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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成11年7月21日07時15分 酒田港 2 船舶の要目 船種船名
漁船弘氣丸 総トン数 19トン 全長 23.95メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
558キロワット 3 事実の経過 弘氣丸は、日本海及び岩手県以北の太平洋各沖合で、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A及びB両受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.9メートル船尾2.3メートルの喫水をもって、平成11年7月20日10時00分酒田港を発し、15時00分同港西方51海里沖合の鎌礁北部海域の漁場に至って操業を始め、翌21日03時00分するめいか6トンを漁獲して操業を打ち切り、同漁場を発進して同港に向け、帰途に就いた。 ところで、A及びB両受審人は、同年6月中旬から酒田港を基地として同港沖合漁場に休漁日を除く連日午前中に出漁し、夕方から操業を開始して翌朝水揚げする1泊操業を続けており、基地から漁場までの所要時間が4時間ほどで、その往復航海の船橋当直(以下「当直」という。)をA及びB両受審人が適宜交代して単独で当たり、その間他の乗組員が休息をとっていた。また、このころ連日豊漁が続き、水揚げ終了したのち、燃料及び氷などを補給して直ちに出航する状況で両人とも疲労が蓄積し、及び睡眠不足となっていた。 A受審人は、前示漁場発進から当直に就き、同7月21日03時30分酒田港南防波堤灯台(以下「南灯台」という。)から280度(真方位、以下同じ。)44.6海里の地点で、針路を100度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.9ノットの対地速力で進行した。 定針したとき、A受審人は、漁獲物の整理作業等を終えて操舵室に戻ったB受審人に当直を引き継ぐこととしたが、何かあれば報告するものと思い、眠気を催したら速やかに報告するよう指示を十分にすることなく、当直を引き継いで操舵室内右舷後方のベッドで就寝した。 B受審人は、引き継いで当直に就き、操舵室の扉及び窓を閉め切って冷房をかけ、同室中央に固定したリクライニング式のいすに腰掛けて見張りに当たり、05時05分南灯台から280度25.8海里の地点に達したとき、周囲に他船も存在しなかったことから気が緩み、加えて疲労が蓄積し、及び睡眠不足から眠気を催したが、まさか居眠りすることはあるまいと思い、速やかに操舵室後方のベッドで睡眠中のA受審人に報告して当直を交代してもらうなど居眠り運航の防止措置を十分にとることなく、いつしか居眠りに陥った。 07時14分B受審人は、南灯台から274度370メートルの地点に達し、酒田港南防波堤(以下「南防波堤」という。)に向首進行していたが、依然居眠りをしていたことから、このことに気付かず、07時15分南灯台から202度35メートルの地点において、弘氣丸は、原針路、原速力のまま、その船首が同防波堤の消波ブロックに衝突した。 当時、天候は晴で風はほとんど無く、潮候は上げ潮の末期であった。 A受審人は、衝突の衝撃で目を覚まし、事後の措置に当たった。 防波堤衝突の結果、弘氣丸は、船首部を圧壊したが、のち修理された。
(原因) 本件防波堤衝突は、漁場から酒田港に向けて帰港中、居眠り運航の防止措置が不十分で、南防波堤に向首進行したことによって発生したものである。 弘氣丸の運航が適切でなかったのは、船長が、当直者に対して眠気を催した際に報告するよう指示しなかったことと、当直者が、眠気を催した際、船長に報告しなかったこととによるものである。
(受審人の所為) A受審人は、漁場から酒田港に向けて帰港中、部下に単独で当直させる場合、居眠り運航とならないよう、居眠り運航の防止措置として眠気を催したら速やかに報告するよう指示を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、何かあれば報告するものと思い、同指示を十分に行わなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、南防波堤に向首進行して同防波堤との衝突を招き、弘氣丸の船首部圧壊を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、漁場から酒田港に向けて帰港中、単独で当直に当たり、眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、速やかに操舵室後方のベッドで睡眠中の船長に報告して当直を交代してもらうなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、まさか居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、南防波堤に向首進行して同防波堤との衝突を招き、前示の損傷生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |