|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年7月20日02時00分 鹿島灘 2 船舶の要目 船種船名
貨物船第五あすざん丸 漁船のり丸 総トン数 695トン 6.6トン 全長 68.82メートル 登録長
11.95メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力 1,176キロワット 漁船法馬力数
90 3 事実の経過 第五あすざん丸(以下「あすざん丸」という。)は、凹甲板船尾船橋型鋼製アスファルト専用運搬船で、A受審人、甲種甲板部航海当直部員の認定を受けたB指定海難関係人ほか4人が乗り組み、アスファルト1,038トンを載せ、船首3.4メートル船尾4.5メートルの喫水をもって、平成10年7月18日14時30分和歌山下津港を発し、青森港に向かった。 A受審人は、船橋当直を、同人、B指定海難関係人及び一等航海士の3人による単独3直制とし、狭視界となったり多数の漁船に遭遇する場合には報告すること、及び機関の使用を躊躇(ちゅうちょ)しないことなどを、船橋当直中の注意事項として船橋内後方に掲示し、日ごろから、汽笛を適切に吹鳴することなどを口頭で各当直者に指示するとともに、非直のときに汽笛を聴いたら昇橋するようにしていた。また、同受審人は、B指定海難関係人の経験年数や操船技量から判断し、別段不安を感じていなかったので、東京湾内の航行中においても通航量が少ないときには、同人に操船を任せることが多かった。 翌19日日没時、A受審人は、航行中の動力船の灯火を表示し、20時00分千葉県勝浦市八幡岬の東方約5海里の地点において船橋当直に就き、翌20日00時00分犬吠埼灯台から093度(真方位、以下同じ。)5.0海里の地点に至り、B指定海難関係人に同当直を引き継ぐ際、鹿島灘にて多数の漁船の操業が予測されたので、塩屋埼沖合に向ける予定針路を変更し、漁船の操業海域を避け、より沖出しとなる金華山沖合に向ける012度の針路に定め、漁船が多いから慎重に操船するよう、また視界が2海里以下となったら報告するよう指示して降橋した。 当直に就いたB指定海難関係人は、機関を翼角17度の全速力前進にかけて10.5ノットの対地速力で、折からのうねりによってヨーイングしながら自動操舵で進行し、01時50分鹿嶋灯台から085度19.5海里の地点に達したとき、左舷船首2度4.2海里のところに、のり丸の白灯を初認し、手動操舵に切り換えて続航していたところ、同時53分同灯台から084度19.8海里の地点において、同船を左舷船首2度3.0海里に見るようになったとき互いに右舷を対して航過するつもりで、針路を007度に転じた。 B指定海難関係人は、のり丸と無難に航過する態勢であると思っていたところ、01時58分半鹿嶋灯台から081.5度20.0海里の地点において、右舷船首16度1,020メートルのところに見るのり丸が、右転して両舷灯を見せて接近するようになり、新たな衝突のおそれがある状況が生じたが、A受審人に報告しないまま、左転して002度の針路としたものの、警告信号を行わず、大幅に左回頭するなどして衝突を避けるための措置をとることなく続航中、同時59分半わずか過ぎ同船が紅灯を見せるようになったので、衝突の危険を感じて左舵一杯とし、翼角0度としたが及ばず、02時00分鹿嶋灯台から080度20.0海里の地点において、あすざん丸は、335度に向首したとき、ほぼ原速力で、その右舷側前部にのり丸の左舷船首部が後方から25度の角度で衝突した。 当時、天候は曇で風力1の南南東風が吹き、視界は良好であった。 A受審人は、自室にて就寝中、B指定海難関係人から衝突した旨の報告を受け、急ぎ昇橋して事後の措置に当たった。 また、のり丸は、FRP製漁船で、船長D及び同人の息子であるC受審人が乗り組み、めかじき突棒漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、同月15日02時00分千葉県小湊漁港を発し、釜石港の東方約20海里の漁場に向かった。 翌16日D船長は、夜明けを待って操業を開始し、C受審人に船首部近くの魚見台上での魚群探索と操船に当たらせ、自ら銛(もり)を持って突き台に立って操業を行い、日没以降は釜石港に寄せて休息をとり、翌早朝漁獲物を市場に水揚げののち、再び出漁するとした状況の繰り返しで操業を続け、越えて19日操業を行ったものの、不漁だったことなどから操業を切り上げて帰航することとし、14時00分同漁場を発し、機関をほぼ全速力前進にかけ、GPSプロッターで犬吠埼のわずか東方沖合に向ける針路として帰途に就いた。 