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2000年(平成12年)

平成11年神審第54号
    件名
漁船徳栄丸プレジャーボート茂丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年2月23日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

須貝壽榮、米原健一、西田克史
    理事官
竹内伸二

    受審人
A 職名:徳栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:茂丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
徳栄丸・・・右舷船尾が破損
茂丸・・・船首に破口、船長が鼻骨骨折及び顔面挫裂創、同乗者が鎖骨骨折及び左肩腱板断裂

    原因
徳栄丸・・・法定灯火不表示、見張り不十分、注意喚起信号不履行(主因)
茂丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、徳栄丸が、法定灯火を表示せず、かつ、見張り不十分で、後方から接近する茂丸に対して注意喚起を行わなかったことによって発生したが、茂丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年2月23日18時30分
高知県宿毛湾
2 船舶の要目
船種船名 漁船徳栄丸 プレジャーボート茂丸
総トン数 2.7トン
全長 11.00メートル 6.01メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 29キロワット
漁船法馬力数 25
3 事実の経過
徳栄丸は、小型機船底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、音響信号の設備を備えず、A受審人が単独で乗り組み、操業の目的で、船首0.50メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、平成10年2月23日17時30分高知県池島漁港を発し、長崎鼻西方沖合に向かった。
A受審人は、徳栄丸の所有者を息子名義にしているものの、専ら自身のみが同船に乗り組んで運航していたもので、17時50分沖ノ瀬の漁場に至り、網口を広げるためのビームを取り付けたえびこぎ網の投網に取り掛かり、18時00分土佐長崎鼻灯台(以下「長崎鼻灯台」という。)から257度(真方位、以下同じ。)2.4海里の地点で、船尾から直径20ミリメートルの化学繊維製索1条を100メートル延出して網を引き、針路を061度に定め、機関を回転数毎分800の微速力前進にかけ、2.5ノットの対地速力で手動操舵により進行した。

A受審人は、船体中央部に設けた操舵室の上方に両色灯を点灯したものの、対水速力を有しトロールにより漁労に従事していることを示す緑色、白色の各全周灯及び船尾灯を表示せず、船尾灯のつもりで、幅が1.03メートルある同室後壁外側の、中央より少し右舷寄りで甲板上1.33メートルの高さのところに、24ボルト3ワットの白灯1個を点灯していたが、その光力が弱く、後方から接近する他船にとって近距離にならなければ、同白灯を視認できないことに気付かなかった。
やがて、A受審人は、長崎鼻西方に設置されている北側と南側のはまち養殖施設の間に開けた幅400メートルの水路に差し掛かり、平素から宿毛湾湾奥の諸港に出入りする漁船やプレジャーボートなど通航量の多い水路であったところ、操舵室の後方左舷側でいすに腰を掛け、顔を同室の屋上に出して前方の見張りに当たっていた。

そして、A受審人は、18時25分少し過ぎ右舷船尾4.5度670メートルのところに、茂丸の両色灯を視認することができる状況となり、同時29分その方位が変わらず140メートルに接近していたが、後方から接近する他船はいないと思い、左右のはまち養殖施設の標識灯を見ていて周囲の見張りを厳重に行わなかったので、茂丸が衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、同船に対して懐中電灯の照射により注意喚起を行うことなく続航中、18時30分長崎鼻灯台から272度1.3海里の地点において、徳栄丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船尾に、茂丸の船首が後方から3度の角度で衝突した。
当時、天候は雨で風力2の東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
また、茂丸は、船外機付のFRP製プレジャーボートで、B受審人が船舶所有者の依頼により単独で乗り組み、知人1人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.15メートル船尾0.45メートルの喫水をもって、同日14時00分高知県大浦漁港を発し、沖合の釣り場に向かった。

