の左舷側至近に設けられた刺し網の存在を示す旗竿を認め、同竿との航過距離を保つことに気をとられ、左舷方を向いたまま進行中、10時30分わずか前船首至近に睦丸の船体を認め、急いで右舵一杯としたが、及ばず、原針路、原速力のまま、10時30分南防波堤灯台から090度880メートルの地点において、富陽丸の船首部が睦丸の右舷中央部外板にほぼ直角に衝突した。 当時、天候は晴で風はなく、潮候は下げ潮の初期で、南東方に流れる約0.5ノットの潮流があり、視界は良好であった。 また、睦丸は、和船型のFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、ぐちを釣る目的で、船首0.15メートル船尾0.18メートルの喫水をもって、同日07時30分長崎県南高来郡有明町湯江栗谷川河口の係船地を発し、島原新港沖合の釣り場に向かった。 07時50分B受審人は、南防波堤灯台から052度1,100メートルばかりの釣り場に至って機関を停止し、漂泊しながら釣りを始め、多数の漁船やプレジャーボートと同様に潮流で流されると元の地点まで潮上りをしながら釣りを続け、10時27分半南防波堤灯台から088.5度850メートルの地点まで流され、船首を087度に向けた状態で、船尾左舷側に腰を掛け、左舷方を向いて手釣りをしていたとき、右舷正横490メートルのところに、潮上り中の富陽丸を視認できる状況にあったが、接近する他船は漂泊中の自船を避けるものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、釣りに熱中していて接近する富陽丸に気付かなかった。 B受審人は、機関を使用するなどの衝突を避けるための措置がとれないまま漂泊中、他船が接近する気配を感じて後方を振り返ったところ、10時30分わずか前右舷正横至近に富陽丸の船首部を認めたが、どうする暇もなく、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、富陽丸は、船首部に擦過傷を生じたのみであったが、睦丸は、右舷中央部外板などに破口と亀裂を生じて転覆し、のち修理された。また、B受審人は頭部及び臀部に打撲傷を負った。
(原因) 本件衝突は、長崎県島原新港東方沖合において、漁場を移動中の富陽丸が、見張り不十分で、漂泊して魚釣り中の睦丸を避けなかったことによって発生したが、睦丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、長崎県島原新港東方沖合の漁場において、漂泊しながら操業中、潮上りする場合、周囲に存在する多数の漁船やプレジャーボートなども同様の行動を取っていたのであるから、これらと著しく接近することのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路至近の状況を確認しただけで、自船の針路上に他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、左舷方に設置された刺し網を示す旗竿との航過距離を保つことに気をとられ、前路で漂泊して魚釣り中の睦丸に気付かないまま進行して同船との衝突を招き、自船の船首部に擦過傷を、睦丸の右舷中央部外板に破口及び亀裂などを生じさせ、B受審人に打撲傷を負わせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、長崎県島原新港東方沖合の多数の漁船やプレジャーボートが集まった釣り場において、潮上りを繰り返しながら漂泊して釣りを行う場合、周囲の他船も同様の行動を取って釣りをしていたのであるから、これらと著しく接近することのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、接近する他船は漂泊中の自船を避けるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、釣りに熱中していて衝突のおそれがある態勢で接近する富陽丸に気付かず、衝突を避けるための措置がとれないまま、同船との衝突を招き、前示損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
|