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2000年(平成12年)

平成12年函審第36号
    件名
漁船第三十八壽丸貨物船タヨージニック衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年9月13日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

酒井直樹、大石義朗、織戸孝治
    理事官
東晴二

    受審人
A 職名:第三十八壽丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
壽丸・・・左舷側張り出し甲板後部及び機関室外板に破口を伴う凹損、上甲板ハンドレールを曲損
タ号・・・船首ステムに擦過傷、右舷船首外板に凹損2個所

    原因
タ号・・・狭い水道の航法(右側通行)不遵守(主因)
壽丸・・・警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、タヨージニックが、狭い航路筋の右側端に寄らず、その左側を航行したことによって発生したが、第三十八壽丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年6月4日03時05分
北海道花咲港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十八壽丸 貨物船タヨージニック
総トン数 118.48トン 172トン
登録長 27.20メートル 30.13メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 441キロワット 225キロワット
3 事実の経過
第三十八壽丸(以下「壽丸」という。)は、北海道に用船されて北海道の漁業監視員を同乗させ、その指示によりロシア連邦の主張する領海内の違反操業漁船の取締業務に従事する鋼製漁船で、北海道花咲港漁業ふ頭岸壁南端付近に右舷付けに係留していたところ、平成10年6月4日02時ごろA受審人ほか4人が乗り組み、同漁業監視員1人を乗せ、北海道根室半島沖合の違反操業漁船の臨検業務の目的で、船首2.00メートル船尾3.50メートルの喫水をもって、同時50分出航配置に就いた。

ところで漁業ふ頭岸壁は、東西に延びる花咲港の内港東端の第1船だまりを囲んで南東方に延びる突堤西側の長さ約190メートルの岸壁で、同岸壁の基部の西側には西方に延びる長さ約410メートルの西浜ふ頭岸壁と、これに接続して長さ約180メートルの第1船揚場及び長さ約230メートルの第2船揚場があり、漁業ふ頭岸壁南端の約170メートル南方の埋立地から約480メートル西方に延びたのち南西方に屈曲して約220メートル延びる南防波堤により西浜ふ頭岸壁との間を幅約270メートルの水路とし、南防波堤南西端の少し東方から南方に延びる長さ約260メートルの防波堤(南)が設けられその南端に花咲港南防波堤灯台が設置され花咲港西部を囲んで東北東方に延びる西防波堤の突端と防波堤(南)の中央部との間を内港出入口とし、その水路幅は約200メートルで、同出入口の突き当たりの第2船揚場から西浜ふ頭岸壁西端付近にかけて沖合に水深5メートル以下の浅所が拡延して可航幅が約170メートルに狭められ、漁業ふ頭岸壁から内港出入口にかけて狭い航路筋となっていた。
A受審人は、昇橋して出航配置に就いたとき、航行中の動力船の灯火を表示したほか前部マスト、操舵室屋根前面及び機関室囲壁上部の各2個の笠付き作業灯を点じ、船首配置の通信長及び甲板員1人と船尾配置の甲板員1人に係留索の解らんを令し、自らは操舵室で舵輪と主機遠隔操縦装置により操船に当たり、03時00分係留索が解き放されたとき、機関を後進にかけて船尾を岸壁から離したのち機関を極微速力前進にかけて左舵をとり、徐々に左回頭しながら同岸壁から離れ、同時02分花咲港南防波堤灯台から035度(真方位、以下同じ。)790メートルの地点に達したところで船首尾配置を解き、針路を第1船揚場岸壁沖合の浅所に向く255度に定め、機関を微速力前進にかけ、4.0ノットの対地速力で西浜ふ頭岸壁と南防波堤との間の狭い航路筋の中央の少し右側を進行した。
定針したときA受審人は、左舷船首8度540メートルにタヨージニック(以下「タ号」という。)の白、緑2灯を初めて認め、その動静監視に当たっていたところ、03時03分タ号の方位が変わらず360メートルに接近したとき、タ号が西浜ふ頭岸壁の中央付近に向け第1船揚場沖合の浅所と南防波堤の屈曲部との間の狭い航路筋の左側を航行中で、自船と衝突のおそれのある態勢で接近することを知った。しかし、同人は、自船が狭い航路筋の右側端に向け航行中であるから、いずれタ号が狭い航路筋の右側に向け右転して左舷を対して航過するものと思い、警告信号を行わず、更に接近しても機関を後進にかけて行きあしを止めるなどの衝突を避けるための措置をとらないまま続航中、03時05分少し前、タ号が左舷前方40メートルに接近したとき、危険を感じて右舵をとったが間に合わず、03時05分花咲港南防波堤灯台から009度570メートルの地点において、壽丸は、300度に向首したとき、その左舷側後部付近がタ号の船首に前方から70度の角度で衝突した。
当時、天候は雨で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期にあたり、視界は良好であった。
また、タ号は、中央部船橋型の鋼製水産物運搬船で、船長B及び一等航海士Cほか14人が乗り組み、かれい約6トンを載せ、喫水不祥のまま同月3日21時40分国後島古釜府港を発し、北海道花咲港に向かった。
発航後B船長は、珸瑤瑁水道を通過したのち根室半島の南岸に沿って西行し、翌4日02時30分花咲灯台の東南東方2.5海里ばかりのところで船橋当直の一等航海士から花咲港の入航配置地点に達した旨の報告を受けて昇橋し、航行中の動力船の灯火が表示されていることを確認し、C一等航海士を前方の見張りに、当直甲板手を手動操舵に当たらせて操船指揮に当たり、機関を10ノットばかりの全速力前進にかけて花咲港外防波堤入口に向け西行した。

