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2000年(平成12年)

平成12年仙審第48号
    件名
貨物船第一海神丸岸壁衝突事件(簡易)

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年9月1日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

長谷川峯清
    理事官
宮川尚一

    受審人
A 職名:第一海神丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
岸壁・・・擦過傷
海神丸・・・船首に凹損

    原因
風圧流に対する配慮不十分

    主文
本件岸壁衝突は、風圧流に対する配慮が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。

適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年2月16日10時06分
八戸港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第一海神丸
総トン数 496トン
全長 73.25メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,176キロワット
3 事実の経過
第一海神丸(以下「海神丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、積荷の目的で、空倉のまま、船首1.71メートル船尾3.60メートルの喫水をもって、平成12年2月15日18時00分室蘭港を発し、八戸港に向かい、翌16日05時25分同港港外に至って八戸大橋橋梁灯(以下「橋梁灯」という。)から054度(真方位、以下同じ。)1.1海里の地点で投錨し、仮泊した。
ところで、海神丸は、主として石灰石を青森県尻屋岬港で積み、秋田県能代及び山形県酒田両港に輸送する業務に従事しているが、年間3ないし4回八戸港の大平洋金属株式会社専用岸壁(以下「専用岸壁」という。)でニッケル鋼スラグを積み、室蘭港の新日本製鉄株式会社に輸送する業務を行っていた。

専用岸壁は、旧馬淵川を閉鎖して幅約140メートル可航幅約100メートルの掘り込み式水路に整備された八戸港第2区西部の通称河原木第一工業港の北浜にあり、大平洋金属株式会社の敷地内にあって長さ約450メートル前面水深6.5メートルで、西端から順にAないしEのバース名が付けられていた。また、同工業港と八戸港第2区の館鼻地区とは八戸大橋下の新井田川水路でつながれ、同工業港に出入航する総トン数200トン以上の船舶には、海上保安部の航行管制が行われていた。
A受審人は、高層気象、地上天気及び波浪予想各図の船舶気象ファックスを毎日6枚ほど受信しており、青森地方気象台が前日15日夕刻から16日早朝にかけて発表した、強い寒気が流れ込んで冬型の気圧配置が強まり、突風を伴って雪が断続的に強く降る旨の三八上北地方に対する大雪・風雪・波浪等注意報の気象情報も知っていた。

07時35分A受審人は、前示仮泊地点を抜錨して八戸港東航路を経て港内に入航し、航行管制灯が河原木第一工業港への入航信号に変わるのを待つため、07時50分橋梁灯から076度1,320メートルの地点で投錨し、09時40分同信号となったので、抜錨して専用岸壁に向かった。
A受審人は、新井田川水路を航過したのち、09時52分橋梁灯から248度330メートルの地点で、針路を286度に定め、機関を微速力前進にかけ、折からの降雪を伴う風力5の北西風を船首方に受けながら、4.3ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
09時57分半A受審人は、橋梁灯から274.5度1,010メートルの地点で、河原木第一工業港の水路に沿うように針路を278度に転じ、西寄りの風が強いので専用岸壁に入船右舷着けすることとして続航した。
10時02分A受審人は、橋梁灯から276度1,610メートルの地点に達したとき、針路を着岸予定の専用岸壁Eバースに向く295度に転じ、機関を停止して惰力で進行した。

10時03分A受審人は、橋梁灯から276.5度1,690メートルの地点で、出航時の用錨回頭を容易にするため、2.7ノットの対地速力で惰力進行しながら左舷錨を投じ、気象情報どおりの突風を伴う北西風を受けると、空倉のため浮上した状態の船首が急に風下に圧流されて専用岸壁に衝突するおそれがあったが、左舷錨を投入したから船首が急に風下に圧流されることはないものと思い、錨鎖を緊張させながら伸出するなど突風を伴う強風による船首の風下への圧流に対して十分に配慮することなく、錨鎖を弛ませた状態で伸出しつつ、同じ針路で惰力のまま同岸壁に接近した。
10時06分わずか前A受審人は、船首が専用岸壁まで7メートルに接近したとき、折から突風を伴う北西風が強吹し、急に船首が風下の同岸壁に向けて右方に圧流され、錨鎖を3節伸出していたものの弛んでいたことから、その圧流を抑えることができず、同岸壁との衝突の危険を感じて急いで左舵一杯とし、機関を数秒間前進にかけたのち半速力後進にかけたが間に合わず、10時06分橋梁灯から278度1,730メートルの地点において、海神丸は、1.4ノットの対地速力で、船首が320度を向いて専用岸壁に衝突した。

当時、天候は雪で、突風を伴う風力5の北西風が吹き、潮侯は上げ潮の末期であった。
衝突の結果、専用岸壁は、擦過傷を生じただけで修理は行われず、海神丸は、船首に凹損を生じたが、航行に支障がなかったので修理を行わなかった。


(原因)
本件岸壁衝突は、八戸港において、冬季の突風を伴う北西の強風下、専用岸壁に入船右舷着けする際、風圧流に対する配慮が不十分で、突風により船首が風下の同岸壁に向けて圧流されたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、八戸港において、冬季の突風を伴う北西の強風下、専用岸壁に入船右舷着けする場合、青森地方気象台が発表した三八上北地方に対する大雪・風雪・波浪等注意報などの気象情報を知っていたから、空倉のため浮上した状態の船首が急に風下に圧流されて同岸壁に衝突することのないよう、錨鎖を緊張させながら伸出するなど突風を伴う強風による船首の風下への圧流に対して十分に配慮すべき注意義務があった。ところが、同人は、左舷錨を投入したから船首が急に風下に圧流されることはないものと思い、突風を伴う強風による船首の風下への圧流に対して十分に配慮しなかった職務上の過失により、錨鎖を弛ませた状態で伸出しつつ、惰力のまま専用岸壁に接近して同岸壁との衝突を招き、専用岸壁に擦過傷及び海神丸の船首に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。






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