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2000年(平成12年)

平成12年神審第8号
    件名
貨物船東進丸漁船第18漁盛丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年9月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

須貝壽榮、黒岩貢、西田克史
    理事官
野村昌志

    受審人
A 職名:東進丸一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第18漁盛丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
東進丸・・・船首部に擦過傷
漁盛丸・・・左舷船尾外板に亀裂、後部マストに曲損

    原因
東進丸・・・見張り不十分、追い越しの航法(避航動作)不遵守(主因)
漁盛丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、追い越しの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第18漁盛丸を追い越す東進丸が、見張り不十分で、その進路を避けなかったことによって発生したが、第18漁盛丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年2月24日12時50分
紀伊水道
2 船舶の要目
船種船名 貨物船東進丸 漁船第18漁盛丸
総トン数 407トン 4.9トン
全長 70.40メートル 15.14メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット
漁船法馬力数 90
3 事実の経過
東進丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長C及びA受審人ほか3人が乗り組み、鉄くず1,050トンを載せ、船首2.85メートル船尾3.65メートルの喫水をもって、平成10年2月23日14時05分静岡県沼津港を発し、山口県小野田港に向かった。
A受審人は、翌24日12時00分和歌山県日ノ御埼南方沖合において、前直の次席一等航海士から引継ぎを受けて単独で3直4時間交替の船橋当直に就き、同時12分紀伊日ノ御埼灯台(以下「日ノ御埼灯台」という。)から225度(真方位、以下同じ。)4.0海里の地点で、針路を321度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.5ノットの対地速力で自動操舵により進行した。

12時30分A受審人は、折から雨模様のため視程が4海里ばかりで、操舵室の前窓には雨滴が付き、また、海面に白波が立っていて小さな漁船などを見落としやすい状況であったが、大型船1隻が前路3海里ばかりのところを右方に横切ったのを認め、間もなくレーダーを覗いたところ、前路には同船以外の船舶の映像が映っていなかったので、レーダーをスタンバイ状態とし、同室中央にある操舵スタンド後方でいすに腰を掛けて見張りに当たり、鳴門海峡に向けて紀伊水道を北西進した。
12時44分A受審人は、日ノ御埼灯台から283度6.6海里の地点に達したとき、右舷船首6度1.0海里のところに、低速で西行する船体が白色の第18漁盛丸(以下「漁盛丸」という。)を視認することができ、その後同船を追い越す態勢で大きな速力差をもって接近し、衝突のおそれがあることがわかる状況であったが、前路には問題となる他船はいないと思い、見張りを十分に行わなかったので、漁盛丸の存在に気付かず、速やかに同船の進路を避けることなく続航した。

こうして、A受審人は、依然漁盛丸を視認しないでいるうち、12時50分日ノ御埼灯台から288度7.4海里の地点において、東進丸は、原針路、原速力のまま、その船首が漁盛丸の左舷船尾部に後方から51度の角度で衝突した。
当時、天候は雨で風力3の北風が吹き、潮候は上げ潮の中央期にあたり、視程は約4海里であった。
A受審人は、漁盛丸との衝突に気付かずに続航していたところ、追い掛けてきた同船によって停船を求められ、機関を停止した。
C船長は、自室においてA受審人から電話で報告を受け、直ちに昇橋して事後の措置に当たった。
また、漁盛丸は、船体中央部に機関室及び操縦室を設けたFRP製漁船で、B受審人のみが乗り組み、ふぐはえ網漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、同月24日06時00分徳島県中林漁港を発し、伊島の北東方5海里付近の漁場に向かった。

ところで、漁盛丸の行うふぐはえ網漁は、長さ1,000メートルの細い化繊製幹縄1本に、長さ2.5メートルの枝縄を約6.7メートルの間隔で取り付け、これを10本連結して海面下10メートルのところを東に向かって約2時間かけて延べ入れ、投縄終了の約30分後に、前部甲板の右舷側ブルワーク際に設置した揚縄機により、幹縄の東端部から揚縄を開始し、約5時間かけて揚収するものであった。
07時00分ごろB受審人は、目的の漁場に至り、GPSを使用して北緯33度55分の線上を東に向けて投縄を開始し、09時00分ごろ幹縄10本の投入を終えたところで、漂泊して休憩をとった後、同時30分日ノ御埼灯台から310度3.5海里の地点で漁労に従事していることを示す形象物を掲げないで揚縄に取り掛かり、揚縄機の船尾側の甲板上で船首方を向いていすに腰を掛けて機関及び舵の遠隔操縦に当たり、針路270度に定め、機関を毎分500回転にかけ、クラッチの操作により速力を調整し、1.3ノットの対地速力で進行した。

その後、B受審人は、12時44分日ノ御埼灯台から288.5度7.3海里の地点に達したとき、左舷船尾57度1.0海里のところに、北西方に進行中の東進丸を視認することができ、その後自船を追い越す態勢で大きな速力差をもって接近しており、衝突のおそれがあることがわかる状況であったが、依然、同じ姿勢でいすに腰を掛けて揚縄に専念し、立ち上がって周囲の見張りを十分に行っていなかったので、同船の存在に気付かずに続航した。
12時49分B受審人は、東進丸が避航の気配のないまま左舷後方350メートルに接近していたが、速やかに同船に対して警告信号を行わず、更に間近に接近したとき、機関を全速力前進とするなどの衝突を避けるための協力動作をとらなかった。
こうして、B受審人は、12時50分わずか前8本目の幹縄を揚収したところで、機関のクラッチを中立としていすから立ち上がり、一服するために操舵室に移動しようとしたとき、左舷船尾至近から迫ってくる東進丸を初めて視認し、直ちに機関を全速力前進にかけたが及ばず、漁盛丸は、原針路のまま、3.0ノットの速力で前示のとおり衝突した。

衝突の結果、東進丸は船首部に擦過傷を生じたのみであったが、漁盛丸は、左舷船尾外板に亀裂を、後部マストに曲損をそれぞれ生じ、のち修理された。

(原因)
本件衝突は、紀伊水道において、漁盛丸を追い越す東進丸が、見張り不十分で、その進路を避けなかったことによって発生したが、漁盛丸が、見張り不十分で、東進丸に対して警告信号を行わず、同船が間近に接近したとき、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、紀伊水道において、鳴門海峡に向けて北西進する場合、雨模様のため操舵室の前窓には雨滴が付き、また、海面に白波が立っていて小さな漁船などを見落としやすい状況であったから、前路に存在する漁盛丸を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、前路には問題となる他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船が追い越す態勢で接近する漁盛丸の存在に気付かず、その進路を避けることなく進行して衝突を招き、自船の船首部に擦過傷を生じさせ、漁盛丸の左舷船尾外板に亀裂及び後部マストに曲損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

B受審人は、紀伊水道において、投入したはえ縄を揚収しながら低速で西行する場合、左舷後方から追い越す態勢で接近してくる東進丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、揚縄機の船尾側でいすに腰を掛けて揚縄に専念し、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船を追い越す態勢で接近してくる東進丸の存在に気付かず、同船に対して警告信号を行うことも、間近に接近したとき、機関を全速力前進とするなどの衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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