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2000年(平成12年)

平成12年門審第3号
    件名
貨物船常豊丸漁船正弘丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年8月2日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

原清澄、佐和明、米原健一
    理事官
千手末年

    受審人
A 職名:常豊丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
C 職名:正弘丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
常豊丸・・・右舷側中央部ハンドレールなどを損傷
正弘丸・・・球状船首を圧壊するなどの損傷

    原因
常豊丸・・・動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守
正弘丸・・・法定灯火不表示、見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守

    主文
本件衝突は、常豊丸が、動静監視不十分で、トロールにより漁ろうに従事していることを示す灯火を表示したまま航行中の正弘丸との衝突を避けるための措置をとらなかったことと、正弘丸が、法定灯火を表示しなかったばかりか、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年6月17日04時00分
大分県杵築湾東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船常豊丸 漁船正弘丸
総トン数 497.21トン 4.99トン
全長 67.31メートル
登録長 9.97メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット
漁船法馬力数 15
3 事実の経過
常豊丸は、日本各地の製鉄所から山口県徳山下松港へセメントの原料となる鉄鋼スラグなどを専門に輸送する船尾船橋型の貨物船で、A受審人、B内指定海難関係人ほか5人が乗り組み、鉄鋼スラグ1,409トンを積載し、船首3.60メートル船尾4.47メートルの喫水をもって、平成11年6月17日02時53分大分県大分港津留泊地を発し、航行中の動力船が表示する法定灯火を点灯して徳山下松港に向かった。
ところで、A受審人は、船橋当直を同人、一等航海士及びB指定海難関係人の3人が単独で行うことを原則とし、大分港と徳山下松港間を航海する場合のように航海時間が5時間ないし6時間と短いときには、その全航程を一等航海士とB指定海難関係人の2人のうち1人に船橋当直を、他の1人に荷役当直をそれぞれ担当させ、A受審人が往航時ないし復航時の船橋当直と入出港操船とを行っていた。

A受審人は、出港操船に引き続き船橋当直に立ち、02時59分大分港乙津西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から251度(真方位、以下同じ。)1.9海里の地点に達したとき、針路を038度に定め、機関を9.0ノットの全速力前進にかけて自動操舵で進行した。
03時10分A受審人は、西防波堤灯台から312度1.0海里の地点に達したとき、船橋当直をB指定海難関係人と交替することにしたが、同人には乗船経歴が30年以上あり、船橋当直の経験が豊富であったうえ、視界も良かったところから、今更、見張りなどの船橋当直業務についての指示をするまでもあるまいと思い、臼石鼻の沖合に10隻ばかりの錨泊船がいたところから、これらとの航過距離を十分にとることだけを考え、同鼻を2海里ばかり離すように指示しただけで、他船を視認したときには動静監視を十分に行い、自船に接近する状況となれば報告するようになどの指示をすることなく、同人に当直を委ねて降橋した。

B指定海難関係人は、引き継いだ針路、速力を保って続航し、03時26分少し過ぎ西防波堤灯台から015.5度2.7海里の地点に達し、ほぼ右舷正横1,230メートルに別府航路第3号灯浮標を認めたとき、臼石鼻を2海里ばかり離して航過できるよう針路を2度左に転じて進行した。
03時56分少し過ぎB指定海難関係人は、臼石鼻灯台から140度1.9海里の地点に達したとき、右舷船首36度1,600メートルのところに、操舵室上部のマストにトロールにより漁ろうに従事していることを示す緑、白2灯及び左舷灯並びに同室後部甲板上に100ワットの作業灯5個を点灯した正弘丸を初認し、同船の周辺で操業中の他の漁船と何となく様子が違うと思ったが、同船は操業しているか、魚群を探索しているので速力も出していないだろうし、接近すれば自船の後方を替わして行くものと思い、念のため針路を5度左に転じたのち、同船から目を離し、引き続き同船の動静監視を行わずに船首方の見張りのみを行い、その後、正弘丸が衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かないまま続航した。

