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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成11年3月22日13時00分 山形県鼠ヶ関港 2 船舶の要目 船種船名
貨物船第五拾五勝栄丸 総トン数 431トン 全長 64.14メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
735キロワット 3 事実の経過 第五拾五勝栄丸(以下「勝栄丸」という。)は、前部甲板上に旋回式ジブクレーン1基を装備する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、揚荷の目的で、砕石750トンを積み、船首3.40メートル船尾4.80メートルの喫水をもって、平成11年3月21日19時00分山形県鼠ヶ関港平佐浜岸壁から新潟県柏崎港に向けての発航準備に取りかかった。 ところで、鼠ヶ関港は、東及び西両防波堤に囲まれているものの、港口が北方へ開いているため、北寄りの風が強く吹く際、港内に波浪が進入しやすく、また、同港北部埋立地に位置する平佐浜岸壁は、北側に遮蔽する構造物が無いことから、北寄りの風の影響を直接に受けることとなり、同岸壁に着岸中、北寄りの風の風勢が強まることが予想される際、係留索が破断しないよう荒天準備を十分にする必要があった。 A受審人は、発航準備中、山形県沖に発達した低気圧の接近による暴風雪・波浪警報が発表されていたことをテレビの天気予報で知ったので、出航を見合わせて鼠ヶ関港で荒天避泊することとしたものの、港内に錨泊して荒天避泊するには、船体が振れ回った際に同港内が狭くて危険と判断し、平佐浜岸壁に着岸したまま荒天避泊することとし、入船左舷付けで係留していたので、船首方から風浪を受けようと出船右舷付けすることとし、いったん離岸した。 20時00分A受審人は、鼠ヶ関港東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から110度(真方位、以下同じ。)140メートルの地点で、1.2トンの左舷錨を投入して直径36ミリメートル(以下「ミリ」という。)の錨鎖6節を繰り出し、その後平佐浜岸壁の各ビットに、右舷船首から直径50ミリの合成繊維索(以下「索」という。)及び同65ミリの索各1本の船首索並びに同50ミリの索1本の船首スプリングを、右舷船尾から直径50ミリの索及び同65ミリの索各1本の船尾索並びに同50ミリの索1本の船尾スプリングをそれぞれ取ったものの、北寄りの風の風勢が強まったら係留索が破断するおそれがあったが、船首尾に索を各2本及びスプリングを各1本取ったからそれらが破断することはあるまいと思い、更に係留索の増し取りなどの荒天準備を十分に行うことなく、このことに気付かず、係留作業を終え、出船右舷付けで同岸壁に係留した。 翌22日07時00分A受審人は、北北西風の風勢が強まったことから昇橋して気象状況を確かめながら係留索の監視を続けたところ、北北西風が強まるとともに港内に進入する波浪により船体が激しく動揺し、各係留索が岸壁との接触を繰り返しているうち、12時59分船首部係留索が次々と破断し、船首が急速に平佐浜岸壁から離れたものの、左舷錨と船尾部係留索とで風下への圧流が止められたが、風浪の影響で船首尾が左右に振れだしたので、直ちに機関用意及びバウスラスタの使用を指示するとともに船首尾に人員を配したが間に合わず、13時00分東防波堤灯台から090度310メートルの地点において、勝栄丸は、船首が215度に向いたとき、その右舷船尾外板が平佐浜岸壁に衝突した。 当時、天候は雨で風力7の北北西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。 岸壁衝突の結果、勝栄丸は、右舷船尾外板に凹損、船尾部フェアリーダ及び同部ハンドレールに曲損をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件岸壁衝突は、天候の悪化が予想される鼠ヶ関港平佐浜岸壁に係留する際、荒天準備が不十分で、係留索が破断したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、天候の悪化が予想される鼠ヶ関港平佐浜岸壁に係留する場合、係留索が破断することのないよう、増し取りなどの荒天準備を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船首尾に索を各2本及びスプリングを各1本取ったからそれらが破断することはあるまいと思い、荒天準備を十分にしなかった職務上の過失により、北北西風が強まるとともに港内に進入する波浪により船体が激しく動揺し、船首の全係留索が破断して岸壁から船首が離れ、船尾が岸壁に接近して衝突を招き、勝栄丸の右舷船尾外板に凹損、船尾部フェアリーダ及び同部ハンドレールに曲損をそれぞれ生じさせるに至った。 |