日本財団 図書館




2000年(平成12年)

平成11年門審第129号
    件名
遊漁船第五盛幸丸漁船漁喜丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年8月17日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

西山烝一、供田仁男、相田尚武
    理事官
今泉豊光

    受審人
A 職名:第五盛幸丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:漁喜丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
盛幸丸・・・船首部船底外板に擦過傷
漁喜丸・・・操舵室を圧壊、船体中央部の舷側外板に破口、船長が20日間の入院加療を要する背部に打撲傷

    原因
盛幸丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
漁喜丸・・・注意喚起信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、第五盛幸丸が、見張り不十分で、形象物を表示しないまま錨泊中の漁喜丸を避けなかったことによって発生したが、漁喜丸が、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年7月10日05時30分
山口県特牛港西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 遊漁船第五盛幸丸 漁船漁喜丸
総トン数 6.1トン 1.5トン
全長 14.52メートル
登録長 7.55メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 235キロワット
漁船法馬力数 45
3 事実の経過
第五盛幸丸(以下「盛幸丸」という。)は、船体後部に操舵室を備えた旅客定員9人のFRP製小型遊漁兼用船で、A受審人が1人で乗り組み、平成11年7月10日03時00分山口県久津漁港を発し、同県粟野港に寄港して釣客6人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.3メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、同時30分同港を発航して見島周辺の釣り場に向かった。
A受審人は、俵島を替わったころから東寄りの風が強くなり、うねりも出てきたことから、04時15分川尻岬西北西方沖合4海里の地点で、釣り場を神田岬南西方沖合8海里の辺りに変更するため反転し、到着時刻を日出後にするよう、機関を4ノットの微速力前進にして南下し、海士ケ瀬南灯浮標を通過して、05時21分半特牛(こっとい)灯台から342.5度(真方位、以下同じ。)1.9海里の地点に達したとき、針路を同釣り場に向く211度に定め、機関を回転数毎分1,900にかけ、19.0ノットの対地速力に増速して手動操舵により進行した。

A受審人は、操舵室右舷側側壁に取り付けた折りたたみ式の座板に腰を掛けて見張りと操舵に当たり、05時26分特牛灯台から293度1.4海里の地点に達したとき、ほぼ正船首1.3海里のところに漁喜丸を視認することができる状況にあったものの、そのころ特牛港に向けて右舷方から近づく漁船を注視していて、漁喜丸の存在に気付かず、漁船の前路を航過したのち、同座板から降りて右手で舵輪を持ち、操舵室左舷側の棚に置いてある8冊のノートのうち、これから向かう釣り場の位置を記載してあるノートを探し始めた。
05時28分少し過ぎA受審人は、漁喜丸が正船首1,000メートルとなり、錨泊中を表示する形象物を掲げていなかったものの、やがて、錨索などから同船が錨泊中であり、同船に衝突のおそれがある態勢で向首接近しているのを認めることができる状況であったが、依然前示ノートを探すことに気を奪われ、前路の見張りを十分に行わなかったので、錨泊中の漁喜丸に接近していることに気付かず、同船を避けないまま続航中、05時30分特牛灯台から255度2.05海里の地点において、盛幸丸は、原針路、原速力のまま、その船首が漁喜丸の左舷側中央部に前方から81度の角度で衝突し、乗り切った。

当時、天候は晴で風力1の東南東風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、日出は05時11分であった。
また、漁喜丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、知人1人を乗せ、操業の目的で、船首・船尾とも0.2メートルの喫水をもって、同月9日18時20分同県室津下漁港を発し、特牛港西方沖合の漁場に向かった。
B受審人は、19時05分前示衝突地点付近に着き、機関を中立回転とし、約30キログラムの唐人型錨を船首から投じ、直径26ミリメートルの化学繊維製の錨索を70メートル延出して錨泊し、同時30分機関を回転数毎分800に上げて3個の集魚灯を点灯して、手釣りでいか釣り漁を開始した。
B受審人は、翌10日01時00分釣果がなかったので操業を打ち切って帰航することにし、錨索を巻き上げるのに使用するローラーを駆動させるため、一旦主機を停止し、ゴムベルトをローラー及び主機のベルト車に取り付けたのち、主機を始動させようと何回か試みたものの、始動しなかったことから、無線電話により近くの漁業無線局を呼び出して曳航を依頼し、05時ごろ曳航船が室津下漁港を出港したとの連絡を受け、所定の形象物を掲げないまま錨泊待機した。

05時25分B受審人は、同乗者とともに操舵室後方の甲板上で見張りに当たっていたところ、左舷正横方1.6海里のところに盛幸丸を初めて視認し、同時28分少し過ぎ前示衝突地点で、船首が風に立ち112度を向いていたとき、同船が左舷船首81度1,000メートルとなり、自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近してくるのを認めたが、自船が錨泊しているのに気付いて盛幸丸が避けてくれるものと思い、有効な音響による注意喚起信号を行うことなく、同船を見守っていたところ、同時29分盛幸丸が避航の気配を見せないまま600メートルに接近し、衝突の危険を感じて、操舵室前の機関室天井の上に立ち手を振りながら大声で叫んでいるうち、漁喜丸は、112度を向いて前示のとおり衝突した。
衝突の結果、盛幸丸は、船首部船底外板に擦過傷を生じ、漁喜丸は、操舵室を圧壊し、船体中央部の舷側外板に破口を生じたが、のち修理され、B受審人は、20日間の入院加療を要する背部に打撲傷などを負った。


(原因)
本件衝突は、山口県特牛港西方沖合において、釣り場に向け南下中の盛幸丸が、見張り不十分で、所定の形象物を表示しないまま前路で錨泊中の漁喜丸を避けなかったことによって発生したが、漁喜丸が、有効な音響による注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、山口県特牛港西方沖合を釣り場に向け南下する場合、前路で錨泊中の他船を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、釣り場の位置を記載してあるノートを探すことに気を奪われ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、所定の形象物を表示しないまま前路で錨泊中の漁喜丸に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、盛幸丸の船首部船底外板に擦過傷を、漁喜丸の船体中央部の舷側外板に破口及び操舵室の圧壊を生じさせ、B受審人の背部に打撲傷などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、山口県特牛港西方沖合で所定の形象物を表示しないまま錨泊中、盛幸丸が衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めた場合、有効な音響による注意喚起信号を行うべき注意義務があった。しかし、同人は、自船が錨泊しているのに気付いて盛幸丸が避けてくれるものと思い、有効な音響による注意喚起信号を行わなかった職務上の過失により、盛幸丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自らも負傷するに至った。

以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION