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2000年(平成12年)

平成11年長審第82号
    件名
旅客船美津丸5プレジャーボート弁天丸II衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年8月31日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

平野浩三、亀井龍雄、河本和夫
    理事官
喜多保

    受審人
A 職名:美津丸5船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:弁天丸II船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
美津丸・・・左舷船首に破口を伴う凹損
弁天丸・・・右舷後部船体及び操舵室が大破、全損、船長が10日間の治療を要する右側頭部打撲、同乗者1人が約2週間の治療を要する右手関節捻挫、同1人が約2週間の治療を要する頸部捻挫及び同1人が10日間の治療を要する左肩打撲擦過傷

    原因
美津丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
弁天丸・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、美津丸5が、見張り不十分で、前路で錨泊中の弁天丸IIを避けなかったことによって発生したが、弁天丸IIが、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年7月5日07時33分
長崎県高島港東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 旅客船美津丸5 プレジャーボート弁天丸II
総トン数 18トン
全長 18.38メートル 7.07メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 496キロワット 84キロワット
3 事実の経過
美津丸5(以下「美津丸」という。)は、長崎県香焼町本村桟橋と香焼島南西方沖合2海里に位置する高島との間を定期運航するFRP製旅客船で、A受審人が1人で乗り組み、同乗者2人、旅客6人を乗せ、船首0.3メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、平成10年7月5日07時25分香焼町本村桟橋を発し、高島港に向かった。
07時29分A受審人は、肥前高島港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から063度(真方位、以下同じ。)2海里の地点において、横島に並航して針路を243度に定め、機関を全速力前進にかけて22.0ノットの対地速力とし、操縦席に腰掛け、手動操舵により、船首が浮上して船首方各舷に15度の死角を生じた状態で進行した。

07時30分半少し過ぎA受審人は、南防波堤灯台から243度2,900メートルの地点において同針路、同速力で進行していたとき、前路1.0海里に弁天丸II(以下「弁天丸」という。)を認め得る状況であったが、前路に船がいないと思い、これまでも船首を左右に振るなどして船首方の死角を補う見張りを行っていなかったので、同船を認めないまま続航した。
07時32分A受審人は、船首方650メートルのところで錨泊中の弁天丸と衝突のおそれのある態勢で接近していたが、依然として死角を補う見張りを行っていなかったので、同船の存在に気付かず、針路を変更するなど衝突を避けるための措置をとらないまま進行し、07時33分わずか前同船から船外に突き出した釣り竿を認めて同船の存在に初めて気付いたが、どうすることも出来ず、07時33分南防波堤灯台から061度1,150メートルの地点において、美津丸は、原針路、原速力で、その船首が弁天丸の右舷船尾に後方から10度の角度で衝突した。

当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好であった。
また、弁天丸は、FRP製プレジャーボートで、受審人Bが1人で乗り組み、同乗者3人を乗せ、釣りの目的で、船首0.38メートル船尾0.70メートルの喫水をもって、同日06時50分同県香焼町本村岸壁を発し、高島港東方沖合の釣り場に向かった。
07時05分B受審人は、衝突地点の釣り場に到着して機関を停止し、水深26メートルのところに船首から投錨しアンカーロープを約40メートル延出して船首に係止し、錨泊中であることを示す法定形象物としての黒球を船尾甲板上約2.0メートルの高さに掲げ、釣りを開始した。
07時30分半少し過ぎ右舷船首甲板上の物入れに腰掛けて釣りをしていたB受審人は、船首が233度に向いていたとき、左舷船尾10度1.0海里のところから接近する美津丸を視認することが出来たが、釣りに気をとられて同船の接近に気付かず、周囲の見張りを厳重に行うことなく釣りを続けた。

07時32分B受審人は、衝突のおそれのある態勢で650メートルに接近した美津丸に対して注意喚起信号を行うことなく釣りを続け、07時33分わずか前船尾にいた同乗者から同船が間近に迫ったことを報されたが、どうすることも出来ず、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、美津丸は左舷船首に破口を伴う凹損を生じたが、のち修理されるとともに船首の浮上防止の改造が行われ、弁天丸は右舷後部船体及び操舵室が大破して全損となったが、船外機はのち修理された。B受審人は10日間の治療を要する右側頭部打撲、同乗者Cは約2週間の治療を要する右手関節捻挫、同Dは約2週間の治療を要する頸部捻挫及び同Eは10日間の治療を要する左肩打撲擦過傷をそれぞれ負った。


(原因)
本件衝突は、長崎県高島港東方沖合において、美津丸が、高島港に向けて船首方に死角を生じた状態で航行中、見張り不十分で、前路で錨泊中の弁天丸を避けなかったことによって発生したが、弁天丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、長崎県高島港東方沖合において、高島港に向けて船首方に死角を生じた状態で航行する場合、前路で錨泊中の弁天丸を見落とすことのないよう、船首を左右に振るなどして船首方の死角を補う見張りを行うべき注意義務があった。しかしながら同人は前路に船がいないと思い、船首方の死角を補う見張りを行わなかった職務上の過失により、弁天丸の存在に気付かず進行して衝突を招き、美津丸の左舷船首に破口を伴う凹損を生じさせ、弁天丸の右舷後部船体及び操舵室を大破させて全損にさせ、B受審人に10日間の治療を要する右側頭部打撲、同乗者3人に約2週間の治療を要する右手関節捻挫、頸部捻挫及び10日間の治療を要する左肩打撲擦過傷をそれぞれ負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

B受審人は、長崎県高島港東方沖合で錨泊して釣りを行う場合、自船に向けて進行する美津丸を見落とすことのないよう、見張りを厳重に行うべき注意義務があった。しかしながら同人は、接近する他船がいないものと思い、見張りを厳重に行わなかった職務上の過失により、美津丸の接近に気付かず注意喚起信号を行わないまま釣りを続けて衝突を招き、前示のとおりの損傷を生じるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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