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2000年(平成12年)

平成12年門審第14号
    件名
漁船第八大豊丸漁船海幸丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年8月31日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

供田仁男、原清澄、米原健一
    理事官
今泉豊光

    受審人
A 職名:第八大豊丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:海幸丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
大豊丸・・・右舷船首部外板に擦過傷
海幸丸・・・左舷側中央部外板に破口、同部舷縁を損壊、修理費の関係で廃船処理

    原因
大豊丸・・・居眠り運航防止措置不十分、船員の常務(避航動作)不遵守

    主文
本件衝突は、第八大豊丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、錨泊中の海幸丸を避けなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年5月16日00時20分
長崎県対馬長崎鼻北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八大豊丸 漁船海幸丸
総トン数 19トン 4.30トン
全長 20.25メートル
登録長 10.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 433キロワット
漁船法馬力数 70
3 事実の経過
第八大豊丸(以下「大豊丸」という。)は、中型まき網漁業船団に所属して漁獲物の運搬に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、平成11年5月15日14時00分漁獲物の水揚げを行った佐賀県唐津港を発し、21時00分長崎県一重漁港に寄港して船用品を積み込んだのち、船首0.45メートル船尾1.80メートルの喫水をもって、22時00分同漁港を出港し、船団が出漁している対馬の長崎鼻南方沖合の漁場に向かった。
A受審人は、平素から主に1人で船橋当直を担い、眠気を催したときにその都度甲板員に当直を委ねて休息することとしており、この日も唐津港から一重漁港への航海中に眠気を催して仮眠をとっていたので、出港後、2人の甲板員を休息させて自ら当直に就き、航行中の動力船の灯火を表示し、魚群を探索しながら南下することとして、レーダー及び魚群探知機を作動させ、操舵室内後部に設けられた2段式寝台の上段に腰掛けて操船にあたった。

22時10分A受審人は、一重漁港港外の赤瀬を右舷側に航過して操舵を自動とし、機関を微速力前進にかけ、4.0ノットの対地速力で、南東方に向かって魚群の探索を開始し、23時10分対馬長崎鼻灯台から050度(真方位、以下同じ。)6.2海里の地点に至ったとき、針路を漁場の北方に向く230度に定め、操舵を手動に切り換えて進行した。
定針したころA受審人は、連日の出漁による疲労と睡眠不足で再び眠気を催したが、もう少しは当直を続けられるものと思い、甲板員を起こして当直を交代するなど居眠り運航の防止措置をとることなく、依然として寝台に腰掛けたまま続航し、やがて眠気に加えてしばらく前から感じていた腰痛が激しくなり、23時43分腰を伸ばすつもりで、舵輪を手放して寝台に仰向けになったところ、すぐに居眠りに陥った。
大豊丸は、進路が徐々に偏向し、翌16日00時16分長崎鼻の北東方2.5海里付近で、000度に向首して直進するようになり、同時17分半対馬長崎鼻灯台から029度2.7海里の地点に達したとき、正船首300メートルのところに海幸丸の集魚灯と同灯に照らされた船体及び付近海面を視認することができ、同船に航跡がなく、全く移動しない様子から錨泊中であることが分かり、その後衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況となったが、A受審人が居眠りしていてこの状況に気付かないまま、同船を避けずに続航中、00時20分対馬長崎鼻灯台から028度2.8海里の地点において、000度に向首し、原速力で、その船首が海幸丸の左舷側中央部に後方から67度の角度で衝突した。

当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期であった。
A受審人は、衝突の衝撃にも目覚めないでいるうち、大豊丸の後部右舷側に設けられたたつが海幸丸の船尾部左舷側舷外に振り出されていた自動いか釣り機の網台に掛かって、両船が接舷した態勢となり、乗り移ってきたB受審人に起こされ、衝突したことを知って事後の措置にあたった。
また、海幸丸は、船体後部に操舵室を有する木造漁船で、B受審人が1人で乗り組み、いか漁の目的で、船首0.4メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同月15日14時30分長崎県佐賀漁港を発し、同漁港東方沖合の漁場に向かった。
B受審人は、14時55分衝突地点付近に着き、水深45メートルの海中に重さ30キログラムの五爪錨を投じ、船首から化学繊維製の錨索を110メートル延出して錨泊し、日没後、錨泊中であることを表示する白色全周灯1個を掲げないまま、3キロワットの集魚灯を操舵室の前端部付近とその1.1メートル前方及び同室後方に各1個ずつ、甲板上2.0メートルないし1.8メートルの高さで点灯し、船尾部両舷側の自動いか釣り機を作動させるとともに、船首部甲板上に腰を下ろし、船尾方を向いて自らも手釣りによる操業を開始した。

翌16日00時16分B受審人は、衝突地点において、船首が293度を向いていたとき、左舷船尾67度500メートルのところに大豊丸の白、緑、紅3灯を初めて視認し、動静を監視したところ、自船に向首しているものの、速力が極めて遅いうえ、近づくにつれて自船の集魚灯の明かりで同船のレーダースキャナーが回転しているのが見えたことから、自船の存在に気付いており、漁模様を観察するのだろうと思っているうち、同時19分半わずか過ぎ50メートルに接近しても更に直進してくることに危険を感じ、釣り糸を手放して操舵室内に駆け込んだ直後、海幸丸は、船首を293度に向け、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、大豊丸は、右舷船首部外板に擦過傷を生じ、海幸丸は、左舷側中央部外板に破口を生じたほか、同部舷縁を損壊し、修理費の関係で廃船処理された。


(原因)
本件衝突は、夜間、対馬長崎鼻北東方沖合において、航行中の大豊丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路で錨泊中の海幸丸を避けなかったことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、対馬長崎鼻北東方沖合において、単独の船橋当直に就いて漁場に向け航行中、眠気を催した場合、平素から主に1人で当直を担い、眠気を催したときにその都度甲板員に当直を委ねて休息することとしていたのだから、甲板員を起こして当直を交代するなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、もう少しは当直を続けられるものと思い、甲板員を起こして当直を交代するなど居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、前路で錨泊している海幸丸に気付かないまま、これを避けずに進行して衝突を招き、大豊丸の右舷船首部外板に擦過傷を、海幸丸の左舷側中央部外板に破口及び同部舷縁の損壊をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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