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2000年(平成12年)

平成11年門審第138号
    件名
漁船第八幸徳丸漁船栄漁丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年8月22日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

佐和明、供田仁男、米原健一
    理事官
畑中美秀

    受審人
A 職名:第八幸徳丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:栄漁丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士(5トン限定)
    指定海難関係人

    損害
幸徳丸・・・船首部のペイント剥離
栄漁丸・・・左舷中央部外板に破口、機関室に浸水、のち修理費の都合で廃船、船長が胸背部に打撲傷

    原因
幸徳丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
栄漁丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第八幸徳丸が、見張り不十分で、漂泊中の栄漁丸を避けなかったことによって発生したが、栄漁丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年5月9日10時33分
長崎県壱岐島西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八幸徳丸 漁船栄漁丸
総トン数 5.1トン 4.27トン
全長 10.60メートル
登録長 11.92メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 323キロワット
漁船法馬力数 70
3 事実の経過
第八幸徳丸(以下「幸徳丸」という。)は、FRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、五島列島沖合において数日間の予定で引き縄漁に従事する目的で、船首0.36メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、平成11年5月9日09時50分長崎県壱岐島勝本港を発し、操業中に基地とする五島列島福江島荒川漁港に向かった。
ところで、幸徳丸は、操舵室が船体中央部船尾寄りに設けられており、同室内の床面から天井までの高さが約1.7メートルで、同室前面の窓ガラスは上下二段に設置されていた。そして、A受審人が操舵室内で立って前方の見張りに当たる場合、上段の窓ガラスを通しての見張りとなり、視界を妨げるものがなかったが、いすに腰を掛けて見張りに当たると、下段の窓を通しての見張りとなり、同窓より高い位置にある船首構造物に妨げられて船首方向左右おおよそ15度にわたり水平線を視認できない状況となった。

A受審人は、発航操船に引き続き操舵室において単独の船橋当直に就き、10時20分手長島灯台から288度(真方位、以下同じ。)1,000メートルの地点に達したとき、針路をほぼ福江島に向首する210度に定めて自動操舵とし、遅れて発航した僚船が追いつくのを待つため、機関を毎分1,500回転の半速力前進として12.0ノットの対地速力で進行した。
定針時A受審人は、立った状態で前方の安全を確かめたところ、右舷前方約1.5海里のところに漂泊している2隻の漁船を認めたものの、正船首方向2.6海里に存在した栄漁丸を認めることができないまま、前方には他船がいないものと思い、いすに腰掛けて1.5海里レンジとしたレーダー画面を2倍に拡大して0.75海里以内を表示させ、時折前方の安全を確認しながら続航した。
間もなくA受審人は、右舷前方にいた2隻の漁船を航過したとき、レーダーで前路に他船の映像を認めなかったことから、引き縄漁に使用する漁具の整備を思い立ち、いすに腰を掛けたまま作業を開始した。

10時29分半A受審人は、手長島灯台から225度2.1海里の地点に達したとき、正船首方向1,300メートルのところに、漂泊して一本釣りを行っている栄漁丸を視認でき、その後その方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近したが、漁具の整備に気を奪われ、立ち上がって前方の安全を確認したり、レーダーを監視したりするなど、前路の見張りを十分に行わず、栄漁丸の存在に気付かないで、これを避けることなく進行中、10時33分手長島灯台から221度2.8海里の地点において、幸徳丸は、原針路、原速力のまま、その船首が栄漁丸の左舷中央部にほぼ直角に衝突した。
当時、天候は晴で風はなく、視界は良好であった。
また、栄漁丸は、FRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、いさき一本釣り漁を行う目的で、船首0.40メートル船尾0.95メートルの喫水をもって、同日07時30分勝本港を発し、08時00分ごろから同港西方3海里ばかり沖合において約30分間操業を行ったものの、漁模様が悪く漁場を移動することとし、魚群探知器により探索しながらゆっくりとした速力で南下した。

10時20分B受審人は、衝突地点付近において魚群探知器に魚群を認め、機関を中立として船首を120度に向けた状態で漂泊し、操舵室すぐ後ろの船尾甲板上で一本釣りを開始した。
B受審人は、漂泊を開始したころ周囲を見回したものの、左舷正横2.6海里のところから来航する幸徳丸を認めることができないまま漁に夢中になり、その後周囲の見張りを十分に行わず、同時29分半、同船を左舷正横1,300メートルばかりのところに視認でき、その後衝突のおそれがある態勢のまま接近したが、このことに気付かなかった。
10時32分半B受審人は、幸徳丸が避航の気配を見せないまま左舷正横180メートルに接近したが、依然周囲の見張りを十分に行わず、このことに気付かないで、機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとらないまま、船首を120度に向けた状態で漂泊中、前示のとおり衝突した。

衝突の結果、幸徳丸は、船首部のペイントが剥離したのみであったが、栄漁丸は、左舷中央部外板に破口を生じて機関室に浸水し、のち修理費の都合で廃船とされ、また、B受審人が胸背部に打撲傷を負った。

(原因)
本件衝突は、長崎県壱岐島西方沖合を南下中の幸徳丸が、見張り不十分で、漂泊中の栄漁丸を避けなかったことによって発生したが、栄漁丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、単独で船橋当直に就いて長崎県壱岐島西方沖合を南下する場合、いすに腰掛けると船首構造物で前方の見張りが妨げられる状態であったから、前路で漂泊中の他船を見落とすことがないよう、時折立ち上がるなどして、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、いすに腰掛けたまま漁具の整備に気を奪われ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、漂泊して一本釣り中の栄漁丸に衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、自船船首部のペイントに剥離を、栄漁丸の左舷側中央部外板に破口をそれぞれ生じさせたほか、B受審人に胸背部打撲傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

B受審人は、長崎県壱岐島西方沖合において、漂泊して一本釣り漁を行う場合、衝突のおそれがある態勢で接近する他船を見落とすことがないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、漁に夢中となって周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する幸徳丸に気付かず、避航の気配を見せないまま間近に接近した同船との衝突を避けるための措置をとらないで衝突を招き、両船に前示のとおりの損傷を生じさせ、自らも胸背部打撲傷を負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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