日本財団 図書館




2000年(平成12年)

平成11年門審第101号
    件名
油送船第八辰広丸引船第十一隼丸引船列衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年9月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

原清澄、米原健一、西山烝一
    理事官
坂爪靖

    受審人
A 職名:第八辰広丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第八辰広丸次席一等航海士 海技免状:三級海技士(航海)
C 職名:第十一隼丸一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)(履歴限定)
    指定海難関係人

    損害
辰広丸・・・・・推進器に曲損等
隼丸・・・・・機関室に海水が流入、主機関や補機関等に濡損及び左舷船尾部ブルワークの曲損等

    原因
辰広丸・・・・・動静監視不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
隼丸引船列・・・警告信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、第八辰広丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る第十一隼丸引船列の進路を避けなかったことによって発生したが、第十一隼丸引船列が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Bの三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年1月7日01時48分
大分県杵築湾東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 油送船第八辰広丸
総トン数 748トン
全長 70.49メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
船種船名 引船第十一隼丸 台船鶴丸803
総トン数 76.90トン
載貨重量 1,500トン
全長 45メートル
登録長 21.90メートル
幅 15メートル
深さ 2.5メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
3 事実の経過
第八辰広丸(以下「辰広丸」という。)は、灯油やガソリンなどを専門に運送する船尾船橋型鋼製油送船で、A、B両受審人ほか5人が乗り組み、灯油などを1,850キロリットル積載し、船首3.7メートル船尾4.9メートルの喫水をもって、平成11年1月6日15時20分香川県坂出港を発し、航行中の動力船が表示する法定灯火を点灯して、大分県大分港港外に錨泊する予定で同港に向かった。

ところで、A受審人は、船橋当直を単独の3直4時間交替制とし、0時から4時をB受審人が、4時から8時を一等航海士が、8時から12時をA受審人がそれぞれ行って辰広丸の運航にあたっていた。
22時25分A受審人は、由利島灯台から146度(真方位、以下同じ。)400メートルの地点に達したとき、針路を236度に定め、機関を12.0ノットの全速力前進にかけて自動操舵により進行し、23時36分ごろ平郡沖ノ瀬灯標から160度4.1海里の地点で、昇橋したB受審人と船橋当直を交替することにしたが、平素から視界が悪くなったり、漁船が多くて不安を感じるようなときには報告するように指示していたうえ、周囲に他船もおらず、視界も良好であったことから、針路の申し送りをしたのち、降橋して自室で休息した。
B受審人は、引き継いだ針路、速力を保って続航し、翌7日00時45分ごろホウジロ島の南方沖合に達したころ、下げ潮流の影響を受け始め、2度ばかり左方に圧流されながら12.3ノットの対地速力で進行し、01時27分臼石鼻灯台から068度10.0海里の地点に達したとき、前路を一瞥(べつ)して右舷船首26度4.8海里のところに、第十一隼丸(以下「隼丸」という。)が垂直に連携した白灯3個を初認し、同灯火の点灯模様から引船列であろうと判断したが、通常、引船列は速力が遅いので、自船の航行の妨げとはならないものと思い、その後、隼丸引船列に対する動静監視を行うことなく続航した。

01時39分少し過ぎB受審人は、臼石鼻灯台から072度7.5海里の地点に達したとき、右舷船首25度2.0海里のところに隼丸引船列の灯火を視認でき、その後、同引船列が自船の前路を左方に横切り、衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況となったが、動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同引船列の進路を避けないまま、同時45分ごろ02時の気象を航海日誌に記載するため、操舵場所から離れて気象観測を行い、船尾方を向き、海図台に向かって同日誌の記載を始めた。
01時48分わずか前B受審人は、航海日誌への記載を終え、振り返って前路を見たとき、左舷前方至近に前路を航過したばかりの隼丸を、右舷前方至近に鶴丸803(以下「台船」という。)をそれぞれ認め、前路の海面上に張った曳(えい)航索を認めたが、左右いずれに舵を取っても衝突が避けられない状況下、直進すれば曳航索を切断して航過できるものと思い、原針路、原速力のまま進行中、01時48分臼石鼻灯台から078度5.8海里の地点において、辰広丸は、隼丸の船尾端から約30メートルの曳航索に約45度の角度をもって衝突した。

