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2000年(平成12年)

平成11年神審第6号
    件名
漁船第三辰栄丸遊漁船つるしま丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年2月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

工藤民雄、須貝壽榮、西田克史
    理事官
坂本公男

    受審人
A 職名:第三辰栄丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士
B 職名:つるしま丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
辰栄丸・・・・・船首部及び船底外板に亀裂
つるしま丸・・・後部両舷外板に破損

    原因
辰栄丸・・・・・見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
つるしま丸・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、第三辰栄丸が、見張り不十分で、錨泊中のつるしま丸を避けなかったことによって発生したが、つるしま丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年4月5日09時25分
和歌山県湯浅湾南部
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三辰栄丸 遊漁船つるしま丸
総トン数 3.4トン 0.7トン
全長 7.00メートル
登録長 10.32メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 209キロワット 7キロワット
3 事実の経過
第三辰栄丸(以下「辰栄丸」という。)は、船体中央部やや船尾寄りに操舵室を設けたFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、たちうお引き縄漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成10年4月4日22時30分和歌山県衣奈漁港を発し、同県日ノ御埼南南西方11海里付近の漁場に向かった。
翌5日00時30分ごろA受審人は、目的の漁場に到着し、その後漁場を移動しながら引き縄漁を繰り返し、たちうお60キログラムを獲て操業を打ち切り、08時06分紀伊日ノ御埼灯台から213度(真方位、以下同じ。)10.9海里の地点を発進し、衣奈漁港に向けて帰途についた。

発進時、A受審人は、和歌山県湯浅湾南部の海鹿島と白埼との間を通航するつもりで、針路を023度に定め、機関を全速力前進にかけ、12.5ノットの対地速力で、上部操舵室中央の舵輪後方左舷寄りでいすに腰を掛けて見張りに当たって自動操舵により進行した。
09時22分A受審人は、白埼に500メートル近づいた、紀伊海鹿島灯標から138度600メートルの地点に達し、針路を海鹿島と白埼の間に向ける010度に転じたとき、正船首1,200メートルのところに、錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げ、左舷側を見せて錨泊しているつるしま丸を視認でき、その後同船に衝突のおそれがある態勢で向首接近する状況となった。
しかし、A受審人は、飛沫で汚れた風防ガラス越しに一べつし、前路に支障となる他船はいないと思い、右舷側の浅礁帯との接近模様を確かめることや次の転針地点を確認するため陸上物標を見ていて、前路の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、つるしま丸を避けることなく続航した。

09時25分わずか前、A受審人は、そろそろ衣奈漁港に向ける転針地点に近づいたので、転針しようかと前方に目を転じたとき、船首至近に迫ったつるしま丸を初めて視認し、驚いて機関を停止し、次いで左舵一杯をとったが及ばず、09時25分紀伊海鹿島灯標から040度950メートルの地点において、辰栄丸は、原針路、原速力のまま、その船首がつるしま丸の左舷後部に、ほぼ直角に衝突し、これに乗り上げた。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期であった。
また、つるしま丸は、FRP製小型遊漁兼用船で、魚釣りの目的をもって、B受審人が所有者から借り入れ、1人で乗り組み、友人など4人を乗せ、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、同日06時55分和歌山県戸津井漁港を発し、十九島(つるしま)東方の釣り場に至って釣りを開始した。

そしてB受審人は、1時間ほど釣りを続けたが、釣果がなかったので、釣り場を変え、08時50分ごろ地元漁船などがよく通航する水域である前示衝突地点に至り、機関を停止し、船首から重さ約15キログラムの錨を水深約35メートルの海底に投じ、錨索を約40メートル延出し、右舷船尾の甲板上1.5メートルのところに直径30センチメートルの黒球を掲げて錨泊し、再び釣りを開始した。
その後、B受審人は、船尾部に腰を掛けて右舷側に釣竿を出し、また同乗者が左舷船首部と右舷中央部にそれぞれ分かれて舷外に竿を出して釣りを続けていたところ、09時22分船首が280度に向いていたとき、左舷正横1,200メートルに、来航する辰栄丸を視認することができる状況で、その後同船が自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近していたが、錨泊中の自船を航行船がかわしていくものと思い、釣りに気をとられ、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行わなかった。

09時25分少し前、B受審人は、自船に向けて来航する辰栄丸に気付いた同乗者の「当たる、当たる。」という叫び声を聞き、左舷方を見たとき至近に迫った辰栄丸を認めたがどうすることもできず、つるしま丸は280度に向けたまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、辰栄丸は船首部及び船底外板に亀裂を生じ、つるしま丸は後部両舷外板に破損を生じたが、のちいずれも修理された。


(原因)
本件衝突は、和歌山県湯浅湾南部の海鹿島北東方海域において、辰栄丸が衣奈漁港に向けて帰港中、見張り不十分で、前路で錨泊中のつるしま丸を避けなかったことによって発生したが、つるしま丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、湯浅湾南部の海鹿島と白埼の間を抜け、衣奈漁港に向けて航行する場合、前路で錨泊中のつるしま丸を見落とすことのないよう、船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、一べつしただけで前路に支障となる他船はいないと思い、右舷側の浅礁帯との接近模様を確かめることや次の転針地点を確認するため陸上物標を見ていて、船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊中のつるしま丸に気付かず、同船を避けることなく進行してつるしま丸との衝突を招き、辰栄丸の船首部及び船底外板に亀裂を、またつるしま丸の後部両舷外板に破損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

B受審人は、漁船などが通航する海鹿島北東方海域において、錨泊して釣りを行う場合、左舷方から衝突のおそれがある態勢で接近する辰栄丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、錨泊中の自船を航行船がかわしていくものと思い、釣りに気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、辰栄丸が衝突のおそれがある態勢で向首接近していることに気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行わないまま釣りを続け、同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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