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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成11年5月15日07時00分 山口県吉見漁港西方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船朝凪丸 プレジャーボート北斗丸 総トン数 4.74トン 全長 11.60メートル 4.98メートル 機関の種類 ディーゼル機関
電気点火機関 出力 200キロワット
29キロワット 3 事実の経過 朝凪丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、知人1人を同乗させ、船首0.5メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、平成11年5月15日06時10分関門港門司区の大里船だまりを発し、山口県吉母漁港西方沖合の漁場に向かった。 A受審人は、操舵室内で見張りを兼ねて操船に当たり、機関を適宜使用して11.0ノットの対地速力で関門航路を西行し、06時51分少し前六連島灯台から029度(真方位、以下同じ。)1.2海里の地点に達したとき、針路を漁場に向首する352度に定め、機関を全速力前進に増速し、18.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。 ところで、朝凪丸は、高速力で航行すると船首が浮上し、船体中央部船尾寄りにある操舵室で見張りに当たると前方に死角を生じるので、死角を補う見張りができるよう、操舵室天井に開口部が設けられていた。 定針時A受審人は、船舶が輻輳(ふくそう)する関門港を通過したので、操舵室内右舷寄りの操舵輪後方に置いたいすに腰を掛けて見張りを続けるため、前路の安全を確認することとし、いすの前に置いた台の上に立ち、天井開口部から顔を出して前路の船舶の有無を確認したところ、左舷前方に自船と同じ大きさぐらいの2隻の漁船を認めたものの、正船首方向2.8海里に存在する北斗丸を認めることができないまま、進路上には他船はいないのでしばらくは大丈夫と思い、いすに腰を掛けて続航した。 こうして、A受審人は、正船首方向右舷側に約5度、左舷側に約10度にわたって船首構造物に妨げられて水平線が見えなくなる状態で見張りに当たり、06時58分来留見瀬灯標から242度1.2海里の地点に達したとき、正船首方1,100メートルのところに錨泊していることを示す形象物を掲げないで錨泊中の北斗丸左舷側を視認でき、その後同船の方位が変わらず、停留状態に見える同船に衝突のおそれがある態勢で接近していることがわかる状況であった。しかし、A受審人は、前路に他船がいないものと思い込み、立ち上がって天井開口部から顔を出すなど、前路の死角を補う見張りを十分に行わなかったので、北斗丸の存在に気付かず、これを避けることなく進行中、07時00分来留見瀬灯標から271度1.1海里の地点において、朝凪丸は、原針路、原速力のまま、その船首が北斗丸の左舷側中央部船首寄りにほぼ直角に衝突した。 当時、天候は曇で風力2の西風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。 また、北斗丸は、船体中央部右舷側に操縦席を設け、セルモータ始動式船外機を搭載したFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、知人1人を同乗させ、釣りをする目的で、船首0.2メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、同日05時50分山口県吉見漁港を発し、来留見瀬灯標西方の釣り場に向かい、06時30分前示衝突地点付近に至り、錨索として直径12ミリメートルの化学繊維索を用いた重さ6キログラムの唐人型錨を投錨し、錨索約30メートルを延出したのち、その端を容易に取り外しができる状態で船首部のクリートに固縛し、船首を262度に向けて錨泊した。 B受審人は、船舶が通常航行する海域であったものの、錨泊中であることを示すため、船内に備え付けられていた直径約30センチメートルの黒球を掲示しないまま、操縦席のいすの代わりに船横方向に置いた差し板に船尾方を向いて腰を掛け、同人の左舷側に知人を座らせて釣りを開始した。 06時58分B受審人は、左舷正横1,100メートルのところに自船に向首して来航する朝凪丸を視認でき、その後衝突のおそれがある態勢のまま接近したが、航行中の他船が自船を避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わず、このことに気付かないで、錨索を外して機関を使用するなど、衝突を避けるための措置をとらなかった。 やがてB受審人は、朝凪丸の機関音に気付いて左舷方を振り向いたところ、左舷正横近距離に同船を認め、危険を感じて立ち上がり、合成樹脂製の赤色バケツを振り回しながら大声で叫んだが効なく、北斗丸は、船首を262度に向けた状態のまま前示のとおり衝突した。 衝突の結果、朝凪丸は、船首のペイントが剥離(はくり)しただけであったが、北斗丸は、左舷中央部少し前の外板にくさび型破口を生じ、のち修理費の都合で廃船とされた。
(原因) 本件衝突は、山口県吉見漁港西方沖合において、漁場に向けて北上中の朝凪丸が、見張り不十分で、前路で形象物を掲げないまま錨泊中の北斗丸を避けなかったことによって発生したが、北斗丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、単独で操船して山口県吉見漁港西方沖合を北上する場合、いすに腰を掛けたまま前方の見張りに当たると船首方向に死角を生じる状態であったから、前路の他船を見落とすことがないよう、操舵室天井開口部から顔を出すなど、前路の死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一度同開口部から顔を出して前方の見張りを行い、正船首方向に他船を認めなかったことからしばらくは大丈夫と思い、前路の死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、法定の形象物を掲げないで錨泊し、停留状態に見える北斗丸の存在に気付かず、同船を避けることなく進行して同船との衝突を招き、自船船首部に擦過傷を、北斗丸の左舷側前部外板にくさび型破口をそれぞれ生じさせ、同船を廃船処分とさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。 B受審人は、山口県吉見漁港西方沖合において、錨泊して釣りを行う場合、避航の気配を見せないまま衝突のおそれがある態勢で接近する他船を見落とすことがないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、航行中の他船が自船を避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、避航の気配がないまま接近する朝凪丸に気付かず、錨索を外して機関を使用するなど、衝突を避けるための措置をとらずに同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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