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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年2月25日17時55分 鳴門海峡北西方海域 2 船舶の要目 船種船名
貨物船ほあん丸 ケミカルタンカー第三明華丸 総トン数 499トン 490トン 全長 74.993メートル
64.92メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力 735キロワット
735キロワット 3 事実の経過 ほあん丸は、船尾船橋型の貨物船で、船長C及びA受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首1.6メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成10年2月25日15時40分徳島県富岡港を発し、香川県坂出港に向かった。 A受審人は、発航後、単独で船橋当直に就いて鳴門海峡に向け北上し、同海峡に差し掛かったころ、小雨により視界があまりよくなかったことから、航行中の動力船が表示する灯火を掲げ、北流の最強時である17時25分大鳴門橋下を通過し、同時37分孫埼灯台から306度(真方位、以下同じ。)3.4海里の地点において、針路を備讃瀬戸東航路に向く292度に定めて自動操舵とし、機関を11.0ノットの全速力前進にかけ、折からの西北西流に乗じて13.0ノットの対地速力で進行した。 A受審人は、いすに腰をかけて見張りに当たり、17時49分半孫埼灯台から300度6.1海里の地点に達したとき、正船首1.0海里のところに第三明華丸(以下「明華丸」という。)を初めて認めたが、一瞥して、同船が鳴門海峡に向け航行している反航船のように見えたことから、左舷を対して無難に航過できるものと思い、その後、同船に対する動静監視を行わなかったので、同船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、船橋内左舷側の隅に設置されているテレビの映像を見ながら続航した。 17時52分A受審人は、明華丸と正船首1,000メートルに接近したとき、同船が作業灯などを点灯して移動していないことから、漂泊中であることを認めることができる状況であったものの、依然としてテレビを見ていたことから、動静監視が不十分で、同船と衝突のおそれがあることに気付かず、同船を避けずに進行した。 17時55分少し前A受審人は、テレビの画面から船首方に顔を向けたとき、正船首間近に迫った明華丸を認め、手動操舵に切り替えて右舵一杯としたが効なく、17時55分孫埼灯台から299度7.2海里の地点において、ほあん丸は、船首が302度を向いたとき、原速力のまま、その左舷船首が明華丸の左舷船尾端に前方から73度の角度で衝突した。 当時、天候は雨で風力3の北北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、付近海域には約2ノットの西北西流があり、日没は17時54分であった。 また、明華丸は、主に石油製品の輸送に従事する船尾船橋型のケミカルタンカーで、B受審人ほか5人が乗り組み、エチルベンゼン約1,000トンを積載し、船首3.4メートル船尾4.3メートルの喫水をもって、同日12時50分岡山県水島港を発し、茨城県鹿島港に向かった。 B受審人は、出港操船後、一等航海士に船橋当直を引き継いで自室で休息し、16時50分孫埼の西北西方6海里ばかりの地点に至ったころ昇橋し、鳴門海峡の通過時刻を調節するため、転流時ごろまで潮待ちをすることとして、全速力前進にかけていた機関を中立回転とし、同時55分前示衝突地点付近で漂泊を開始して、停泊灯及び作業灯などを点灯したのち降橋した。 B受審人は、夕食を終え、17時45分一等航海士と交替して船橋当直に就いたとき、同航海士からほあん丸が接近中との報告を受け、作動中のレーダーにより左舷正横方1.9海里のところに同船のレーダー映像を初めて認め、肉眼でも同船の灯火を視認し、いすに腰をかけて同船を見張っているうち、同時49分半船首が195度に向いていたとき、同船が左舷船首83度1.0海里となり、自船に向かって接近していることを知った。 B受審人は、ほあん丸の動静を監視していたところ、17時52分同船が同方向1,000メートルに近づき、避航の気配がないまま、衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めたが、そのうち自船の船尾方を替わすものと思い、警告信号を行わず、更に接近しても、機関を使用して衝突を避けるための措置をとることなく、同船の避航を待つうち、明華丸は、船首が195度を向いて前示のとおり衝突した。 衝突の結果、ほあん丸は、左舷船首部外板に亀裂を伴う凹損を生じ、明華丸は、左舷船尾端外板に破口を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、鳴門海峡の北西方海域において、西行中のほあん丸が、動静監視不十分で、漂泊中の明華丸を避けなかったことによって発生したが、明華丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、鳴門海峡の北西方海域を備讃瀬戸に向け西行中、正船首方に明華丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一瞥して、同船が鳴門海峡に向け航行している反航船のように見えたことから、左舷を対して無難に航過できるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、漂泊中の明華丸に衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、ほあん丸の左舷船首部外板に亀裂を伴う凹損を、明華丸の左舷船尾端外板に破口を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、鳴門海峡の北西方海域において、潮待ちのため漂泊中、ほあん丸が避航の気配のないまま、衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めた場合、警告信号を行い、更に接近したとき、機関を使用して衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、そのうち自船の船尾方を替わすものと思い、警告信号を行わず、更に接近しても、機関を使用して衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、ほあん丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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