B船長は、02時46分外防波堤入口の少し南方に達したとき、当直甲板手に対し、船首尾配置の乗組員を起こすよう指示して降橋させ、自ら操舵に当たり花咲港南防波堤灯台の少し西方に向け右転して北上し、同時51分、同灯台から208度180メートルの地点に達したとき針路を西防波堤突端と防波堤(南)との間の内港入口の左側に向く345度に定め、機関を極微速力前進に減じ、2.0ノットの対地速力で進行した。
B船長は、02時53分少し過ぎ、花咲港南防波堤灯台を右舷側120メートルに航過したのち防波堤(南)と西防波堤突端との間の内港入口の左側を航行し、同時58分半花咲港南防波堤灯台から326度350メートルの地点に達したとき、針路を南防波堤西端の屈曲部にほぼ沿う040度に転じ、03時01分、花咲港南防波堤灯台から346度420メートルの地点に達したとき、前方に航行中の他船が認められなかったことから、針路を西浜ふ頭岸壁東端の港湾管理事務所の少し西方の着岸予定位置に向く050度に転じ、船揚場岸壁沖合の5メートル等深線と南防波堤との間の狭い航路筋の左側を続航した。

B船長は、03時02分花咲港南防波堤灯台から353度450メートルの地点に達したとき、右舷船首17度540メートルに西浜ふ頭岸壁と南防波堤との間の狭い航路筋の右側を西行する壽丸の白、紅2灯と作業灯を視認できる状況となり、その後壽丸の方位が変わらず、衝突のおそれのある態勢で接近した。しかし、B船長は、船首方の自船の着岸予定位置に向け操舵することに気を取られ、右舷方の見張りを十分に行わなかったので、壽丸の接近に気付かず、また、C一等航海士が、このころ操舵室後部で航海日誌を記入していたので、壽丸が接近する旨の報告が得られず、速やかに右転して狭い航路筋の右側に付くことなく進行中、同時05分わずか前、船首至近に迫った壽丸の作業灯を初めて認め、機関を全速力後進としたが、タ号は、原針路、極微速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、壽丸は、左舷側張り出し甲板後部及び機関室外板に破口を伴う凹損を生じ、上甲板ハンドレールを曲損し、タ号は、船首ステムに擦過傷を、右舷船首外板に凹損2個所を生じた。


(原因)
本件衝突は、夜間、北海道花咲港西浜ふ頭岸壁に向け入航中のタ号が、南防波堤と西浜ふ頭岸壁との間の狭い航路筋の右側端に寄らず、その左側を航行したことによって発生したが、同航路筋の右側に寄って出航中の壽丸が、同航路筋の左側に寄って入航中のタ号を認めた際、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、操船に当たって北海道花咲港漁業ふ頭岸壁を離岸し、同港西浜ふ頭岸壁と南防波堤との間の狭い航路筋の右側に寄って出航中、左舷前方に狭い航路筋の左側に寄って入航中のタ号を認めた場合、速やかに行きあしを止めるなどの衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、いずれタ号が右転して左舷を対して航過するものと思い、機関を後進にかけて行きあしを止めるなどの衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、行きあしを止めることなく進行して衝突を招き、自船の左舷側張り出し甲板後部及び機関室外板に破口を伴う凹損を生じさせ、上甲板ハンドレールを曲損させ、タ号の船首ステムに擦過傷を、右舷船首外板に凹損2個所を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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