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2000年(平成12年)

平成11年広審第82号
    件名
遊漁船興昌丸漁船勝栄丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年2月17日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

横須賀勇一、黒岩貢、織戸孝治
    理事官
川本豊

    受審人
A 職名:興昌丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:勝栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
興昌丸・・・左舷側後部外板に亀裂
勝栄丸・・・左舷船首部外板に凹損、釣り客1人が打僕傷

    原因
勝栄丸・・・動静監視不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
興昌丸・・・警告信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、勝栄丸が、動静監視不十分で、漂泊中の興昌丸を避けなかったことによって発生したが、興昌丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年7月19日18時03分
鳥取県鳥取港沖合
2 船舶の要目
船種船名 遊漁船興昌丸 漁船勝栄丸
総トン数 7.9トン 4.9トン
全長 17.3メートル
登録長 11.99メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 77キロワット 183キロワット
3 事実の経過
興昌丸は、船体中央部に操舵室及びその後部にキャビンを備えるFRP製遊漁船で、A受審人が1人で乗り組み、釣り客7人を乗せ、遊漁の目的で、船首尾とも0.1メートルの等喫水をもって、平成10年7月19日14時45分鳥取港を発し、同港北西方の釣り場に向かった。
15時15分A受審人は、鳥取港灯台から335度(真方位、以下同じ。)3.0海里の地点に至り、大型のパラシュート型シーアンカーに結索した沈みロープ50メートルを延出して他端を船首たつに係止し、船首を130度に向けて機関を停止し、その後キャビン内に釣り客1人及び甲板上左舷側で釣り客2人、同右舷側で同客4人を遊漁させながら漂泊した。

17時50分A受審人は、左舷船首方6海里の鳥取県網代港から出港し西行して本船至近を次々通過する漁船の一団に注意を払っていたところ、通過する漁船が途絶えたことから、安心して船尾甲板上で釣り客とともに釣りを開始した。
18時02分少し前A受審人は、左舷船首50度300メートルのところに自船に向首して接近する勝栄丸を初めて視認し、その後も動静監視を行っていたところ、衝突のおそれのある態勢で接近することを認めたが、釣り客とともに大声で叫び手を振って避航を促していたことから、いずれ自船に気付くものと思い、なおも接近する同船に対して警告信号を行うことなく、同時03分少し前同船が間近に接近してようやく危険を感じ、あわてて機関を始動し全速力前進としたが効なく、18時03分鳥取港灯台から335度3.0海里の地点において、興昌丸は、原針路のまま、その左舷側後部に勝栄丸の左舷船首が前方から50度の角度で衝突した。

当時、天候は雨で風力2の南東風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、付近には微弱な西北西流があった。
また、勝栄丸は、レーダー画面上に他船を捕捉すると警報音を発するレーダーを装備した一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、同日17時網代港を発し、鳥取県赤島北方の漁場に向かった。
B受審人は、折からの雨模様の中、レーダーを3海里レンジで作動させ、操舵輪の右舷後方の椅子に腰掛け、前屈みの姿勢で右前に装備された魚群探知機を操作しながら魚群探索を行い、17時15分鳥取港灯台から053度6.3海里の地点に達したとき、針路を陸岸に沿う260度に定めて自動操舵とし、機関を港内全速力前進にかけ8.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。

18時01分B受審人は、鳥取港灯台から340度2.9海里の地点に達したとき、レーダーにセットした警報音に気付き、船首方500メートルのところに興昌丸を初認したが、同船を一瞥し南東方に向け進行中で、このままでも相手船の船尾をなんとか替わるものと思い、引き続き魚群探知機による魚群探索に専念して続航した。
18時02分少し前B受審人は、鳥取港灯台から338度3.0海里に達したとき、船首方300メートルの興昌丸に向首して、衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、魚群探知機の操作に専念し、興昌丸に対する動静監視を十分に行うことなく、この状況に気付かず、同船を避けないまま進行中、同時03分わずか前ふと前方を見たとき興昌丸が至近に迫っているのに気付き、あわてて自動操舵のまま右転したが効なく、勝栄丸は原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。

衝突の結果、興昌丸は左舷側後部外板に亀裂を生じ、勝栄丸は左舷船首部外板に凹損を生じ、釣り客1人が打僕傷を負った。

(原因)
本件衝突は、鳥取港北西方沖合において、魚群探索をしながら西進中の勝栄丸が、動静監視不十分で、前路に漂泊している興昌丸を避けなかったことによって発生したが、興昌丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
B受審人は、鳥取港北西方沖合を魚群探知機による魚群探索をしながら航行中、前路に南東方に向首している興昌丸を視認した場合、同船との衝突のおそれを判断できるよう、引き続き同船の動静監視を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一瞥して相手船の船尾をなんとか替わると思い、引き続き魚群探索に専念し、興昌丸に対する動静監視を行わなかった職務上の過失により、同船と衝突のおそれのある態勢で接近することに気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、勝栄丸の左舷船首部外板に凹損を、興昌丸の左舷側後部外板に亀裂を生じさせ、釣り客1人に打僕傷を負わせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、鳥取港北西方沖合において、大型シーアンカーを投入して、漂泊して遊漁中、衝突のおそれがある態勢となって接近する勝栄丸を認めた場合、警告信号を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、向首接近してくる同船に対して釣り客とともに大声で叫び手を振って避航を促していたから、いずれ自船に気付くものと思い、警告信号を行わなかった職務上の過失により、勝栄丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ釣り客を負傷させるに至った。

以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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