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2000年(平成12年)

平成11年長審第45号
    件名
貨物船日光丸貨物船新双葉衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年2月10日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

原清澄、保田稔、坂爪靖
    理事官
小須田敏

    受審人
A 職名:日光丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:日光丸二等航海士 海技免状:四級海技士(航海)(履歴限定)
C 職名:新双葉船長 海技免状:五級海技士(航海)
D 職名:新双葉甲板長 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
    指定海難関係人

    損害
日光丸・・・左舷船首部外板に破口を伴う損傷
新双葉・・・船首部を圧壊

    原因
日光丸・・・狭視界時の航法(信号、速力)不遵守
新双葉・・・狭視界時の航法(信号、速力)不遵守

    主文
本件衝突は、日光丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、新双葉が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
受審人Dを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年6月18日00時54分
千葉県犬吠埼南南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船日光丸 貨物船新双葉
総トン数 499トン 496トン
全長 65.20メートル 71.70メ−トル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,029キロワット 1,176キロワット
3 事実の経過
日光丸は、航行区域を限定沿海区域とし、京浜港川崎区及び広島県福山港を積地として、宮城県石巻港から関門港までの太平洋側各港にコールタールやカーボンを輸送する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A、B両受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま、船首1.0メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、平成10年6月17日10時40分石巻港を発し、京浜港川崎区に向かった。
ところで、A受審人は、自らが8時から0時までの、B受審人が0時から4時までの、一等航海士が4時から8時までの船橋当直をそれぞれ単独で行うことにしていた。

A受審人は、機関を全速力前進にかけて犬吠埼北北東方沖合を南下中、23時45分ごろ当直交替のために船位を求めて海図に記入し、予定の186度(真方位、以下同じ。)の針路で航行していることを確認したのち、翌18日00時00分犬吠埼灯台から22度7.0海里の地点に達したとき、次直のB受審人に対し、186度の針路であること、10.5ノットの対地速力であること、パンチングの状況及び自動操舵で航行していることなどを引き継ぎ、折から視界が断続的に悪くなったり、良くなったりし、濃霧となることが予想される状況にあったが、同人は付近海域の航行経験が十分にあるので、同人に操船を任せても大丈夫と思い、視界が著しく狭められる状況となったときには直ちに報告するよう指示することなく降橋し、自室のテレビジョンで天気予報を見るためチャンネルを選択しながら起きていた。
B受審人は、00時14分ごろ視程が1海里ないし1.5海里ばかりに狭められる状況となったのを認め、同時38分少し過ぎ犬吠埼灯台から096度1.9海里の地点に達したとき、6マイルレンジとしたレーダーで右舷船首21度5.5海里ばかりのところに新双葉のレーダー映像を初認し、そのころ右舷船首50度方向で、3.5海里から6.0海里ばかりのところに、東行する15隻ばかりの漁船群のレーダー映像を視認したが、付近海域を何度となく航行していたので、この程度の船舶の輻輳状況なら大丈夫と思い、A受審人に視界が悪くなった旨を報告しないで、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることもせず、新双葉や漁船群の動向を監視しながら進行した。
00時46分半B受審人は、犬吠埼灯台から133.5度2.4海里の地点に達し、新双葉のレーダー映像を右舷船首28度2.7海里に認めるようになったとき、東行する漁船群の西方1海里ばかりのところを、同漁船群から遅れて東行する1隻の漁船のレーダー映像を認め、同船の方位に変化がないので、操舵を手動に切り替えて針路を205度に転じ、やがて同船を左方に替わした。

00時51分B受審人は、犬吠埼灯台から149度2.7海里の地点に達したとき、新双葉を右舷船首13度1.1海里に認めるようになり、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、新双葉の右方陸岸よりには他船が存在しなかったところから、右転すれば無難に左舷を対して航過できるものと思い、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを停止することもなく、針路を220度に転じ、同時52分半新双葉が右舷船首2度930メートルまで接近したとき、更に針路を230度に転じ、その後、レーダーから目を離して前路の見張りにあたり、同時53分半同船の方向に探照灯を照射しながら進行中、ほどなく同船の右舷灯を視認し、右舵一杯、続いて機関停止としたが、及ばず、00時54分犬吠埼灯台から158.5度2.9海里の地点において、ほぼ原速力のまま、日光丸の船首が260度に向いたとき、同船の左舷船首部外板に、新双葉の船首が左舷前方からほぼ55度の角度をもって衝突した。
当時、天候は霧で風力2の南南西風が吹き、視程は約300メートルであった。
A受審人は、船首方に衝撃音を聞き、急いで昇橋して衝突の事実を知り、事後の処理にあたった。
一方、新双葉は、航行区域を限定沿海区域とし、京浜港川崎区と広島県福山港を積地として宮城県塩釜港、北海道の苫小牧港及び函館港に専ら鋼材を輸送する船尾船橋型の鋼製貨物船で、C、D両受審人ほか4人が乗り組み、鋼材1,457トンを積載し、船首3.45メートル船尾4.55メートルの喫水をもって、同年6月17日14時30分京浜港を発し、塩釜港に向かった。
ところで、C受審人は、自らが8時から0時までの、D受審人が0時から4時までの、一等航海士が4時から8時までの船橋当直をそれぞれ単独で行うことにしていた。

