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2000年(平成12年)

平成11年広審第69号
    件名
プレジャーボート一茂丸プレジャーボート第五貞久丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年2月9日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

釜谷奬一、杉崎忠志、織戸孝治
    理事官
向山裕則

    受審人
A 職名:一茂丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
B 職名:第五貞久丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
一茂丸・・・船首部に擦過傷
貞久丸・・・船首部を大破、のち廃船

    原因
貞久丸・・・動静監視不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
一茂丸・・・動静監視不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第五貞久丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る一茂丸の進路を避けなかったことによって発生したが、一茂丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年8月15日10時20分
岡山県宇野港
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート一茂丸 プレジャーボート第五貞久丸
総トン数 3.0トン
登録長 10.55メートル 3.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 169キロワット 2キロワット
3 事実の経過
一茂丸は、船尾部に操舵室を有するFRP製のプレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、妻及び長男を乗せ、岡山県宇野港の第3突堤北西方約400メートルの地点にある池の浦の係留地に寄せ、ここから車で墓参に向かう目的で、船首0.2メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成10年8月15日10時05分同県井島北西端にある石島の係留地を発し、池の浦に向かった。
A受審人は、発航後香川県京ノ上臈島と同県屏風島との間の水路に向けて西行し、10時15分ここを航過し終えて同時17分宇野港田井第1号灯標(以下「1号灯標」という。)から197度(真方位、以下同じ。)320メートルの地点に達したとき、針路を254度とし、第3突堤とその南側対岸約100メートルにある南近端鼻との間にある水路に向けて手動操舵とし、機関を半速力前進よりわずかに速い14.0ノットの対地速力で進行した。

10時18分A受審人は、1号灯標から230度670メートルの地点に達したとき、左舷船首007度1,020メートルのところに第3突堤に向けて低速力で北東進する第五貞久丸(以下「貞久丸」という。)を初めて視認し、その後同船が方位の変化なく、前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢となって接近する状況となったが、平素、この種の船舶は南近端鼻付近で東方に向けて沖出しすることが多く、第3突堤を越えて北上することはなかったことから、いずれ右転して進路を変更するものと思い、同船に対する動静監視を十分に行うことなく続航した。
10時19分A受審人は、貞久丸と方位の変化のないまま500メートルに接近したが、このころ第3突堤の東側岸壁付近から発進しようとする水上スクーターの動向に気を奪われて、依然、貞久丸に対する動静監視が不十分で、同船との接近に気付かず、警告信号を行わずに進行し、同時19分半同船と260メートルに接近したが、衝突を避けるための協力動作をとらないまま続行中、10時20分一茂丸は突然衝撃を受け、1号灯標から244度1,500メートルの地点において、原針路、原速力のままの一茂丸の船首が、貞久丸の右舷船首部に前方から44度の角度で衝突した。

当時、天候は曇で風力1の北東風が吹き、潮候はほぼ低潮期であった。
また貞久丸は、操舵室を有しない木製のプレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、墓参りの目的で、船首0.3メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同日10時05分宇野港第3突堤の南西方約1,160メートルの玉係留地を発し、香川県牛ヶ首島に向かった。
B受審人は、貞久丸が船齢21年を越え、機関も無理のきかない状態であったから、発航後は北上して陸岸沿いに航行することとし、10時17分1号灯標から、238度1,750メートルの地点に達したとき、針路を第3突堤のわずか東側に向首する030度に定め、機関を全速力前進にかけ3.0ノットの対地速力で舵柄を操作しながら進行した。
10時17分半B受審人は、南近端鼻の東方海域に差し掛かったとき、右舷船首37度1,270メートルの地点に第3突堤南側に接近する進路となって西行する一茂丸を初めて視認し、このとき自船の船首方約850メートルの第1突堤から出港する模様のフェリーを認めたことから、このままの針路で北上して同船の船尾を替わしてから右転して東行することとした。

10時18分B受審人は、1号灯標から240度1,680メートルの地点に達したとき、一茂丸を、同一方位1,020メートルのところに視認し得る状況となり、その後同船が方位の変化なく、前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢となって接近する状況となったが、自船は第3突堤の東側に接航する進路で北上しているので、まさか自船に向けて来航することはあるまいと思い、一茂丸に対する動静監視を十分に行うことなく続航した。
10時19分B受審人は、一茂丸と方位の変化のないまま500メートルに接近する態勢となったが、前示フェリーの動向に気を奪われて、依然、一茂丸に対する動静監視が不十分で、同船の接近に気付かず、速やかに右転するなどしてその進路を避けずに進行中、同時20分少し前、約250メートルに接近した同船を認めて驚き、あわてて後進をかけたが及ばず、原針路ほぼ原速力のまま前示のとおり衝突した。

衝突の結果、一茂丸は船首部に擦過傷を生じ、貞久丸は船首部を大破し、のち廃船となった。

(原因)
本件衝突は、岡山県宇野港において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、同港第3突堤至近の東側海域に向け北東進する貞久丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る一茂丸の進路を避けなかったことによって発生したが、同突堤至近の南側海域に向け西行する一茂丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
B受審人は、岡山県宇野港において、同港第3突堤至近の東側海域に向け北東進中、同突堤至近の南側海域に向け西行する一茂丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、自船は第3突堤の東側に接航する進路で北上しているので、まさか自船に向け一茂丸が来航することはあるまいと思い、同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、その進路を避けることなく進行して衝突を招き、一茂丸の船首部に擦過傷を、貞久丸の船首部を大破させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、岡山県宇野港において、同港第3突堤至近の南側海域に向け西行中、同突堤至近の東側海域に向け北東進中の貞久丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、平素、この種の船舶は第3突堤を越えて北上することはなかったことから、いずれ右転して進路を変更するものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらずに進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。

以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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