発航時から操船に当たっていたD船長は、日没時、航行中の動力船の灯火を表示し、23時00分塩屋埼の東南東約20海里の地点に至り、C受審人と操船を交替した。 C受審人は、正船首部に設置されている突き台の範囲に、船橋天窓から顔を出しても生じる死角があったものの、操舵室左舷側にある座椅子に座り、船首死角を補うため、専らレーダーによる見張りを行いながら、手動に容易に切り換え可能な操舵用リモコンで、自動操舵により南下した。 翌20日00時43分C受審人は、磯埼灯台から090度25.0海里の地点において、針路を194度に定め、16.0ノットの対地速力で進行し、01時37分鹿嶋灯台から066度22.5海里の地点に至り、犬吠埼を十分に隔てるため、187度に針路を転じて続航したところ、同時51分右舷船首3度3.7海里のところに、あすざん丸のレーダー映像を初めて認め、右舷側に移動して目視したところ、両舷灯の見え具合から、いずれ左舷対左舷で航過するものと思って進行した。 01時53分C受審人は、レーダーであすざん丸を右舷船首3度3.0海里のところに見るようになったとき、同船が左転したことで、その後互いに右舷を対して航過する態勢となったが、レーダー映像の連続監視や、立ち上がって右に移動して目視するなど、動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かないまま続航した。 01時58分半C受審人は、鹿嶋灯台から080度20.2海里の地点において、レーダーであすざん丸を右舷船首16度1,020メートルのところに認め、このまま進行すれば互いに右舷を対して無難に航過できる態勢であったが、依然として互いに左舷を対して航過しようと、同船をほぼ正船首に見る207度に針路を転じたところ、同船に対して新たな衝突のおそれを生じさせたが、このことに気付かず、機関を停止するなどして衝突を避けるための措置をとることなく進行し、同時59分半わずか過ぎ、あすざん丸がますます自船の前路に接近するので、衝突の危険を感じ、右舵15度として右回頭していたところ、前方に見えたあすざん丸の居住区の灯火を同船の左舷側最後尾のものと思い、右舵一杯として回頭中、高位置に白灯が見え、それを同船のマスト灯と気付いたとき、ほぼ原速力で、310度に向首して前示のとおり衝突した。 就寝中のD船長は、衝撃で目覚め、事後の措置に当たった。 衝突の結果、あすざん丸は右舷側前部ハンドレールの曲損を、のり丸は突き台の圧損をそれぞれ生じ、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、夜間、鹿島灘において、両船が互いに右舷を対して無難に航過する態勢であった際、南下中ののり丸が、動静監視不十分で、北上中のあすざん丸に対して右転して新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、あすざん丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとるのが遅れたことも一因をなすものである。
(受審人等の所為) C受審人は、夜間、鹿島灘において、帰航のため南下中、北上してくるあすざん丸を認めた場合、衝突のおそれの有無について判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、初認時のあすざん丸両舷灯の見え具合から、互いに左舷を対して航過するものと思い、その後レーダー及び目視による動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、互いに右舷を対して無難に航過できる態勢となっていることに気付かず、右転して新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、機関を停止するなどして衝突を避けるための措置をとることなく進行してあすざん丸との衝突を招き、あすざん丸の右舷側前部ハンドレールに曲損を、自船の突き台の圧損をそれぞれ生じさせるに至った。 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B指定海難関係人が、のり丸と互いに右舷を対して無難に航過する態勢であったところ、同船が右転して新たな衝突のおそれが生じた際、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとるのが遅れたことは、本件発生の原因となる。 B指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
|