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2000年(平成12年)

平成11年長審第86号
    件名
漁船第八十一哲丸漁船稲栄丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年8月23日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

亀井龍雄、森田秀彦、河本和夫
    理事官
喜多保

    受審人
A 職名:第八十一哲丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第八十一哲丸甲板員 海技免状:一級小型船舶操縦士
C 職名:稲栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
哲丸・・・船首部に破口を伴う擦過傷
稲栄丸・・・船尾部を大破、船長が頸部捻挫及び頸椎椎間板ヘルニアで4箇月10日の入院加療

    原因
哲丸・・・見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
稲栄丸・・・見張り不十分、警告信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、第八十一哲丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事している稲栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、稲栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年9月1日00時20分
熊本県天草下島北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八十一哲丸 漁船稲栄丸
総トン数 18トン 4.98トン
全長 22.50メートル
登録長 10.78メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 632キロワット
漁船法馬力数 15
3 事実の経過
第八十一哲丸(以下「哲丸」という。)は、網船1隻、灯船2隻及び運搬船3隻の6隻から成るまき網船団のFRP製灯船で、A、B両受審人ほか一人が乗り組み、操業の目的で、船首0.75メートル船尾1.60メートルの喫水をもって、平成10年8月31日13時00分長崎県三重式見港を船団と共に発し、天草下島の四季咲岬北西方沖合漁場に向かった。
A受審人は、同日15時00分漁場に至り、網船にいる漁労長の指揮のもと操業に従事し、翌9月1日00時05分ごろ同漁場での操業を終えたところで、同漁労長から、長崎県樺島南南西方沖合の漁場に移動する、底びき網漁船が多いので注意するようにとの指示を受け、再度周囲の魚群探索を行って取り残した魚がいないことを確認したのち、同時10分航行中の動力船の灯火を掲げ、四季咲岬灯台から304度(真方位、以下同じ。)2.5海里の地点を発進した。

発進直後A受審人は、針路を259度に定め、機関を半速力前進にかけて12.0ノットの対地速力で手動操舵によって、熊本県が定めた小型機船底びき網漁業操業区域内を進行し、周囲に緑、白全周灯2個を掲げてえびこぎ網漁業に従事している多数の漁船を視認し、さらにレーダー映像でもこれらを認めていたが、B受審人に操船を任せても大丈夫と思い、同人に操船を任せ、自分は、操舵室左舷側のいすに前方を向いて腰掛け、魚群探索のためソナー、魚群探知機の監視にあたり、周囲の見張りを十分に行わなかった。
えびこぎ網漁業は、袋網、袖網及び網口を広げるビームを付けた股綱から成る全長約500メートルの漁具を海底に着け、潮の流れに沿い、あるいは抗する状態でひき、えびを捕獲する底びき網漁業で、操縦性能を制限する漁ろうに相当するものであった。

B受審人は、操舵室右舷側の舵輪のところに立って操船し、3海里レンジにしたレーダーで、約50隻の底びき網漁船が0.1ないし0.2海里ほどの間隔をおいて存在しているのを認め、同漁船群の間を259度の針路のまま進行した。
00時19分四季咲岬灯台から285度4.0海里の地点に達したとき、B受審人は、右舷船首8度340メートルに稲栄丸の緑灯1個とその右斜め下方に白灯1個及び船尾の明るい作業灯1個を視認でき、同船が漁ろうに従事しており、間もなく衝突のおそれがある態勢で接近することを認めることができる状況となったが、左舷前方の緑、白2灯及び数個の明るい作業灯を点灯して操業中の漁船の動静に気をとられ、このことに気付かず、速やかに右転するなど稲栄丸の進路を避けることなく続航した。
一方、A受審人は、依然として魚群探索を続けていて周囲の見張りを十分に行っていなかったので、この状況に気付かなかった。

B受審人は、同針路、同速力で進行し、00時20分四季咲岬灯台から284度4.15海里の地点において、哲丸の船首部が、原針路、原速力のまま稲栄丸の船尾部に左舷後方から48度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力2の北東風が吹き、視界は良好であった。
また、稲栄丸は、FRP製漁船で、C受審人が単独で乗り組み、えびこぎ網漁の目的で、船首0.25メートル船尾1.40メートルの喫水をもって、8月31日18時15分熊本県富岡漁港を発し、四季咲岬西方沖合の底びき網漁業操業区域に向かった。
C受審人は、19時00分多数の同業船と共に漁場に至り、自船に合うように作製した、長さ10.5メートルの袋網、その左右両端に付けた長さ各10.5メートルの袖網、そして長さ12メートルのビームをつけた長さ450メートルの股綱2条から成る漁具を船尾から水深70メートルほどの海底に投下し、股綱の後端を後部甲板上のローラーに繋(つな)いでひき始め、操業を開始した。

操業開始時C受審人は、舷灯及び船尾の網を照らすための白色作業灯を点灯したうえ、トロールによって漁ろうに従事する船舶が掲げる緑、白全周灯2個を点灯したが、白灯は緑灯の垂直線上の下方ではなく、船尾方に寄って設置されていたため、正船首尾方からは両灯が垂直線上に見えるものの、その他の方向からは緑灯の斜め下方に白灯が見える状況であった。しかし、稲栄丸がトロールによって漁ろうに従事する船舶であることは、その灯火の状態からも、周囲に緑、白2灯を垂直線上に掲げた漁船が多数いたこともあり、容易に判断できる状況であった。
23時47分C受審人は、四季咲岬灯台から300度4.0海里の地点で針路を211度に定め、2.0ノットの対地速力で曳(えい)網を行い、翌9月1日00時19分同灯台から284.2度4.14海里の地点に達したとき、左舷正横後34度340メートルに哲丸の白、緑2灯を視認でき、間もなく衝突のおそれがある態勢で接近することを認めることができる状況となったが、後方から接近する他船が自船を避けるものと思い、後方の見張りを十分に行わなかったので、哲丸の接近に気付かず、速やかに警告信号を行うことなく進行し、前示のとおり衝突した。

衝突の結果、哲丸は、船首部に破口を伴う擦過傷を生じ、稲栄丸は船尾部を大破したが、のちいずれも修理された。また、C受審人が頸部捻挫及び頸椎椎間板ヘルニアを負い、4箇月10日の入院加療を要した。

(原因)
本件衝突は、夜間、天草下島北西方沖合において、哲丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事している稲栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、稲栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、多数の底びき網漁船が漁ろうに従事している天草下島北西方沖合を航行する場合、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、有資格の甲板員に操船を任せておけば大丈夫と思い、操舵室内でソナー、魚群探知機による魚群探索に専念し、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、漁ろうに従事している稲栄丸との接近に気付かず、同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き、哲丸の船首部に破口を伴う擦過傷を生じさせ、稲栄丸の船尾部を大破させ、また、C受審人に頸部捻挫及び頸椎椎間板ヘルニアを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、多数の底びき網漁船が漁ろうに従事している天草下島北西方沖合を航行する場合、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷方で操業中の漁船の動静に気を取られ、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、漁ろうに従事している稲栄丸との接近に気付かず、速やかに同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。

以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、夜間、熊本県天草下島北西方沖合において、多数の同業船と共に漁ろうに従事する場合、後方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、後方から接近する他船が自船を避けるものと思い、後方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、後方から接近する哲丸に気付かず、速やかに警告信号を行うことなく進行して衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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