当時、天候は曇で風力2の南西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、付近海域にはほぼ南方に流れる約0.6ノットの潮流があった。
A受審人は、衝突の衝撃で目覚め、直ちに昇橋して事後の措置にあたった。
また、隼丸は、鋼製の引船で、船長D及びC受審人ほか2人が乗り組み、同船の後方に直径75ミリメートルの化学繊維製曳航索を50メートルばかり繰り出し、鋼管204トンを積載して喫水が船首0.6メートル船尾0.7メートルとなった台船を曳航し、隼丸の船首端から台船の船尾端までの長さを131メートルばかりの引船列としたうえ、船首1.80メートル船尾3.00メートルの喫水をもって、平成11年1月6日14時30分関門港若松区戸畑を発し、鹿児島県鹿児島港に向かった。
出港後、D船長は、C受審人に操舵を行わせ、自らは操船の指揮をとって港域を出たのち、C受審人と操舵を交替し、同人に対して曳航索を150メートルまで伸ばすよう指示し、隼丸の船尾端から台船の船尾端までの長さを211メートルとし、17時20分ごろ降橋して食事をとったのち、再び昇橋して24時までの船橋当直に就いた。

ところで、D船長は、隼丸にはマスト灯3個と黄色閃光灯、舷灯、船尾灯、引き船灯及び台船を照らすための探照灯をそれぞれ点灯し、台船には両舷の甲板上高さ約1.3メートルのところに、それぞれ4個の単一型乾電池4個を電源とする点滅式全周灯を船首尾方向に点灯し、このうち船首端の左舷側点滅式全周灯を紅色灯とし、右舷側点滅式全周灯を緑色灯として舷灯に替え、他は全て白色灯としていた。
23時50分ごろC受審人は、国東港田深沖防波堤灯台から350度3.3海里のところで、D船長から船橋当直を引き継ぎ、南西方からの寒風を避けるため、甲板上の右舷側機関室出入口、右舷側居住区出入口、機関室上部のスカイライト及び前部甲板上の倉庫出入口のハッチなどを閉めた状態で、陸岸に接航する進路で航行を続け、翌7日01時28分少し過ぎ臼石鼻灯台から056度5.3海里の地点に達したとき、右舷前方及び左舷正横付近に点在する漁船群を認めていたこともあって、これら漁船群の間を航行するよう、左転して針路をほぼ高島に向首する140度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの潮流の影響で4度ばかり右方に圧流されながら、6.4ノットの対地速力で、自動操舵により進行した。

01時39分少し過ぎC受審人は、臼石鼻灯台から069度5.5海里の地点に達したとき、左舷船首59度2.0海里のところに、辰広丸の白、白、緑3灯を認め、このまま続航すると衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況にあったが、同灯火の見え具合から同船が大分港に向かう船で、前路を右方へ横切る態勢にあり、いずれ保持船である自船の進路を避けるものと思い、針路、速力を保ったまま進行した。
01時44分少し前C受審人は、左舷船首59度1.0海里まで迫った辰広丸が掲げる灯火を視認する状況となり、危険を感じたものの、警告信号を行うと他の乗組員を起こすこととなるので、これを行わず、船橋上部の暴露甲板に設置した探照灯を同船の船橋に向けて照射したところ、避航の気配が認められないまま、なおも接近するので衝突を避けるための協力動作として右舵を数回とって避航を始めたが、及ばず、隼丸は、辰広丸とほぼ並航する針路となったとき、前示のとおり衝突した。

衝突の結果、辰広丸は、推進器に曲損などを生じ、隼丸は、曳航索に引かれてゆっくりと右舷側に90度ばかり傾き、機関室に海水が流入し、更に同索に引かれて船尾部が辰広丸の推進器などに衝突して主機関や補機関などに濡損及び左舷船尾部ブルワークの曲損などを生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、大分県杵築湾東方沖合において、第八辰広丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る第十一隼丸引船列の進路を避けなかったことによって発生したが、第十一隼丸引船列が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
B受審人は、夜間、大分県杵築湾東方沖合において、大分港港外の予定錨地に向けて西行中、右舷前方に第十一隼丸引船列の白灯3個を視認した場合、衝突のおそれがあるかどうか判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、通常、引船列は速力が遅いので、自船の航行の妨げとはならないものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、第十一隼丸引船列の動向の変化に気付かないまま進行して同引船列の曳航索との衝突を招き、その反動で第十一隼丸を右方に著しく傾斜させて煙突などから機関室に海水を流入させ、その結果、同室内の機器に濡損を、自船の推進翼に曲損を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

C受審人は、夜間、大分県杵築湾東方沖合を鶴丸803を曳航して南下中、左舷前方に第八辰広丸の白、白、緑3灯を視認し、自船の前路を右方に横切る態勢にあることを知り、探照灯を照射しても同船に避航の気配が認められない場合、警告信号を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、第八辰広丸が保持船である自船の進路を避けるものと思い、警告信号を行わなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、前示損傷を被るに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION