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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年7月27日03時55分 岡山県水島港 2 船舶の要目 船種船名
貨物船第一菱化丸 総トン数 355トン 全長 52.50メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
698キロワット 3 事実の経過 第一菱化丸は、苛性ソーダを輸送する液体化学薬品ばら積船で、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉で、船首1.5メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、平成10年7月25日17時00分熊本県八代港を発し、岡山県水島港に向かった。 A受審人は、船橋当直を自らと航海士2人による単独4時間交替の3直制とし、平戸瀬戸、関門海峡を経て瀬戸内海を東行して翌々27日03時30分水島港外の下水島西方約1海里の地点で前直の一等航海士と交替して単独の船橋当直に就き、その後下水島と上水島の北方を航行して水島港内のジャパンエナジー出荷桟橋南方約500メートルのところに投錨するつもりで予定錨地に向かった。 A受審人は、船長として幾度も水島港に入港したことがあったので、同港の水路事情を熟知しており、折から下水島西方に錨泊していた多数の停泊船の北方を迂回し、平素の入航針路よりやや北方に寄って水島港内を東行し、03時49分水島港西1号防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から277度(真方位、以下同じ。)1.5海里の地点で、水島港高梁川口灯浮標南方370メートルのところに達したとき、船首方向約1.3海里に明るい照明灯数個を点灯した停泊船を認め、コンパスを見ないまま針路を同船の北方に向く088度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。 定針したときA受審人は、右舷船首方1.5海里に防波堤灯台を視認することができ、レーダーを使用中であったが、前示停泊船の明かりを見て同船が総トン数600トンばかりのケミカルタンカーと判断し、平素水島港西1号防波堤(以下「西1号防波堤」という。)北側の泊地には総トン数200トン前後の小型船が停泊していることが多かったので、同タンカーが同防波堤の南方400ないし500メートルの港内に停泊しているものと思い、同船を通過してから防波堤灯台を確認することとし、同灯台やレーダーにより船位の確認を十分行わなかったので、西1号防波堤西端の屈曲部付近に向首していることに気付かなかった。 03時54分少し前A受審人は、水島港西2号防波堤東端を左舷側100メートルに航過し、西1号防波堤西端まで330メートルとなったが、依然船位の確認を行わず、針路を防波堤灯台の南方に向けて転じることなく、両防波堤の間を通過して同じ針路のまま進行中、同時55分少し前船首方向至近に西1号防波堤の黒い影を認め、驚いて自動操舵のまま針路設定つまみを右に回したが及ばず、03時55分防波堤灯台から296度910メートルの地点において、第一菱化丸は、100度に向首したとき、原速力のまま、その船首が、西1号防波堤基部から80メートル南方の同防波堤に80度の角度で衝突した。 当時、天候は曇で風力2の東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期にあたり、視界は良好であった。 衝突の結果、第一菱化丸は、船首部に亀裂をともなう凹損を生じ、西1号防波堤は一部破損したが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件防波堤衝突は、夜間、岡山県水島港において、下水島北方から錨地に向け東行中、船位の確認が不十分で、西1号防波堤に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、岡山県水島港において、下水島北方から西1号防波堤の南方を東行して錨地に向かう場合、防波堤灯台やレーダーにより船位を十分確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、平素小型船が停泊していることが多い西1号防波堤北側の泊地に停泊中の船舶の明かりを見て、同船が大型のケミカルタンカーだったので、同防波堤の南方に停泊しているものと思い、同船を通過してから防波堤灯台を確認することとし、防波堤灯台やレーダーにより船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、西1号防波堤に向首したまま進行して同防波堤との衝突を招き、船首部に亀裂などの損傷を生じさせるとともに、同防波堤の一部を破損させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |