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2000年(平成12年)

平成10年門審第77号
    件名
貨物船金力丸貨物船松浦丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年2月2日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

西山烝一、宮田義憲、平井透
    理事官
千手末年

    受審人
A 職名:金力丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:松浦丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
    指定海難関係人

    損害
金力丸・・・右舷側中央部外板に破口を伴う凹損及び同部ハンドレールに曲損
松浦丸・・・船首に凹損

    原因
金力丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守
松浦丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守

    主文
本件衝突は、金力丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、松浦丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年2月13日16時05分
山口県宇部港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船金力丸 貨物船松浦丸
総トン数 199トン 185トン
全長 56.538メートル 52.99メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 735キロワット
3 事実の経過
金力丸は、専ら山口県宇部港と福岡県苅田港との石炭輸送に従事する船尾船橋型の貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首1.0メートル船尾2.1メートルの喫水をもって、平成10年2月13日11時37分苅田港を発し、出航後間もなく濃霧となったことから、苅田港北防波堤灯台の北東方1.8海里の地点で錨泊し、14時50分視程が1,000メートルに回復したので、同錨地を発航して宇部港の宇部興産沖ノ山桟橋に向かった。
A受審人は、15時42分宇部港第3号灯浮標(以下宇部港灯浮標については「宇部港」を省略する。)辺りに至ったころ、再び霧が濃くなって視程が300メートルとなったことから、着桟を取り止めて錨泊することとして、自動吹鳴による霧中信号を開始し、15時47分宇部港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から210度(真方位、以下同じ。)1.6海里の地点において、第5号灯浮標を確認してから同灯浮標の北北西方700メートルばかりの錨地に向けるため、針路を同灯浮標に向く031度に定め、機関を3.0ノット(対地速力、以下同じ)の微速力前進にかけ、手動操舵によって進行した。

A受審人は、15時49分ほぼ正船首1.4海里のところに反航する松浦丸をレーダーで探知できる状況にあったが、1.0海里レンジとしたレーダーを時々見て操舵に当たり、このころ予定錨地の方向に5隻の停泊船のレーダー映像を認めていたことから、まさか錨泊船の間を通航する他の船舶はいないと思い、長距離レンジに切り替えるなどレーダーを適切に使用して見張りを十分に行わなかったので、松浦丸の存在に気付かず、在橋していた機関長を投錨準備のため船首に赴かせて続航した。
A受審人は、第5号灯浮標に接近したころ、視程が更に狭められて100メートルとなったものの、周囲には停泊船しかいないと思って霧中信号を取り止め、15時56分半西防波堤灯台から209度2,140メートルの地点に達したとき、同灯浮標を右舷側30メートルに視認し、針路を錨地に向く340度に転じた。

転針したときA受審人は、松浦丸が右舷船首39度1,210メートルに接近し、著しく接近することを避けることができない状況となったが、依然としてレーダーによる見張りが不十分で、このことに気付かず、速やかに行きあしを止めないまま進行し、16時01分錨地に近づいたので機関を停止して前進惰力で続航中、同時05分少し前機関長から松浦丸を右舷方間近に視認したとの報告を受け、機関を微速力後進にかけたが及ばず、金力丸は、16時05分西防波堤灯台から226度1,770メートルの地点において、行きあしがほとんど停止したとき、原針路のままその右舷中央部に、松浦丸の船首が前方から70度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風はほとんどなく、潮候はほぼ低潮時で、視程は約100メートルであった。
また、松浦丸は、専ら鋼材輸送に従事する船尾船橋型の貨物船で、B受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首1.2メートル船尾2.4メートルの喫水をもって、同日15時30分宇部港中央ふ頭を発し、山口県小野田港に向かった。

B受審人は、視程が1,000メートルばかりのなか発航し、15時40分西防波堤灯台から063度610メートルの地点において、針路を西沖航路を横切る230度に定め、機関を3.1ノットの微速力前進にかけ、手動操舵によって進行した。
B受審人は、1人で見張りと操舵に当たり、15時49分左舷船首20度1.4海里のところに反航する金力丸のレーダー映像を初めて認めたが、同船の映像が第5号灯浮標に向かっていたことから、自船の左舷後方を替わるものと思い、その後金力丸に対し、レーダーによる動静監視を十分に行うことなく、船首前方の停泊船のレーダー映像を注視して続航した。
B受審人は、第9号灯浮標を右舷側に見て航過したころ、視程が100メートルに狭められたことから、金力丸のことが気にかかり、一旦機関を中立回転とし、間もなく、同船の映像が第5号灯浮標と重なり、同船が航路に沿って北上しているのを認め、機関を再び微速力前進に戻して原速力とし、霧中信号を行わずに進行した。

B受審人は、15時56分半西防波堤灯台から222度960メートルの地点に達したとき、金力丸が転針して同船が左舷船首31度1,210メートルとなり、著しく接近することを避けることができない状況となったが、依然としてレーダーによる動静監視が不十分で、このことに気付かず、速やかに行きあしを止めないまま続航中、16時04分半わずか過ぎ正船首わずか左に金力丸を視認して、機関を中立とし、続いて全速力後進としたが及ばず、松浦丸は、原針路、ほぼ原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、金力丸は、右舷側中央部外板に破口を伴う凹損及び同部ハンドレールに曲損を生じたが、のち修理され、松浦丸は、船首に凹損を生じた。


(原因)
本件衝突は、両船が霧による視界制限状態の宇部港を航行中、錨地に向かう金力丸が、霧中信号を行わず、レーダーによる見張り不十分で、松浦丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、速やかに行きあしを止めなかったことと、出航する松浦丸が、霧中信号を行わず、レーダーによる動静監視不十分で、前路に探知した金力丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、速やかに行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、宇部港内を錨地に向けて航行中、霧により視界が著しく制限される状態となった場合、出航する他船を見落とさないよう、長距離レンジに切り替えるなどレーダーを適切に使用して見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、予定錨地の方向に5隻の停泊船のレーダー映像を認めていたことから、まさか錨泊船の間を通航する他の船舶はいないと思い、レーダーを適切に使用して見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、松浦丸と著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず、速やかに行きあしを止めないまま進行して同船との衝突を招き、金力丸の右舷中央部外板に破口を伴う凹損及び同部ハンドレールに曲損を、松浦丸の船首に凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

B受審人は、霧により視界が著しく制限される状態となった宇部港内を出航中、レーダーにより前路に反航する金力丸の映像を認めた場合、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となるかどうか判断できるよう、レーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船の左舷後方を替わるものと思い、レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、金力丸と著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず、速やかに行きあしを止めないまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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