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2000年(平成12年)

平成12年函審第43号
    件名
漁船第38妙珠丸漁船加栄丸衝突事件(簡易)

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年9月28日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

酒井直樹
    理事官
里憲

    受審人
A 職名:第38妙珠丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:加栄丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士(5トン限定)
    指定海難関係人

    損害
妙珠丸・・・船首部船底外板に擦過傷
加栄丸・・・右舷船首ブルワーク及び船首物入れに亀裂を伴う凹損、左舷船尾ビットに折損、船外機に損傷、船長が左肋骨骨折、左腸骨骨折及び左血気胸

    原因
妙珠丸・・・速力不適切、船員の常務(衝突回避措置)不遵守
加栄丸・・・港則法の航法(防波堤等の突端)不遵守

    主文
本件衝突は、第38妙珠丸が、防波堤により港内の見通しが妨げられる狭い航路筋の出入口に入航する際、安全な速力に減じず、衝突を避けるための措置がとれなかったことと、加栄丸が、同出入口内側を発して出航する際、同出入口から十分離れたところで狭い航路筋の右側端に付く進路をとらず、同出入口の左側を出航したこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。

適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年10月13日16時00分
北海道川汲漁港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第38妙珠丸 漁船加栄丸
総トン数 1.87トン 1.0トン
登録長 6.84メートル 6.48メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
出力 62キロワット 29キロワット
3 事実の経過
第38妙珠丸(以下「妙珠丸」という。)は、船外機1基を備え、こんぶ養殖漁業に従事する和船型のFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り、船首0.05メートル船尾0.55メートルの喫水をもって、平成11年10月13日13時40分北海道内浦湾川汲漁港東船揚場を発し、13時45分同漁港の北西方約1,200メートルのこんぶ養殖施設に至り、同施設の幹縄の設置作業に従事したのち15時58分同施設を離れ、帰途についた。
こんぶ養殖施設を離れたとき、A受審人は、船尾左舷側の物入れに腰をかけ右手で船外機の操縦レバーを握って操船に当たり、川汲港北防波堤灯台の少し南西方に向け東行したのち、15時59分半、同灯台から302度(真方位、以下同じ。)330メートルの地点に達したとき、針路を川汲漁港防波堤入口の右側端に向く127度に定め、船外機を全速力前進にかけ、22.0ノットの対地速力で進行した。

ところで川汲漁港は、渡島半島東岸の内浦湾に開口する川汲川の河口右岸から東南東方に延びる海岸に築かれた人工港で、同港の東南東端から北北東方に約85メートル延びる東船揚場の北北東端から陸岸に平行に西北西方に約125メートル延びたのち北西方に屈曲して約175メートル延びる海面上の高さ約6メートルの北防波堤と、東船揚場の基部から西北西方約250メートルのところから北北東方に約60メートル延びる海面上の高さ約4メートルの西防波堤に囲まれて出入口を西北西方に開き、両防波堤の間の可航幅が約30メートルに狭められ、港内の岸壁の中央部には中央突堤があってその突端と北防波堤との間の可航幅が約30メートルに狭められており、港内の北防波堤の内側が狭い航路筋となっていた。
西防波堤の基部には東南東方に約50メートル延びる西船揚場が設けられて小型漁船の基地となっており、A受審人は、狭い航路筋の出入口の外側からは西防波堤により見通しが妨げられて西船揚場から出航する他の同業船が視認できないことを知っており、同出入口に入航する際は、西船揚場から出航する他船との衝突を避けるための措置がとれるよう、その手前で安全な速力に減じていた。

