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2000年(平成12年)

平成11年広審第40号
    件名
漁船第三生洋丸漁船第二協幸丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年9月19日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

内山欽郎、竹内伸二、横須賀勇一
    理事官
安部雅生

    受審人
A 職名:第三生洋丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:第三生洋丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(履歴限定・機関限定)
    指定海難関係人

    損害
生洋丸・・・・・船首部に擦過傷
協幸丸・・・・・左舷側後部外板及びブルワークに凹損、右舷側外板に岸壁接触による擦過傷、後部マスト等も損傷

    原因
第三生洋丸・・・応急操舵の措置不適切

    主文
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年4月18日08時09分
鳥取県鳥取港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三生洋丸 漁船第二協幸丸
総トン数 95トン 85トン
登録長 29.75メートル 28.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,007キロワット 507キロワット
3 事実の経過
第三生洋丸(以下「生洋丸」という。)は、沖合底びき網漁業に従事する船首船橋型の鋼製漁船で、鳥取県鳥取港賀露岸壁の鳥取港灯台から145度(真方位、以下同じ。)780メートルの地点に入船右舷付け係留中のところ、A受審人及び息子のB受審人ほか9人が乗り組み、操業の目的で、船首1.2メートル船尾3.3メートルの喫水をもって、平成10年4月18日08時00分ごろ同岸壁を離岸した。
賀露岸壁は、可航幅約170メートルの水路を隔てた千代岸壁とほぼ平行に対面している岸壁で、主に大型漁船の係留岸壁として使用されており、入船右舷付けで並んで係留している各漁船が、出港時には港奥側から順番に出港する習慣となっていた。

生洋丸の主機は、定格回転数が毎分670のディーゼル機関で、保護装置の1つとして、定格回転数の118ないし120パーセントで主機がトリップする過速度トリップ機構が設けられており、同トリップ機構が作動した場合には、40秒以上経過しないと主機が再始動できないようになっていた。また、本船の電気系統は、2系統に分かれ、それぞれ主機駆動発電機及び補機駆動発電機から給電できるようになっていたが、通常は主機駆動発電機と補機駆動発電機が各々別系統に給電しており、操舵装置用の電動油圧ポンプ(以下「電動油圧ポンプ」という。)には主機駆動発電機から給電されていた。
ところで、生洋丸の操舵装置は、油圧式で、通常の操舵は電動油圧ポンプからの油圧によって行われるが、その場合、操舵スタンドに設けられた電動・手動油圧切替レバー(以下「油圧切替レバー」という。)を電動油圧側にして、同スタンドの作動切替スイッチを操作することにより、自動操舵、遠隔操舵、レバー操舵及び舵輪による手動操舵の4通りの操舵ができるようになっていた。また、電動油圧ポンプが使用できない場合には、操舵スタンドの油圧切替レバーを手動油圧側に切り替えて舵輪を操作することにより、操舵スタンド内に組み込まれた手動油圧ポンプによる応急操舵が可能で、更に電動油圧ポンプも手動油圧ポンプも使用できない場合には、操舵機室内の手押しポンプによる非常操舵もできるなど、3段階の操舵方法が可能であった。

A受審人は、船長になって以来、航海中も出・入港時も常に油圧切替レバーを電動油圧側にしてレバー操舵で操舵を行っており、舵輪による手動操舵も手動油圧による操舵も行ったことがなく、また、錨泊が必要な場合には底びき網を海中に投入して漂泊していたことから、錨と錨鎖を切り放して別々に格納し、一度も投錨したことがなかった。
離岸時からA受審人は、いつもどおりレバー操舵で操舵しながら単独で操船に当たり、離岸後間もなく、左転して港口に向かおうとしたところ、乗組員が忘れ物をしたとの連絡を受けたので主機を一旦後進にかけ、岸壁に船尾を近付けて乗組員が忘れ物を受け取ったのち、他船に待ってもらっているので少しでも早く出港したいと思い、08時07分主機の操縦ハンドルを一気に通常の全速力前進位置以上まで上げて左舵一杯とした。

