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2000年(平成12年)

平成10年神審第70号
    件名
貨物船フェリー東京貨物船正啓丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年2月22日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

工藤民雄、佐和明、西田克史
    理事官
坂本公男

    受審人
A 職名:フェリー東京船長 海技免状:一級海技士(航海)
B 職名:正啓丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
C 職名:正啓丸次席一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
東京・・・左舷前部及び左舷後部外板に破口を伴う凹損
正啓丸・・・船首部を圧壊

    原因
正啓丸・・・動静監視不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
東京・・・警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、正啓丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切るフェリー東京の進路を早期に避けなかったことによって発生したが、フェリー東京が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作が適切でなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Cを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年7月25日02時05分
明石海峡東口
2 船舶の要目
船種船名 貨物船フェリー東京 貨物船正啓丸
総トン数 5,968トン 497トン
全長 157.86メートル 70.98メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 17,652キロワット 882キロワット
3 事実の経過
フェリー東京(以下「東京」という。)は、船体中央部やや船首寄りに船橋を有する、2基2軸の推進機関を備えた貨物・自動車フェリーで、京浜港、沖縄県那覇港、静岡県清水港、鹿児島県志布志港の間の定期運航に従事していたところ、A受審人ほか11人が乗り組み、旅客1人を乗せ、コンテナ及び車両2,956トンを積載し、船首5.50メートル船尾6.20メートルの喫水をもって、平成9年7月24日13時20分清水港を発し、志布志港に向かう航行の途、四国南方沖合を北上する台風9号の影響を避けるため、当初の四国沖合から瀬戸内海経由に変更し、紀伊水道に次いで大阪湾を北上した。

A受審人は、翌25日01時25分ごろ洲本沖灯浮標付近で昇橋し、船橋前部中央付近に立って操船指揮を執り、所定の灯火が点灯していることを確かめ、同時46分仮屋港南防波堤灯台から107度(真方位、以下同じ。)4.5海里の地点で、針路を明石海峡航路東方灯浮標の東側に向く010度に定め、機関を全速力前進にかけ、23.0ノットの対地速力で進行した。
その後、A受審人は、二等航海士を見張りとレーダー監視に、甲板手を手動操舵に、また機関長を機関遠隔操縦装置の操作にそれぞれ配置し、01時55分明石海峡東口に近づき、前方に西行するフェリーなどを認めるようになったので、機関を17.0ノットの対地速力に減速し、同時59分平磯灯標から159度3.5海里の地点に達したとき、前路に散在する漁船を避けるため針路を358度に転じた。
このとき、A受審人は、左舷船首32度2.0海里に東行する正啓丸の白、白、緑3灯を初めて視認し、またその南側に同じように東行するフェリーを認め、これらの動静を監視していたところ、正啓丸が前路を右方に横切り、方位がほとんど変わらず衝突のおそれがある態勢で接近してくることを知った。

02時02分半A受審人は、明石海峡航路東方灯浮標を左舷側に約650メートル離して航過し、間もなく前示東行するフェリーが右転して自船の船尾方に向けたことを認め、いずれ正啓丸も同じように右転して自船をかわすだろうと思いながら様子を見守っているうち、同時03分少し前同船が避航の気配がないまま1,450メートルに接近し、衝突を避けるために十分な動作をとっていることについて疑いがあったが、警告信号を行わずに進行した。
A受審人は、02時03分半正啓丸がそのまま東行を続け、左舷船首35度1,000メートルに接近したのを認めたが、左転によって同船を右舷側にかわすことができるものと思い、速やかに右舵一杯、機関を後進にかけるなど衝突を避けるための適切な協力動作をとることなく、左舵10度を令して左回頭していたところ、間もなく正啓丸が右転していることに気付き、急いで右舵一杯にとり直しを命じて短音1回を吹鳴し、次いで汽笛を繰り返し吹鳴して右転中、02時05分少し前正啓丸が左舷船首方近距離に迫ったので、機関を停止としたが効なく、02時05分平磯灯標から146度1.95海里の地点において、東京は、船首が010度に向いたとき、15.0ノットの対地速力をもって、その左舷前部に正啓丸の船首が後方から80度の角度で衝突した。

