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2000年(平成12年)

平成11年門審第124号
    件名
漁船恵祥丸漁船かつ丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年9月13日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

西山烝一、佐和明、米原健一
    理事官
坂爪靖

    受審人
A 職名:恵祥丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:かつ丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
恵祥丸・・・左舷側中央部外板に破口、操舵室を圧壊、のち修理費用の関係で解撤処理、
かつ丸・・・船首部を破損、推進器軸及び舵等に曲損

    原因
かつ丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守

    主文
本件衝突は、かつ丸が、漁場を発進するにあたり、見張り不十分で、船首方近距離で漂泊中の恵祥丸に向けて進行したことによって発生したものである。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年4月9日09時30分
宮崎県宮崎港北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船恵祥丸 漁船かつ丸
総トン数 4.71トン 4.6トン
登録長 9.80メートル 11.74メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 90 90
3 事実の経過
恵祥丸は、一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、平成11年4月9日07時20分宮崎県宮崎港を発し、同港北東方3海里ばかりの漁場に向かった。
A受審人は、07時40分同漁場に着き、長さ約60メートルの幹糸に長さ3メートルの枝糸20本を等間隔に取り付けた仕掛けを船尾から流して、たちうお引き縄漁を開始し、その後適宜釣り場を移動して操業を続け、09時16分宮崎港内防波堤灯台(以下「内防波堤灯台」という。)から066度(真方位、以下同じ。)1.57海里の地点において、機関を中立回転として漂泊し、投入していた仕掛けを引き揚げる作業を始めた。

09時30分わずか前A受審人は、船首が159度を向いた状態で、左舷側船尾端で後方を向いて幹糸を揚げ、甲板員が揚がってきたたちうおを釣り針から外していたとき、左舷船尾85度60メートルのところに、自船に向首して接近するかつ丸を初めて認め、衝突の危険を感じて大声で叫んだものの、どうすることもできず、09時30分前示漂泊地点において、恵祥丸は、船首を159度に向いて、その左舷中央部に、かつ丸の船首が後方から85度の角度で衝突し、乗り切った。
当時、天候は小雨で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の末期で、視界は約2海里であった。
また、かつ丸は、操舵室を船体後部に設けた一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.6メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同日05時30分宮崎港を発し、同港北東方3海里ばかりの漁場に向かった。

ところで、かつ丸は、速力が12ノットを超えるようになると船首部の浮上により船首方に死角が生じ、操舵室中央にある舵輪の後方に立って操船に当たると、正船首方の左右各舷約9度の間の水平線が見えなくなる状況であった。
B受審人は、05時40分漁場に至って直ちにたちうお引き縄漁を開始し、たちうお約40キログラムを獲たところで、水揚げのため一旦操業を打ち切り、09時29分半わずか過ぎ内防波堤灯台から066度1.64海里の地点で、270度に向首し漂泊した状態で釣り糸を引き揚げ、宮崎港に向けて発進することとした。
しかし、B受審人は、発進するとき、周辺水域に操業中の漁船が多数いる中で、港に一番近いところで操業していたことから、自船より港の方向に他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかったので、左舷船首22度130メートルのところに、恵祥丸が船首を南東方に向けて漂泊していることに気付かず、機関を5ノットの微速力前進にかけ、手動で少し左舵をとって発進した。

B受審人は、09時30分少し前内防波堤灯台から066度1.63海里の地点で左回頭を終え、針路を防波堤入口に向く244度に定めたとき、恵祥丸が正船首110メートルとなったものの、依然として見張り不十分でこのことに気付かないまま、機関を回転数毎分1,200にかけ、12.0ノットの対地速力となって船首方に死角を生じた状態のまま、同船に向首して衝突の危険がある態勢で進行し、09時30分わずか前機関を17.0ノットの対地速力に増速して、間もなく、かつ丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、恵祥丸は、左舷側中央部外板に破口を生じて操舵室を圧壊し、のち修理費用の関係から解撤処理され、かつ丸は、船首部を破損したほか、推進器軸及び舵などに曲損を生じたが、のち修理された。


(原因)
本件衝突は、宮崎港北東方沖合において、かつ丸が、帰港するため漁場を発進するにあたり、見張り不十分で、船首方近距離で漂泊中の恵祥丸に向けて進行したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
B受審人は、宮崎港北東方沖合において、帰港するため漁場を発進する場合、周辺水域には操業中の漁船が多数いたのであるから、船首方近距離で漂泊中の他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、港に一番近いところで操業していたことから、自船より港の方向に他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、船首方近距離で漂泊中の恵祥丸に気付かないまま、同船に向けて進行して同船との衝突を招き、恵祥丸の左舷側中央部外板に破口を生じさせて操舵室を圧壊し、かつ丸の船首部に破損及び推進器軸などに曲損を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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