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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成11年7月24日06時10分 駿河湾 2 船舶の要目 船種船名
遊漁船八坂丸 遊漁船清弘丸 登録長 9.90メートル 8.15メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力
183キロワット
80キロワット 3 事実の経過 八坂丸は、FRP製遊漁船で、A受審人が1人で乗り組み、たい釣りの目的で、船首0.2メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成11年7月24日04時30分静岡県清水港巴川の川岸にある定係地を発し、一旦清水真埼灯台の沖合いで待機したのち、日出を待って清水灯台南南東方沖合の釣り場に向かった。 ところで、八坂丸は、操舵室のほかに船尾で操船できるよう、遠隔による操舵及び機関操作ができる装置を設けてあり、A受審人は、船尾で道具箱に腰掛けて釣りを行い、潮上りを行うときは、操舵室などが前方の見通しの妨げとなるので、船尾の装置で立って操船を行っていた。 05時25分ごろA受審人は、清水灯台から159度(真方位、以下同じ。)2,500メートルの地点に至り、スパンカーを広げて船首を風上に向け、機関を中立運転とし、漂泊をして他のたい釣り船とともにたい釣りを始め、同時47分ごろ2回目の潮上りをして前示地点に戻り、220度に向首して漂泊したとき、左舷船尾25度1,250メートルばかりのところに、清弘丸を含む3隻の釣り船を視認した。 その後A受審人は、釣果がないのでたい釣りを止め、あじ釣りに変えるために、自船の左舷船尾方に見る前示3隻の釣り船の南側に移動することとし、船尾で腰掛けたまま、06時00分清水灯台から160度2,480メートルの地点で、遠隔操舵により左回頭して針路を090度に定め、機関を毎分回転数1,000にかけ、4.2ノットの対地速力で移動を開始した。 A受審人は、定針後、遠隔操舵装置が少し左舵となったままになっていることに気付かず、3隻の釣り船までは距離があり、自船の速力も遅いことから接近するまで時間があるので大丈夫と思い、これらの釣り船との接近状況を見極めることができるよう、動静監視を十分に行わず、船尾右舷側の道具箱に腰掛け、あじ釣りの準備を行いながら進行した。 06時09分A受審人は、清水灯台から135.5度2,750メートルの地点に達したとき、漂泊中の清弘丸がほぼ正船首方140メートルとなり、衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、依然動静監視を十分に行うことなく、あじ釣りの準備を続け、同船を避けないまま続航中、同時10分少し前、同作業を終えて立ち上がったところ、正船首至近に迫った清弘丸を初めて認め、急ぎ機関を後進にかけたが及ばず、06時10分清水灯台から133度2,770メートルの地点において、八坂丸は、050度に向首し、原速力のまま、その船首が清弘丸の左舷中央部に前方から60度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。 また、清弘丸は、FRP製遊漁船で、B受審人が1人で乗り組み、むつ釣りの目的で、船首0.3メートル船尾1.4メートルの喫水をもって、同日05時00分清水港興津船溜りを発し、前示衝突地点付近の釣り場に向かった。 05時20分ごろB受審人は、清水灯台から131度2,700メートルの地点に至り、船首を290度に向け、機関を中立運転として漂泊し、操舵スタンドの後方に置いたいすに腰掛け、右舷側に竿を出して釣りを始め、魚群探知器を見て水深200メートル付近で釣り糸を垂れ、潮流に流されながら浅くなる水深に合わせて釣り糸を巻き、水深が80メートル付近になったころ釣り糸を揚げて潮上りを行い、元の地点に戻って釣り糸を垂らす方法の釣りを数回繰り返した。 06時04分B受審人は、潮上りを終えて元の地点に戻り、折から0.6ノットの潮流で南方に流されながら釣りを再開し、同時06分清水灯台から132度2,720メートルの地点で、船首が290度を向いていたとき、左舷船首62度440メートルのところに移動中の八坂丸の船体と緑色のスパンカーを初認したが、同船は周囲に認めていた10隻あまりのたい釣り船の1隻で、潮上り中であるからそのうちに元の地点に戻るものと思い、動静監視を十分に行わずに釣りを続けた。 B受審人は、船首を290度に向けたまま、流されながら釣りを続け、06時09分清水灯台から132.5度2,750メートルの地点に達したとき、八坂丸が左舷船首61度140メートルとなり、衝突のおそれがある態勢で接近してくる状況であったが、依然動静監視を十分に行うことなく釣りを続け、機関を使用するなど衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊中、同時10分少し前、八坂丸の波切り音と機関音に気付いて振り向いたところ、至近に迫った同船の船首を認めたが、どうすることもできず、船尾のスパンカーマストにしがみつき、大声で叫んだが効なく、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、八坂丸は損傷がなかったが、清弘丸は左舷中央部に破口を生じて機関室に浸水し、八坂丸に曳航されて清水港に引き付けられたが、のち廃船となった。
(原因) 本件衝突は、清水灯台南南東方沖合において、釣り場移動中の八坂丸が、動静監視不十分で、漂泊中の清弘丸を避けなかったことによって発生したが、清弘丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、清水灯台南南東方沖合において、釣り場を移動する際、自船の東方沖合に清弘丸を含む、漂泊中の3隻の釣り船を認めた場合、移動して行く場所がこれら3隻のいる付近であったから、清弘丸など3隻の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、これら3隻の船まで距離があるので大丈夫と思い、船尾で釣りの仕掛けを作りながら操船を行い、これら3隻の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中3隻のうちの清弘丸に衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、同船を避けないまま進行して同船との衝突を招き、清弘丸の左舷中央部に破口を生じて機関室に浸水を生じさせ、同船を廃船にさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、清水灯台南南東方沖合において、漂泊して釣りをする際、自船の西方にいた釣り船集団のうち移動を始めた八坂丸を認めた場合、同船の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、潮上りをしてまた釣り船集団の中に戻るものと思い、八坂丸の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、接近する同船に気付かず、機関を使用するなど衝突を避けるための措置をとらないまま釣りを続けて同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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