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2000年(平成12年)

平成12年門審第35号
    件名
貨物船第五山菱丸岸壁衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年8月16日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

供田仁男、西山烝一、相田尚武
    理事官
坂爪靖

    受審人
A 職名:第五山菱丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
山菱丸・・・船首外板に破口を伴う凹損
岸壁・・・破損

    原因
着岸時の行きあしの減殺不十分

    主文
本件岸壁衝突は、着岸時の行きあしの減殺が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年1月9日08時40分
関門港若松区
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第五山菱丸
総トン数 985トン
全長 72.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット
3 事実の経過
第五山菱丸(以下「山菱丸」という。)は、船尾船橋型の液体化学薬品ばら積船で、A受審人ほか6人が乗り組み、溶融硫黄約1,300トンをほぼ満載し、船首3.8メートル船尾5.0メートルの喫水をもって、平成11年1月7日14時20分岡山県水島港を発し、翌8日04時45分福岡県部埼の南方沖合に至り、待機のため錨泊したのち、翌9日06時40分抜錨し、関門港若松区第5区の焼結船だまりに向かった。
焼結船だまりは、関門航路から分岐した戸畑航路の西方に位置し、新日本製鐵株式会社戸畑工場の私設埠(ふ)頭東端部にあたり、東北東方を向いて凹形をした同東端部とその北東端から南東方に延びた防波堤とによって囲まれ、南西部に長さ140メートルの焼結岸壁、南東部に東方に開いた幅130メートルの入口をそれぞれ有し、同岸壁と入口との距離は250メートルであった。

A受審人は、関門航路を西行し、08時31分機関を4.0ノット(対地速力、以下同じ。)の極微速力前進にかけて戸畑航路に入り、間もなく9.4ノットの半速力前進に増速し、同時35分わずか前戸畑航路第1号灯浮標の170メートル西方を航過したころ、焼結岸壁に右舷錨を投下して左舷入船付けする予定で乗組員を入港部署に配し、自ら手動操舵に就いて1人で操船にあたり、機関を極微速力前進に戻して進行した。
A受審人は、08時36分半わずか前戸畑航路導灯(前灯)(以下「導灯」という。)から018度(真方位、以下同じ。)820メートルの地点において、焼結船だまり入口の300メートル手前に達して戸畑航路の西側境界線を横切り、速力が7.3ノットに逓減したとき、針路を同入口の中央部を通って焼結岸壁の北端に53度の角度をもって接近する284度に定めるとともに、機関を中立回転とし、その後は行きあしで針路を保ち、同時38分同入口を通過した。

08時38分半わずか過ぎA受審人は、導灯から353度880メートルの地点で、3.4ノットの行きあしをもったまま、船首部が焼結岸壁のほぼ中央部まで100メートルに接近したとき、平素の着岸時よりも強い行きあしがあることを認めたが、もう少し接近して微速力後進をかける代わりに全速力後進とすれば大丈夫と思い、直ちに機関を後進にかけて行きあしを十分に減殺することなく、右舷錨の投下を命じ、同時に左舵一杯をとり、左回頭しながら同岸壁への接近を続けた。
A受審人は、08時39分半わずか前船首部と焼結岸壁との距離が40メートルとなったところで、機関を全速力後進にかけ、同時39分半わずか過ぎ同距離が20メートルとなったものの、行きあしが残っていることに危険を感じ、錨鎖の延出を止めるよう指示したが効なく、08時40分導灯から343度900メートルの地点において、山菱丸は、247度を向首し、1.0ノットの前進行きあしをもって、焼結岸壁のほぼ中央部にその船首が直角に衝突した。

当時、天候は雪で風力5の北西風が吹き、潮候は低潮時であった。
その結果、山菱丸は船首外板に破口を伴う凹損を生じ、焼結岸壁が破損した。


(原因)
本件岸壁衝突は、関門港若松区において、焼結岸壁に着岸する際、行きあしの減殺が不十分で、強い行きあしのまま同岸壁に接近したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、関門港若松区において、着岸する予定の焼結岸壁に接近中、平素の着岸時よりも強い行きあしがあることを認めた場合、直ちに機関を後進にかけて行きあしを十分に減殺すべき注意義務があった。しかし、同人は、もう少し接近して微速力後進をかける代わりに全速力後進とすれば大丈夫と思い、直ちに機関を後進にかけて行きあしを十分に減殺しなかった職務上の過失により、強い行きあしのまま接近を続けて焼結岸壁への衝突を招き、船首外板に破口を伴う凹損を生じさせ、焼結岸壁を破損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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