21時03分ごろC受審人は、勝浦灯台から133度5.0海里の地点に達したとき、針路を035度に定め、機関を全速力前進にかけて11.0ノットの対地速力で自動操舵により進行し、23時44分ごろ犬吠埼灯台から205度14.6海里の地点に達したとき、当直交替のため昇橋したD受審人と船橋当直を引き継ぐこととし、船位、針路、速力及び周囲の他船の状況などのほか、濃霧となって視界が制限される状況となれば時刻に関係なく報告するよう指示して23時50分ごろ降橋し、犬吠埼に接近すれば再び昇橋して自ら操船の指揮を執るつもりで、自室のテレビジョンを見ながら待機した。
D受審人は、引き継いだ針路、速力のまま、操舵輪の左側に立ち、周囲の見張りにあたって続航し、翌18日00時40分ごろ犬吠埼灯台から185度4.9海里ばかりの地点に達したとき、自船を追い越した他船の船尾灯が急に見えなくなったことから、霧のため視界が制限される状況となったのを知り、6マイルレンジとしたレーダーによる見張りを始めた。

D受審人は、前路を東行する漁船群の動向に注意を払いながら進行し、00時46分半犬吠埼灯台から176.5度3.9海里の地点に達したとき、左舷船首1度2.7海里のところに日光丸のレーダー映像を初認したが、同船を避航してからC受審人に報告しようと思い、速やかにその旨を報告せず、かつ、その後の同船の方位変化から互いに右舷を対して替わるものと思い、霧中信号を行うことも安全な速力に減じることもなく続航した。
00時51分D受審人は、犬吠埼灯台から167度3.3海里の地点に達したとき、日光丸のレーダー映像を右舷船首3度1.1海里に認めるようになり、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、同船のレーダー映像が船首輝線の右方にあることから、なおも互いに右舷を対して航過できるものと思い、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを停止することもなく進行した。

00時52分半D受審人は、日光丸が右舷船首7度930メートルばかりまで接近したので、レーダーから目を離して同船の方向を見ていたところ、同時54分少し前右舷船首至近に左舷灯を表示した日光丸を視認し、驚いて左舵一杯としたが、及ばず、前示のとおり衝突した。
また、C受審人は、そろそろ犬吠埼に接近したころと思い、自室の窓から前方を見たところ、自船のマスト灯が霞んで見え、犬吠埼方向の陸上の明かりが見えなかったところから、霧のため視程が著しく狭められていることを知り、00時53分ごろ急いで昇橋し、暗闇に目が慣れないまま、レーダー画面を見たり、D受審人に周囲の状況を尋ねたりしていて適切な操船の指揮がとれないでいるうち、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、日光丸は、左舷船首部外板に破口を伴う損傷を生じ、新双葉は船首部を圧壊したが、のちいずれも修理された。


(原因)
本件衝突は、夜間、視界が著しく制限された千葉県犬吠埼南南東方沖合において、南下中の日光丸が、右舷船首方に新双葉のレーダー映像を探知した際、霧中信号を行うことも安全な速力とすることもせず、小角度の右転を繰り返したばかりか、同船と著しく接近することが避けられない状況となったとき、速力を針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止しなかったことと、北上中の新双葉が、正船首方に日光丸のレーダー映像を探知した際、霧中信号を行うことも安全な速力とすることもせず、同船と著しく接近することが避けられない状況となったとき、速力を針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止しなかったこととによって発生したものである。
日光丸の運航が適切でなかったのは、船長が船橋当直者に対して視界が著しく狭められる状況となったときには、その状況を報告するように指示せず、自ら操船の指揮を執れなかったことと、船橋当直者が視界が制限された状況下、その状況を船長に報告せず、適切な操船を行わなかったこととによるものである。

新双葉の運航が適切でなかったのは、船長が自ら操船の指揮を執らなかったことと、船橋当直者が視界が制限された状況下、船長にその状況を報告せず、適切な操船を行わなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
A受審人は、千葉県犬吠埼北北東方沖合を南下中、船橋当直を部下に任せて降橋する場合、折から濃霧となることが予想されたのであるから、視界制限状態になったときには自ら操船の指揮を執れるよう、霧のため視界が著しく狭められる状況となったときには報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、船橋当直者が付近海域の航行経験が十分にあるので、同人に操船を任せておいても大丈夫と思い、報告するよう指示しなかった職務上の過失により、自ら操船の指揮を執れないまま進行して新双葉との衝突を招き、自船の左舷船首部外板に破口を伴う凹損を生じ、新双葉の船首部に圧壊を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

B受審人は、視界制限状態の千葉県犬吠埼南南東方沖合を南下中、右舷船首方に反航する新双葉のレーダー映像を認め、その後、同船と著しく接近することを避けることができない状況となった場合、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを停止すべき注意義務があった。しかるに、同人は、新双葉の左方には他船が存在しなかったところから、同船と互いに左舷を対して航過しようと思い、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止しなかった職務上の過失により、小角度の右転を繰り返しながら全速力で進行して新双葉との衝突を招き、前示損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

D受審人は、視界制限状態の千葉県犬吠埼南南東方沖合を北上中、正船首方に反航する日光丸のレーダー映像を認め、その後、同船に著しく接近することを避けることができない状況となった場合、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを停止すべき注意義務があった。しかるに、同人は、レーダーの画面上では互いに右舷を対して航過するように見えたので、同船とは右舷を対して航過できるものと思い、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止しなかった職務上の過失により、原針路、原速力のまま進行して日光丸との衝突を招き、前示損傷を生じさせるに至った。
以上のD受審人の所為に対しては海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

C受審人が、視界が著しく制限される状況となったとき、自ら昇橋して操船の指揮を執らなかったことは、本件発生の原因となる。しかしながら、このことは、船橋当直者に対して視界が制限されるようになったときには時刻に関係なく報告するように指示し、犬吠埼の手前で昇橋して自ら操船の指揮を執るつもりで、自室で待機していた点に徴し、職務上の過失とするまでもない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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