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2000年(平成12年)

平成12年神審第60号
    件名
漁船第三源漁丸作業船観音丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年9月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

西林眞、阿部能正、西田克史
    理事官
杉崎忠志

    受審人
A 職名:第三源漁丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:第三源漁丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
源漁丸・・・船首部から左舷船尾にかけての外板に擦過傷
観音丸・・・船尾部及び船首部を圧壊、浸水、のち廃船処分

    原因
源漁丸・・・主機逆転減速機の電磁弁の整備不十分、発航前の作動確認不十分

    主文
本件衝突は、第三源漁丸が、主機逆転減速機の電磁弁の整備及び発航前の作動確認がいずれも不十分で、離岸操船中に同逆転減速機が操作不能となり、岸壁係留中の観音丸に向首進行したことによって発生したものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年12月3日08時33分
高知県清水港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三源漁丸 作業船観音丸
総トン数 99トン 17トン
全長 20メートル
登録長 29.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 529キロワット
3 事実の経過
第三源漁丸(以下「源漁丸」という。)は、昭和59年2月に進水したかつお一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、主機として株式会社赤阪鉄工所が製造したDM26型ディーゼル機関を装備し、軸系に逆転減速機(以下「逆転機」という。)を備え、操舵室にある遠隔操縦装置の操縦ハンドルにより逆転機の嵌脱(かんだつ)操作及び主機の回転数制御ができるようになっていた。
逆転機は、新潟コンバーター株式会社が製造したMN811A−1型と称する湿式多板油圧クラッチ(以下「クラッチ」という。)を内蔵したもので、機側に設けられた前後進切換弁により、直結の潤滑油ポンプからの作動油を前進クラッチ又は後進クラッチに送ることで、前進・中立・後進の切換えが行われるようになっていた。

また、前後進切換弁は、弁端に空気圧シリンダが取り付けられており、操舵室で操縦ハンドルを前進側又は後進側に操作すると、前進用電磁弁又は後進用電磁弁が励磁され、始動空気系統から減圧された制御空気を前進側シリンダ、又は後進側シリンダに送ってピストンを動かし、同ピストンと連結したスプールが前後に移動して逆転機を所定の作動位置に切り換えるようになっていた。
ところで、前進用及び後進用各電磁弁は、操縦ハンドルを中立に戻すと、逆転機の制御用電気回路が開路されて無電圧となり、電磁弁に内蔵されたばねの力でスプールを押し上げて閉弁し、制御空気を遮断して逆転機が中立の位置になるよう制御する仕組みになっていたが、長期間電磁弁を整備することなく運転を続けていると、ごみや水分の侵入によりスプールなどの作動部が汚損、発錆して固着気味となり、同ハンドルを中立に戻してもばねの力で完全に閉弁せずに制御空気が送り込まれたままの状態になり、逆転機が操作不能になるおそれがあった。

源漁丸は、かつお一本つり漁の漁期を終え、平成10年11月24日宮城県気仙沼港で漁獲物を水揚げし、同県塩釜港及び静岡県下田港に立ち寄ったのち、同月28日18時25分基地としている高知県清水港の三古倉船だまりの物揚場岸壁(以下「三古倉岸壁」という。)に、すでに岸壁西方端に左舷付け係留中であった観音丸の船尾と自船の船首とを約40メートル離し、同岸壁に沿い船首を273度(真方位、以下同じ。)に向けて左舷付けで係留した。
B受審人は、昭和63年3月から漁労長兼一等機関士として乗り組んで操業を指揮するほか、短期間の航海や機関長不在のときには、自ら機関長として機関の運転管理に当たっていたが、これまで逆転機のクラッチの作動に不具合がなかったので異状はあるまいと思い、定期的に電磁弁を整備することなく、前進用電磁弁のスプールなどの作動部がいつしか汚損、発錆していることに気付かなかった。

こうして、源漁丸は、A受審人及びB受審人ほか4人が乗り組み、船首1.6メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、船体及び機関の定期整備のため回航する目的で、平成10年12月3日清水港を発し、高知港へ向かうことになった。
同日08時15分に昇橋したA受審人は、しばらく主機を使用しないまま岸壁に係留したのち発航することとしたが、逆転機が操作不能になることはあるまいと思い、発航に先立ち、クラッチを前、後進にとって同機の作動確認を行うことなく、船首に甲板員2人、船尾に機関部員2人及び操舵室に機関長をそれぞれ配置し、各係留索を取り込み、主機を微速力後進にかけて岸壁から船体を離し、同時31分少し過ぎ操縦ハンドルを前進側に切り換えて回転数毎分150の微速力前進とし、同時32分同ハンドルを中立に、続いて後進側に操作した。
ところが、源漁丸は、前進をとったときに前進用電磁弁のスプールなどの作動部が固着してしまい、制御空気の供給が続けられたために前後進切換弁が後進側に移動せず、逆転機が操作不能となって前進クラッチが嵌合したまま、前進行きあしをもって観音丸に向首進行し、08時33分土佐清水港飛島防波堤灯台から057度800メートルの地点において、その船首が263度を向いたとき、観音丸の左舷船尾部に後方から10度の角度で衝突し、同岸壁に接しながらなおも観音丸を押し続け、観音丸が同岸壁西側の防波堤に乗り揚げたところでようやく停止した。

当時、天候は曇で風力3の北北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
また、観音丸は、港湾工事に従事する主機を有しないFRP製作業船で、同年2月初旬から、船首及び船尾に各2本の係留索を取り三古倉岸壁に沿って船首を273度に向け、無人のまま左舷付け係留中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、源漁丸は船首部から左舷船尾にかけての外板に擦過傷を生じ、観音丸は船尾部及び船首部を圧壊して浸水し、のち廃船処分となった。


(原因)
本件衝突は、逆転機の電磁弁の整備が不十分であったことと、しばらく主機を使用しないまま停泊したのち高知県清水港を発航するに当たり、逆転機の作動確認が不十分であったこととにより、離岸操船中、前進用電磁弁が固着して逆転機が操作不能となり、前進クラッチが嵌合したまま岸壁に係留中の観音丸に向首進行したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
B受審人は、逆転機の運転管理に当たる場合、電磁弁が固着して同機が操作不能になることのないよう、定期的に電磁弁を整備すべき注意義務があった。しかるに、同人は、これまで逆転機クラッチの作動に不具合を生じたことがなかったので異状はあるまいと思い、定期的に電磁弁を整備しなかった職務上の過失により、前進用電磁弁のスプールなどの作動部が汚損、発錆していることに気付かず、同電磁弁が固着して逆転機が操作不能となったまま、岸壁に左舷付け係留中の観音丸に向首進行して衝突を招き、源漁丸の船首部から左舷船尾にかけての外板に擦過傷を生じさせ、観音丸の船尾部及び船首部を圧壊させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

A受審人は、しばらく主機を使用しないまま岸壁に停泊したのち清水港を発航する場合、逆転機の不具合を早期に察知できるよう、発航前に逆転機の作動確認を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、逆転機が操作不能になることはあるまいと思い、発航前に逆転機の作動確認を行わなかった職務上の過失により、離岸操船中に逆転機が操作不能となって観音丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図(1)


参考図(2)






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