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2000年(平成12年)

平成11年広審第44号
    件名
漁船成章丸漁船栄光丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年2月8日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

横須賀勇一、釜谷奬一、杉崎忠志
    理事官
前久保勝己

    受審人
A 職名:成章丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:栄光丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
成章丸・・・右舷船首部外板に破口
栄光丸・・・船首部外板に破口、船長が上口唇裂傷

    原因
成章丸・・・動静監視不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
栄光丸・・・動静監視不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、成章丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る栄光丸の進路を避けなかったことによって発生したが、栄光丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年3月17日09時20分
広島県広島港
2 船舶の要目
船種船名 漁船成章丸 漁船栄光丸
総トン数 4.80トン 3.60トン
全長 11.52メートル
登録長 11.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 15 70
3 事実の経過
成章丸は、底引き網漁業に従事する木製漁船で、えびこぎ網漁を行う目的で、A受審人ほか1人が乗り組み、船首0.3メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、平成10年3月17日07時10分広島県草津漁港を発して広島市佐伯区五日市町沖合の漁場に至り、南北方向に繰り返し曳網する方法で操業を開始した。
A受審人は、09時ごろ曳網を終えて揚網した後、09時17分津久根島の20メートル島頂(以下「津久根島島頂」という。)から300.5度(真方位、以下同じ。)1,470メートルの地点に達したとき、針路を358度に定め手動操舵とし、機関を極微速力前進の0.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)にかけて、後部甲板上で袋網の後片付けをしながら進行した。

09時19分A受審人は、津久根島島頂から301.5度1,490メートルの地点に達したとき、右舷船首88度510メートルのところに、前路を左方に横切る態勢の栄光丸を初認し、その後方位に変化がなく衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、一瞥(いちべつ)しただけで同船が自船の前方を無難に航過するものと思い、同船に対する動静監視を十分に行うことなく、この状況に気付かず、引き続き片付けに専念して、同船の進路を避けないまま進行した。
09時20分わずか前A受審人は、ふと右舷方を見たとき、至近に迫った栄光丸を認め、あわてて全速力後進としたが、効なく、09時20分成章丸は、津久根島島頂から302度1,500メートルの地点において、原針路、後進行きあしになり始めたころ、その右舷船首部に、栄光丸の船首部がほぼ直角に衝突した。

当時、天候は晴で風はほとんどなく視界は良好で、潮候は上げ潮の中央期であった。
また、栄光丸は、一本つり漁業に従事し、船体中央部に操舵室を有するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、同僚に前日漁獲したあなごを届ける目的で、船首0.2メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、09時広島港宇品地区船だまりを発し、宇品島南方を迂回し、陸岸に沿って西方6海里の同港廿日市地区船だまりに向かった。
09時17分B受審人は、津久根島島頂から017度880メートルの地点に達したとき、目的地の入口に向け針路を268度に定め手動操舵として、機関を全速力前進より僅かに減じた16.5ノットの速力にかけて進行した。
09時18分B受審人は、草津漁港方面に向かう第三船が船首方約100メートルを右方に替わったころ、左舷船首2度1,030メートルのところを北上中の成章丸を認めたが、一瞥して速力の遅い漁船だから、その前路を無難に航過できるものと思い、その後、舵を中央として前部甲板上で、前日使用した漁具を片付けながら進行した。

09時19分B受審人は、津久根島島頂から317度1,110メートルの地点に達したとき、成章丸が同一方位のまま510メートルとなり、衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、動静監視を十分に行うことなく、この状況に気付かず、警告信号を行うことも、更に接近して、衝突を避けるための協力動作をとることもなく、同じ針路、速力で続航中、一通りの作業を終え、操縦席に戻って前方をふと見たところ、同船を認め、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、成章丸は右舷船首部外板に、栄光丸は船首部外板にそれぞれ破口を生じたが、のちいずれも修理され、B受審人は上口唇裂傷を負った。


(原因)
本件衝突は、広島港内の五日市町沖合において、両船が、互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、成章丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る栄光丸の進路を避けなかったことによって発生したが、栄光丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、広島港内の五日市町沖合において、揚網作業を終え微速力で進行中、右舷方に前路を左方に横切る態勢の栄光丸を認めた場合、衝突の有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一瞥しただけで栄光丸が自船を無難に航過するものと思い、同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、栄光丸が衝突のおそれのある態勢で接近する状況に気付かず、同船の進路を避けることなく進行して栄光丸との衝突を招き、自船の右舷船首部外板及び栄光丸の船首部外板にそれぞれ破口を生じさせ、B受審人に上口唇裂傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

B受審人は、広島港内の五日市町沖合において、廿日市地区船だまりに向け航行中、自船の前路を右方に横切る態勢で接近する成章丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一瞥して速力の遅い漁船だから、その前路を無難に航過できるものと思い、成章丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船と衝突のおそれのある態勢で接近する状況に気付かず、警告信号を行わず、その後、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して成章丸との衝突を招き、両船に前示の損傷及び同人に負傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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