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2000年(平成12年)

平成11年長審第56号
    件名
漁船九州丸プレジャーボート第3浜光衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年2月10日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

坂爪靖、安部雅生、原清澄
    理事官
山田豊三郎

    受審人
A 職名:九州丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第3浜光船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
九州丸・・・ほとんど損傷なし
浜光・・・船首部を破損

    原因
九州丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
浜光・・・動静監視不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、九州丸が、見張り不十分で、錨泊中の第3浜光を避けなかったことによって発生したが、第3浜光が、動静監視不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年9月11日08時45分
長崎県下枯木島南南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船九州丸 プレジャーボート第3浜光
総トン数 6.6トン
登録長 14.07メートル 9.98メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 80キロワット
漁船法馬力数 90
3 事実の経過
九州丸は、船体中央からやや後方に操舵室を設けたFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、集魚灯を取り替える目的で、船首0.60メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、平成8年9月11日07時30分長崎県小値賀港を発し、同県相浦港に向かった。
発航後、A受審人は、操舵室右舷側の操縦席に腰掛けて手動操舵と肉眼による見張りに当たり、長崎県五島列島の野崎島と中通島間の津和崎瀬戸を通過したのち、07時44分前島北方0.9海里ばかりの地点で、入航時刻を調整するため、機関を全速力前進より少し下げた18.0ノットの速力とし、自動操舵に切り替えて進行し、08時32分下枯木島灯台から243度(真方位、以下同じ。)5.0海里の平戸島南岸付近に達したとき、針路を080度に定めて同一速力で続航した。

A受審人は、平戸島南岸や下枯木島周辺の海域では、漁場を往来する漁船や錨泊して釣りをするプレジャーボートなどを平素見かけていたものの、定針したころ、天窓から顔を出し、前方をいちべつして他船が見当たらなかったので、操縦席の左前方に1箇月前に取り付け、取扱いに不馴れだったGPSプロッターの操作を行うこととし、操縦席に腰掛けたまま、同プロッターを操作し始めた。
08時42分A受審人は、下枯木島灯台から220度2.3海里の地点に達したとき、正船首1,660メートルのところに、錨泊中の第3浜光(以下「浜光」という。)を視認でき、その後、同船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、定針したころ、前方に他船が見当たらなかったことから、前路に他船はいないものと思い、GPSプロッターの操作に熱中して周囲の見張りを十分に行うことなく、浜光の存在に気付かないまま進行した。

A受審人は、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、浜光を避けることができないまま続航中、08時45分下枯木島灯台から200度1.7海里の地点において、原針路、原速力のまま、九州丸の左舷船首が浜光の右舷船首部に後方から10度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好であった。
また、浜光は、航行区域を限定沿海区域とするFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、友人3人を同乗させ、魚釣りの目的で、船首0.30メートル船尾0.70メートルの喫水をもって、同日06時00分長崎県臼浦港小佐々浦を発し、下枯木島南南西方沖合の釣り場に向かった。
06時45分B受審人は、前示衝突地点付近の釣り場に至り、船首から錨を投入し、錨索を60メートルほど延出して錨泊し、操舵室前方に設けた集魚灯用支柱先端に錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げ、機関を停止した状態で、船首を東方に向け、友人3人は前部甲板で、自らは船尾甲板でそれぞれ釣りを始めた。

08時30分ごろB受審人は、釣れ具合が悪くなったので、友人の釣り模様を確かめようと前部甲板に赴いたところ、友人も同様であったので、魚群探知器で海中の様子を見ることとし、同時42分船首が090度を向いた状態で、右舷側を通って操舵室に入ろうとしたとき、右舷船尾10度1,660メートルのところに、自船に高速力で接近する態勢の九州丸を初認した。
その後、B受審人は、九州丸が自船に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、錨泊中の自船を九州丸が避けるものと思い、同船に対する動静監視を十分に行うことなく、同船から目を離して魚群探知器の操作に当たった。
B受審人は、動静監視を十分に行っていなかったので、避航する気配を見せないで接近する九州丸に気付かず、同船に対して注意喚起信号を行うことも、機関を使用するなどの衝突を避けるための措置をとることもできないまま錨泊中、前示のとおり衝突した。

衝突の結果、九州丸には、ほとんど損傷がなかったが、浜光は、船首部を破損し、のち修理された。

(原因)
本件衝突は、長崎県下枯木島南南西方沖合において、同県相浦港に向けて東行中の九州丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中の浜光を避けなかったことによって発生したが、浜光が、動静監視不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、長崎県下枯木島南南西方沖合を同県相浦港に向けて1人で操船に当たって東行する場合、前路の他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、平戸島南岸付近で針路を定めたころ、前方に他船が見当たらなかったことから、前路に他船はいないものと思い、GPSプロッターの操作に熱中して周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊中の浜光に気付かず、同船を避けることができないまま進行して衝突を招き、浜光の船首部を破損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、長崎県下枯木島南南西方沖合において、錨泊中、自船に高速力で接近する態勢の九州丸を認めた場合、同船と衝突のおそれがあるかどうかを判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、九州丸が錨泊中の自船を避けるものと思い、操舵室で魚群探知器の操作に当たっていて動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、避航する気配を見せないで接近する九州丸に気付かないで、同船に対して注意喚起信号を行うことも、機関を使用するなどの衝突を避けるための措置をとることもできないまま衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。

以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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