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2000年(平成12年)

平成12年広審第22号
    件名
貨物船第五福神丸漁船広漁丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年9月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

横須賀勇一、工藤民雄、内山欽郎
    理事官
岩渕三穂

    受審人
A 職名:第五福神丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
C 職名:広漁丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
福神丸・・・右舷船首部外板に擦過傷
広漁丸・・・左舷船首部を圧壊

    原因
福神丸・・・居眠り運航防止措置不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
広漁丸・・・見張り不十分、各種船間の航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第五福神丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、漁ろうに従事する広漁丸の進路を避けなかったことによって発生したが、広漁丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年1月27日14時25分
瀬戸内海 伊予灘
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第五福神丸 漁船広漁丸
総トン数 197トン 4.98トン
登録長 52.26メートル 10.88メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 588キロワット
漁船法馬力数 15
3 事実の経過
第五福神丸(以下「福神丸」という。)は、主に瀬戸内海各港と日本海各港間において、木材チップ等の運搬に従事する船尾船橋型の貨物船で、A及びB指定海難関係人ほか1人が乗り組み、木材チップ約600トンを載せ、船首2.7メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、平成11年1月27日09時55分山口県岩国港を発し、島根県江津港へ向かった。
ところで、A受審人は、船橋当直を単独の4時間3直制とし、出入港操船及び狭水道操船は自らが指揮に当たり、当直を乗組員に任せる場合は船橋後部に設置されたソファで仮眠をとるなどして不測の事態に備えるとともに、日頃から、当直者に対しては眠気を催すことがあれば、外気にあたるとか、顔を洗うとか、船長を起こすなど具体的に指示し、居眠り運航の防止に配慮していた。

A受審人は、出港操船ののち安芸灘を南行し、大畠瀬戸を通航し終え広い海域に出たところで12時00分平郡水道第2号灯浮標付近において、B指定海難関係人に船橋当直を行わせることにし、運航上の指示を与えて船橋後部のソファで仮眠を始めた。
B指定海難関係人は、当直を引き継いだあと舵輪後方に置かれた背もたれ肘当て付きの椅子に腰掛けて当直に当たり、推薦航路に沿って平郡水道を西行し、14時07分姫島灯台から077度(真方位、以下同じ。)7.4海里の地点に達したとき、針路を周防灘航路第4号灯浮標に向ける280度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行した。
14時12分B指定海難関係人は、姫島灯台から075度6.6海里の地点に達したとき、両舷扉を閉鎖した暖かな船橋内で、海上も穏やかで視界もよく、付近に航行船もいなかったことから、気が緩み、眠気を催してきたが、特別に体調が悪いということもなく、睡眠も十分とっていたのでまさか居眠りすることはないと思い、立って当直に従事するとか、外気にあたるなど居眠り運航の防止措置をとることなく続航中、いつしか居眠りに陥った。

14時20分B指定海難関係人は、姫島灯台から068度5.4海里の地点に達したとき、右舷船首5度1.2海里のところに、漁ろうに従事する広漁丸を認め得る状況で、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが、居眠りしていてこのことに気付かず、同船の進路を避けないまま進行中、同時25分少し前ふと目覚めたとき、右舷船首至近に広漁丸の船体を初めて認め、慌てて機関を中立とし左舵一杯としたが効なく、14時25分姫島灯台から059度4.6海里の地点において、福神丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首部に広漁丸の船首部が前方から20度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好で、潮候は上げ潮の中央期であった。
A受審人は、衝撃で目を覚まし、事後の措置にあたった。
また、広漁丸は、小型底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人が単独で乗り組み、船首0.5メートル船尾1.1メートルの喫水をもって、操業の目的で、同日05時山口県上関港の係留地を発し、伊予灘北西部の漁場に向かった。

ところで、広漁丸の底引き網漁は、幅約3メートルの爪付き箱形けた網を取り付けた直径9ミリメートルのワイヤーロープ1本を、船尾端中央の手摺上に据えたガイドローラーを介して、船尾甲板上のウインチに巻き込んだ状態で約500メートル延出し、約4ノットの速力で片道約1時間として東西方向にえい網したのち揚網するという方法で行われていた。
C受審人は、07時ごろ姫島の北東方沖合の漁場に到着し、漁ろうに従事していることを示す鼓型形象物を表示して操業を繰り返し、14時17分半姫島灯台から053度4.3海里の地点において、針路を伊予灘航路第1号灯浮標に向く120度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、4.0ノットの速力でえい網を開始した。
このとき、C受審人は、前路を一瞥しただけで支障となる他船がいなかったことから、後部甲板の左舷側において、鮮度を要求される揚収されたばかりの魚の選別作業にとりかかった。

14時20分C受審人は、姫島灯台から060度4.5海里の地点に達したとき、左舷船首15度1.2海里のところに、福神丸を視認できる状況で、その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近したが、漁獲物の選別に専念して、見張りを十分に行うことなく、避航動作をとらないまま間近に接近した福神丸に気付かず、左転するなど衝突を避けるための協力動作をとらないでえい網中、広漁丸は、同じ針路、速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、福神丸は右舷船首部外板に擦過傷を生じ、広漁丸は左舷船首部を圧壊した。


(原因)
本件衝突は、伊予灘において、福神丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、漁ろうに従事する広漁丸の進路を避けなかったことによって発生したが、広漁丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人等の所為)
C受審人は、伊予灘西方海域において、漁ろうに従事する場合、接近する福神丸を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、後部甲板で漁獲物の選別作業に専念し、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、福神丸に気付かず、左転するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく進行して衝突を招き、福神丸の右舷船首部外板に擦過傷を生じさせ、広漁丸の左舷船首部を圧壊させるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、単独で船橋当直に就き、伊予灘を西行中、眠気を催した際、立って当直に従事するなど居眠り運航の防止措置をとらなかったことは本件発生の原因となる。

B指定海難関係人に対しては、本件後立って当直に当たるなど居眠り運航防止の措置をとっていることに徴し、勧告しない。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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