定針したときA受審人は、右舷船首4度385メートルの西防波堤の内側に加栄丸が出航中であったが、西防波堤の陰になって視認できず、16時00分少し前、川汲港北防波堤灯台から290度120メートルの地点に達し、狭い航路筋の出入口が船首150メートルに接近した。しかし、同人は、このころ港奥の航路筋の右側端に沿って出航する1隻のいか釣り漁船を認め、同船と同出入口で行き合う態勢であったことから、早めに入航しようと思い、安全な速力に減じることなく、22ノットの過大な速力のまま続航したところ、16時00分わずか前、西防波堤突端の陰から現れた加栄丸を船首50メートルに初認したが、どうすることもできず、16時00分、川汲港北防波堤灯台から166度57メートルの同出入口において、妙珠丸は、その船首が加栄丸の右舷船首に、原針路、全速力のまま前方から17度の角度で衝突し、これを乗り越えた。
当時、天候は曇で風力2の南西風が吹き、潮候は上げ潮の末期にあたり、視界は良好であった。
また、加栄丸は、船外機1基を備え、刺網漁業に従事する和船型のFRP製漁船で、いか一本釣りの目的でB受審人が1人で乗り、船首0.10メートル船尾0.60メートルの喫水をもって、同日15時58分半、川汲漁港西防波堤基部内側の西船揚場の同防波堤から10メートルばかり離れたところを発し、北防波堤突端の外側付近の漁場に向かった。
B受審人は、自船の海面上の高さが低いので、西船揚場を発して出航する際、西防波堤から十分離れたところで狭い航路筋の右側端に付く進路をとらないと西防波堤により見通しが妨げられて狭い航路筋の出入口外側の入航船が視認できず、また、入航船からも自船が視認できないことを知っていた。しかし、同人は、入航船が狭い航路筋の出入口の外側で安全な速力に減じていたことから、近回りしても大丈夫と思い、同出入口から十分離れたところで狭い航路筋の右側端に付く進路をとらず、発航地点から西防波堤の内側に沿う進路で北上した。

B受審人は、船尾左舷側の物入れに腰をかけ右手で船外機の操縦レバーを握って操船に当たり、15時59分、川汲港北防波堤灯台から188度110メートルの地点に達したとき、針路を西防波堤の内側10メートルに沿う032度に定め、船外機を極微速力前進にかけ、2.0ノットの対地速力で進行した。
B受審人は、15時59分半、川汲港北防波堤灯台から178度80メートルの地点に達したとき、左舷船首81度385メートルの西防波堤の外側に妙珠丸が高速力で入航中であったが、西防波堤の陰になって視認できないまま続航し、16時00分わずか前、自船の船尾端が西防波堤突端を左舷側10メートルに航過したとき、狭い航路筋の出入口左側端に向け左舵一杯をとって左転中、加栄丸は、290度に向いたとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、妙珠丸は船首部船底外板に擦過傷を生じ、加栄丸は、右舷船首ブルワーク及び船首物入れに亀裂を伴う凹損を、左舷船尾ビットに折損を生じ、船外機に損傷を生じ、B受審人が左肋骨骨折、左腸骨骨折及び左血気胸などを負った。


(原因)
本件衝突は、北海道内浦湾川汲漁港において、妙珠丸が、西防波堤により内側の見通しが妨げられる狭い航路筋の出入口に入航する際、安全な速力に減じず、衝突を避けるための措置がとれなかったことと、加栄丸が、狭い航路筋の出入口内側の船揚場を発して出航する際、同出入口から十分離れたところで狭い航路筋の右側端に付く進路をとらず、同出入口の左側を出航したこととによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、北海道内浦湾川汲漁港において、西防波堤により内側の見通しが妨げられる狭い航路筋の出入口に入航する場合、西防波堤基部の船揚場から出航する他船との衝突を避ける措置がとれるよう、安全な速力に減じて入航すべき注意義務があった。しかるに、同人は、港奥から出航する1隻のいか釣り漁船と狭い航路筋の出入口付近で行き合う態勢であったことから、早めに入航しようと思い、安全な速力に減じず、過大な速力のまま入航した職務上の過失により、同出入口を出航する加栄丸との衝突を避けるための措置がとれないまま進行して衝突を招き、自船の船首部船底外板に擦過傷を生じさせ、加栄丸の右舷船首ブルワーク及び船首物入れに亀裂を伴う凹損を、左舷船尾ビットに折損を生じさせ、船外機に損傷を生じさせ、B受審人に左肋骨骨折、左腸骨骨折及び左血気胸などを負わせるに至った。
B受審人は、北海道内浦湾川汲漁港において、西防波堤により外側の見通しが妨げられる狭い航路筋の出入口内側の船揚場を発して出航する場合、西防波堤により入航船が視認できないことを知っていたのであるから、同出入口から十分離れたところで狭い航路筋の右側端に付く進路をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、入航船が狭い航路筋の出入口外側で安全な速力に減じていたことから、近回りしても大丈夫と思い、同出入口から十分離れたところで狭い航路筋の右側端に付く進路をとらなかった職務上の過失により、狭い航路筋の出入口左側を出航して妙珠丸との衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせ、自身が負傷するに至った。


参考図






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