その後間もなく、A受審人が、主機の回転数が720まで上昇しているのを認めて操縦ハンドルを微速力位置としたが、回転数が下がらないのでそのまま同ハンドルを中立位置にしたところ、生洋丸は、燃料噴射ポンプの燃料ラックが固着気味であったものか、負荷の急減に伴って主機の回転数が急激に上昇し、08時08分わずか過ぎ約6ノットの速力となったとき、主機が過速度トリップによって停止するとともに、主機駆動発電機が停止したことによって電動油圧ポンプも停止した。
A受審人は、主機が停止すると同時にレバー操舵が不能になったことを認めたが、普段からレバー操舵以外の操舵方法を行っていなかったので、手動操舵に切り替えれば舵輪で操舵可能と思い、油圧切替レバーを手動油圧側に切り替えて適切な応急操舵の措置を行うことなく、同レバーを電動油圧側にしたまま作動切替スイッチのみを手動操舵位置に切り替えてしまった。

また、B受審人は、船尾での出港作業を終えて左舷側コンパニオンの機関室入口付近にいたところ、同入口から見える主機のデジタル式回転計が720まで上昇したのを認めて間もなく、機関室で警報ブザーが鳴っているのに気付いて機関室に急行し、警報盤の警報ランプで主機が過速度トリップしたことを知り、狭い水域なので早く主機を始動しなければと思い、直ちにリセットボタンを押して主機の始動を試みたが、トリップ後40秒が経過していなかったので、主機を始動することはできなかった。
こうして、生洋丸は、A受審人が手動操舵位置のまま舵輪を操作して右舵を取ろうと試みているうち、操舵不能のまま、左転しながら惰力で岸壁方向に進行し、08時09分その船首部が、鳥取港灯台から151度610メートルの賀露岸壁に右舷付けで係留中の第二協幸丸(以下「協幸丸」という。)の左舷後部に、約3ノットの速力でほぼ直角に衝突した。

当時、天候は晴で風力1の南東風が吹き、海上は穏やかであった。
一方、協幸丸は、ひき網漁業に従事する中央船橋型の鋼製漁船で、船長ほか9人が乗り組み、操業の目的で、船首1.1メートル船尾3.7メートルの喫水をもって、同日08時00分ごろ賀露岸壁の前示の地点で出港準備を終え、主機をアイドリング状態としたまま出港の順番を待っていたところ、08時09分わずか前操舵室にいた船長が、乗組員の叫び声で左舷側至近に迫った生洋丸に気付き、直ちに係留索を放すように指示するとともに機関を全速力前進にかけたが及ばず、わずか前方に移動したころ、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、生洋丸は船首部に擦過傷を生じたのみであったが、協幸丸は、左舷側後部外板及びブルワークに凹損を、右舷側外板に岸壁接触による擦過傷をそれぞれ生じたほか、後部マストなどにも損傷を生じ、のち修理された。


(原因)
本件衝突は、鳥取港賀露岸壁近くにおいて、出漁のために同岸壁から離岸した生洋丸が、左転を開始して間もなく、主機の過速度トリップによって主機駆動発電機から給電されていた電動油圧ポンプが停止した際、応急操舵の措置が不適切で、操舵不能のまま左転し、同岸壁に係留中の協幸丸に向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、鳥取港賀露岸壁から離岸後、左転を開始して間もなく、主機が停止すると同時にレバー操舵が不能になったことを認めた場合、手動油圧による応急操舵が可能であったから、電動油圧による操舵が不能となったまま進行して岸壁係留中の協幸丸と衝突することがないよう、直ちに手動油圧に切り替えて応急操舵すべき注意義務があった。ところが、同人は、手動操舵に切り替えれば舵輪で操舵可能と思い、手動油圧に切り替えて応急操舵しなかった職務上の過失により、操舵不能のまま、左転しながら進行して協幸丸との衝突を招き、生洋丸の船首部に擦過傷を、協幸丸の左舷外板やブルワーク等に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。

以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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