B受審人は、14時15分長崎鼻西方2海里付近の高望出シと称する瀬に至って錨泊し、同乗者とともに釣りを始め、その後場所を移動したり、日没後も漂泊のうえいか釣りを試みたりしたが釣果がなく、釣りを切り上げて帰航することとし、18時20分マスト上端に取り付けられている白色全周灯のスイッチを入れたものの、錆付きのために点灯できず、操舵室の前部に両色灯のみを表示し、長崎鼻灯台から251度2.0海里の地点を発進して帰途に就いた。
やがて、B受審人は、はまち養殖施設の間に開けた水路の西口に差し掛かり、南側の同養殖施設北西端を右舷側に50メートル離して回り込み、船首を北東方に向けたところで機関を中立とし、眼鏡に付着した水滴をふき取ったのち、18時25分少し過ぎ長崎鼻灯台から261.5度1.8海里の地点で針路を058度に定め、機関を微速力前進にかけ、7.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。

定針したときB受審人は、左舷船首1.5度670メートルのところに、曳網中の徳栄丸が存在していたが、トロールにより漁労に従事していることを示す緑色、白色の各全周灯及び船尾灯を表示していなかったばかりでなく、操舵室後壁の外側に点灯した白灯の光力が弱く、これを視認することができなかったことから、前方には他船はいないと思い、操舵室の後方に立ち顔を同室の屋上に出した姿勢で見張りに当たり、同乗者を左舷後部のさぶたの上に腰を掛けさせて続航した。
その後、B受審人は、徳栄丸の方位が変わらずにその後方から接近し、18時29分距離が140メートルになったとき、同船の白灯を視認することができる状況で、衝突のおそれがあったが、依然、前方には他船はいないと思い、左右のはまち養殖施設の標識灯を見ていて、見張りを厳重に行わなかったので、このことに気付かず、速やかに右転するなど徳栄丸との衝突を避けるための措置をとることなく進行していたところ、18時30分わずか前、船首至近に自船の両色灯に照らされた徳栄丸の船尾部を初めて視認したものの、何らの措置をとることができず、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。

衝突の結果、徳栄丸は右舷船尾が破損し、茂丸は船首に破口を生じたが、いずれも自力で帰航し、のち修理された。また、B受審人が鼻骨骨折及び顔面挫裂創を、茂丸の同乗者が鎖骨骨折及び左肩腱板断裂をそれぞれ負った。

(原因)
本件衝突は、夜間、平素から漁船やプレジャーボートなど通航量の多い宿毛湾の水路において、徳栄丸が、法定灯火を表示せず、かつ、見張り不十分で、後方から接近する茂丸に対して懐中電灯の照射により注意喚起を行わなかったことによって発生したが、茂丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、平素から漁船やプレジャーボートなど通航量の多い宿毛湾の水路において、法定灯火を表示せずに微速力で航行する場合、後方から接近する茂丸の灯火を見落とさないよう、周囲の見張りを厳重に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、後方から接近する他船はいないと思い、左右のはまち養殖施設の標識灯を見ていて、周囲の見張りを厳重に行わなかった職務上の過失により、後方から接近する茂丸の灯火に気付かず、懐中電灯の照射により注意喚起を行わずに進行して同船との衝突を招き、自船の船尾右舷側及び茂丸の船首端をそれぞれ破損させ、茂丸の船長に鼻骨骨折及び顔面挫裂創を、同乗者に鎖骨骨折及び左肩腱板断裂をそれぞれ負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

B受審人は、夜間、平素から漁船やプレジャーボートなど通航量の多い宿毛湾の水路において、大浦漁港に向けて北東進する場合、前路に存在する徳栄丸の灯火を見落とさないよう、見張りを厳重に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前方には他船はいないと思い、左右のはまち養殖施設の標識灯を見ていて、見張りを厳重に行わなかった職務上の過失により、徳栄丸の灯火に気付かず、衝突を避けるための措置をとらずに進行して同船との衝突を招き、前示のとおり損傷を生じさせるとともに、負傷させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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