当時、天候は晴で風力4の南東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期にあたり、衝突地点付近には微弱な西流があった。
また、正啓丸は、可変ピッチプロペラを装備した船尾船橋型の貨物船で、B、C両受審人ほか2人が乗り組み、鋼材1,490トンを載せ、船首3.85メートル船尾4.48メートルの喫水をもって、同月24日16時55分広島県福山港を発し、大阪港堺泉北区に向かった。
発航後、B受審人は、船橋当直をC受審人と2人による単独6時間交替として瀬戸内海を東行し、22時ごろ小豆島大角鼻沖合で、昇橋したC受審人に当直を引き継ぐことにし、やがて明石海峡航路を通航するに当たり、同人が船橋当直の経験が豊富であったことから、特に指示するまでもないと思い、同航路及び航路出口付近で自ら操船指揮を執ることができるよう、明石海峡西口に達したときの報告について指示することなく、当直を引き継いで降橋した。

こうしてC受審人は、単独で船橋当直に就き、所定の灯火が点灯していることを確かめて播磨灘を東行し、翌25日01時20分ごろ明石海峡西口に差し掛かったが、B受審人から何ら報告について指示を受けていなかったことから、自ら操船しても大丈夫と思い、同受審人に報告することなく、同時30分明石海峡航路に入航して航路に沿って進行した。
01時52分C受審人は、明石海峡航路中央第3号灯浮標を左舷側近距離に航過して航路を出たのち、散在する漁船を避けるためそのまま南東進し、同時56分平磯灯標から193度1.7海里の地点で、針路を087度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で、舵輪の後方に立ち見張りを兼ね手動で操舵に当たって続航した。
C受審人は、01時59分平磯灯標から175度1.6海里の地点に達したとき、右舷船首59度2.0海里に北上する東京の白、白、紅3灯のうち紅1灯のみを視認したが、このころ右舷前方近距離のところをフェリーが同航していたことや前方に漁船が散在していたことから、これらに気をとられ、東京の動静監視を十分に行っていなかったので、その後同船が前路を左方に横切り、方位がほとんど変わらず衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、その進路を早期に避けないで進行した。

02時03分半少し過ぎC受審人は、右舷方を見たとき右舷船首56度900メートルに接近した東京を認め、急いで同船を左舷側にかわすため右舵一杯をとって右回頭していたところ、東京が左転していることに気付き、左舵一杯にとり直して元の針路に戻しているうち、同時05分少し前東京が急速に迫ってくるので、衝突の危険を感じて機関を停止し、次いで全速力後進にかけたが及ばず、正啓丸は、090度を向いて9.0ノットの対地速力となったとき、前示のとおり衝突した。
B受審人は、自室で休息中、衝撃を感じ、急いで昇橋して衝突を知り、事後の措置に当たった。
衝突の結果、東京は、左舷前部及び左舷後部外板に破口を伴う凹損を生じ、正啓丸は、船首部を圧壊したが、のちいずれも修理された。


(原因)
本件衝突は、夜間、明石海峡東口において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、正啓丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る東京の進路を早期に避けなかったことによって発生したが、東京が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作が適切でなかったことも一因をなすものである。
正啓丸の運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対して明石海峡西口に接近したときの報告について指示しなかったことと、船橋当直者が、同海峡西口に接近したとき船長に報告しなかったこと及び東京に対する動静監視を十分に行わなかったこととによるものである。


(受審人の所為)
B受審人は、夜間、明石海峡を通航する予定で小豆島大角鼻沖合を東行中、船橋当直を次席一等航海士に任せる場合、明石海峡航路及び航路東出口付近で自ら操船指揮が執れるよう、明石海峡西口に達したときの報告について指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、同航海士が船橋当直の経験が豊富であったことから、特に指示するまでもないと思い、明石海峡西口に達したときの報告について指示しなかった職務上の過失により、明石海峡航路東出口付近で自ら操船指揮を執ることができず、東京が前路を左方に横切る態勢で接近した際、同船の進路を早期に避けられないまま同船との衝突を招き、正啓丸の船首部を圧壊させ、また東京の左舷前部及び左舷後部外板に破口を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

C受審人は、夜間、単独で船橋当直に就き、明石海峡航路東出口付近を東行中、右舷方に前路を左方に横切る態勢で北上する東京の紅1灯のみを視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷前方近距離のところを同航するフェリーや前方に散在する漁船に気をとられ、東京に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、その進路を早期に避けずに進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、明石海峡東口を北上中、東行する正啓丸の白、白、緑3灯を視認し、同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で間近に接近するのを認めた場合、速やかに右舵一杯、機関を後進にかけるなど衝突を避けるための適切な協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、左転することによって同船を右舷側にかわすことができるものと思い、速やかに右舵一杯、機関を後進にかけるなど衝突を避けるための適切な協力動作をとらなかった職務上の過失により、正啓丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。

以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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