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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年12月23日06時20分 長崎県平戸瀬戸 2 船舶の要目 船種船名
引船第十八長洋丸 台船D2001 総トン数 97.08トン 1,080トン 全長 50.00メートル 登録長
25.16メートル 幅 18.00メートル 深さ 3.00メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
595キロワット 船種船名 漁船第十七海幸丸 総トン数 62トン 登録長 28.50メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力
470キロワット 3 事実の経過 第十八長洋丸(以下「長洋丸」という。)は、鋼製引船で、A受審人ほか2人が乗り組み、重量約400トンの船橋構造物を載せて船首、船尾とも0.8メートルの喫水となった台船D2001(以下「台船」という。)を船尾に引き、船首1.6メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、平成9年12月23日06時02分長崎県田平港の平戸瀬戸に面した物揚場の岸壁を発し、山口県下関市長府の造船所に向かった。 A受審人は、曳索として直径60ミリメートル長さ100メートルの合成繊維索に、輪状にして台船の船首部両舷の係船用ビットに掛けた直径24ミリメートル長さ50メートルのワイヤロープをシャックルで連結したものを用い、長洋丸の船尾から台船の船尾までの長さを約155メートルの引船列(以下、長洋丸及び台船両船を総称するときは「長洋丸引船列」という。)とした。また、田平港を発するに当たり、灯火として長洋丸の前部マストに法定の2個より多い3個のマスト灯、船橋に舷灯並びに船尾の鳥居形マストに船尾灯及び引船灯をそれぞれ掲げ、台船には引かれている船舶が表示する灯火に代えて、右舷側の前部及び中央部の甲板上1メートルの高さのところに単一型乾電池4個を用いた白色簡易標識灯並びに左舷側の前部、中央部及び後部に同様の赤色簡易標識灯をそれぞれ掲げ、右舷側の後部に白色閃光を発する簡易標識灯を同じ高さに掲げた。 ところで、平戸瀬戸は、長崎県平戸島と九州本陸との間の瀬戸で、同瀬戸北部の平戸島側に位置する黒子島と九州本陸の間の水道は、ほぼ南北に向いた長さ約1キロメートルの水道で、10メートル等深線で挟まれる幅は約300メートル、最狭部の可航幅は約270メートルの狭い水道であった。 A受審人は、田平港の港域を出たのち黒子島に向けて北西方向に航行し、平戸島北部の狭い水道を経由して広瀬と牛ケ首の間に向かうこととしたが、台船が南風埼に寄り過ぎることのないように同埼を右舷方300メートル離して大きく迂回する形で右転し、同水道の右側端に寄ることなく、06時15分広瀬導流堤灯台(以下「導流堤灯台」という。)から194度(真方位、以下同じ。)1,010メートルの地点において、針路を牛ケ首灯浮標に向く021度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの潮流に抗して2.5ノットの曳航速力(速力は対地速力、以下同じ。)で、同水道の中央部を手動操舵により進行した。 06時16分半わずか過ぎA受審人は、導流堤灯台から193度880メートルの地点に達したとき、左舷船首10度1,540メートルのところに平戸瀬戸を南下する第十七海幸丸(以下「海幸丸」という。)の白、紅2灯を初認し、やがて同船が左転して同瀬戸北部の狭い水道で互いに航過する態勢であることを知って続航した。 A受審人は、06時18分導流堤灯台から191.5度790メートルの地点に達したとき、左舷船首17度820メートルのところで海幸丸の白、紅2灯が白、紅、緑3灯に変わるのを認めることができる状況で、自船が同船のほぼ進路上に位置して同船に左舷灯を見せているものの、その後その方位がほとんど変わらず、狭い水道の中央部で衝突のおそれがある態勢で接近したが、先に航過した僚船と思われる2隻の漁船が長洋丸引船列を避けてくれたことから、海幸丸も同様に避けてくれるものと思い、衝突のおそれがあるかどうかを判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うことなく、これに気付かないまま進行した。 A受審人は、依然、動静監視を十分に行わず、海幸丸に間近に接近したとき針路を右に転じるなど衝突を避けるための措置をとらないまま同じ針路、速力で続航中、06時20分少し前左舷方至近を航過する同船を認め、同船が台船に向かって進行していることに気付き、機関を中立としたが効なく、06時20分導流堤灯台から192度810メートルの地点において、原針路、原速力のままの台船の船首左舷側に海幸丸の船首が前方から13度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力3の北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、付近には南方に流れる2.2ノットの潮流があった。 また、海幸丸は、まき網漁業に従事する鋼製灯船兼魚探船で、B受審人ほか5人が乗り組み、操業の目的で、同月9日09時20分僚船と共に長崎県長崎港を発し、同県対馬東方沖合の農林漁区202−59区の漁場に至って操業を開始し、越えて同月23日02時30分操業を終え、船首0.5メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、同県壱岐島魚釣埼の北方21海里の地点を発進し、水揚げの目的で長崎港に向かった。 B受審人は、06時16分半わずか過ぎ導流堤灯台から009度650メートルの地点において、針路を199度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの潮流に乗じて14.2ノットの速力で手動操舵により進行した。 06時18分B受審人は導流堤灯台から294度110メートルの地点に至り、平戸瀬戸北部の狭い水道に差し掛かったが、同水道の右側端に寄ることなく、針路を同水道のほぼ中央に向く181度に転じ、同水道の中央部を続航した。 針路を転じたときB受審人は、右舷船首3度820メートルのところに、平戸瀬戸を北上する長洋丸引船列が航行中の引船列であることを表示する法定の灯火を掲げていなかったものの、長洋丸の白、白、白、紅4灯を認めることができ、引船列であることが容易に認識できる状況で、更に自船が同引船列のほぼ進路上に位置して同引船列に両舷灯を見せているものの、その後その方位がほとんど変わらず、狭い水道の中央部で衝突のおそれがある態勢で接近している状況であったが、同瀬戸を通過するためにレーダーで船位を確認することに気を取られ、見張りを十分に行うことなく、これに気付かないまま進行した。 B受審人は、依然、見張り不十分で、長洋丸引船列に気付かず、間近に接近したとき針路を右に転じるなど衝突を避けるための措置をとらないまま続航し、同時19分導流堤灯台から196度390メートルの地点に達したとき、0.5海里レンジとしたレーダーで右舷船首3度330メートルのところに長洋丸引船列の映像をようやく認め、続いて肉眼で紅1灯のみを初認したが、他の灯火を見落として引船列であることに気付かないまま、長洋丸を左舷前方に見るよう針路を188度に転じ、同時20分少し前同船と左舷方至近に航過した直後、船首方近距離に台船を認め、機関を全速力後進としたが効なく、海幸丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。 衝突の結果、台船は船首左舷側に破口を伴う凹損を生じ、海幸丸は船首を圧壊したが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、夜間、長崎県平戸瀬戸において、北上中の長洋丸引船列が、灯火の表示を適切に行わず、同瀬戸北部の狭い水道の右側端に寄って航行しなかったばかりか、海幸丸と同水道の中央部で衝突のおそれがある態勢で接近した際、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、南下中の海幸丸が、同瀬戸北部の狭い水道の右側端に寄って航行しなかったばかりか、長洋丸引船列と同水道の中央部で衝突のおそれがある態勢で接近した際、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、長崎県平戸瀬戸を北上中、南下する海幸丸の灯火を視認して同船と同瀬戸北部の狭い水道で互いに航過する態勢であることを知った場合、衝突のおそれがあるかどうかを判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、先に航過した僚船と思われる2隻の漁船が長洋丸引船列を避けてくれたことから、海幸丸も同様に避けてくれるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船と同水道の中央部で衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず、針路を右に転じるなど衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、台船の船首左舷側に破口を伴う凹損を生じさせ、海幸丸の船首を圧壊させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、夜間、長崎県平戸瀬戸を南下する場合、同瀬戸北部の狭い水道を北上する長洋丸引船列を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同瀬戸を通過するためにレーダーで船位を確認することに気を取られ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、狭い水道の中央部で衝突のおそれがある態勢で接近する長洋丸引船列に気付かず、針路を右に転じるなど衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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