03時59分少し前B指定海難関係人は、舵輪の左方に設置された1.5海里レンジとしたレーダー画面をふと見たとき、右舷船首41度520メートルのところまで接近した正弘丸のレーダー映像を認め、500ワットの探照灯を点灯して同船を照射したものの、避航の気配が認められないまま、なおも接近するので、操舵を手動に切り替えて左舵一杯としたが、効なく、04時00分臼石鼻灯台から123度1.8海里の地点において、原針路、原速力のまま、常豊丸の右舷中央部に、正弘丸の船首が前方から82度の角度をもって衝突した。
当時、天候は晴で風力2の南東風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、視界は良好であった。
また、正弘丸は、小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人が1人で乗り組み、主としてくるまえびを獲る目的で、船首0.10メートル船尾1.70メートルの喫水をもって、同月16日17時00分大分県美濃崎漁港を発し、同漁港南東方沖合の漁場に向かい、翌17日03時24分ごろ雑魚約20キログラムを獲て操業を終え、臼石鼻灯台から118度4.9海里ばかりの漁場を発し、船首を美濃崎漁港付近に向けて帰途に就いた。

ところで、C受審人は、発進後、網の引き綱を短くして船尾から海中に入れ、機関を9.0ノットの全速力前進にかけ、速力がほぼ4.5ノットとなって網洗いをしながら航行し、03時43分ごろ網洗いを終えたので、漂泊しながら甲板上に収納したのち、同時49分臼石鼻灯台から118度3.5海里の地点において、再び機関を全速力前進にかけ、針路をほぼ美濃崎漁港に向首する293度に定めて自動操舵とし、航行中の動力船が表示する法定灯火を表示せず、トロールにより漁ろうに従事していることを示す灯火を点灯したまま進行した。
定針時、C受審人は、周囲を一瞥(べつ)したところ、大分市から鶴崎方面にかけての街の明かりが明るかったので、その明かりに紛れた常豊丸の灯火を見落とし、周囲に他船はいないものと思い、入港前に漁獲物の選別を終えておくことにし、後部甲板の左舷側で右舷方を向き、腰を下ろして選別作業にかかり、前方と左舷方の見張りをおろそかにしたまま続航した。

03時56分少し過ぎC受審人は、臼石鼻灯台から120.5度2.4海里の地点に達したとき、左舷船首41度1,600メートルのところに、常豊丸の白、白、緑3灯を視認することができ、その後、同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、依然として漁獲物の選別作業に専念していて、このことに気付かないまま進行し、同時59分少し前常豊丸が同方位520メートルのところまで接近し、同船が探照灯で自船を照射していることにも気付かず、衝突を避けるための措置をとることなく続航中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、常豊丸は、右舷側中央部ハンドレールなどを損傷し、正弘丸は、球状船首を圧壊するなどの損傷を生じたが、のちいずれも修理された。


(原因)
本件衝突は、夜間、大分県杵築湾東方沖合において、常豊丸が、動静監視不十分で、トロールにより漁ろうに従事していることを示す灯火を表示したまま航行中の正弘丸との衝突を避けるための措置をとらなかったことと、正弘丸が、法定灯火を表示しなかったばかりか、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
常豊丸の運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対して、他船の動静監視及びその接近時の報告についての指示を十分に行わなかったことと、船橋当直者が、動静監視を十分に行わなかったこととによるものである。


(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、大分県大分港を出港後、無資格者に単独の船橋当直を行わせる場合、必要に応じて自ら操船の指揮がとれるよう、他船を視認したときには動静監視を十分に行い、自船に接近する状況となれば、その旨を速やかに報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、船橋当直者が30年以上の乗船経歴があり、船橋当直の経験が豊富であったうえ、視界も良かったところから、今更、他船を視認したときには動静監視を十分に行い、自船に接近する状況となれば報告するようになどの指示をするまでもないものと思い、錨泊船を十分離して航行するように指示しただけで、他船を視認したときには動静監視を十分に行い、自船に接近する状況となれば、その旨を速やかに報告するよう指示しなかった職務上の過失により、自船に向首接近する正弘丸がいる旨の報告が得られず、自ら昇橋して操船の指揮がとれないまま進行して同船との衝突を招き、常豊丸の右舷側中央部ハンドレールに曲損などを生じ、正弘丸に球状船首圧壊などの損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、夜間、大分県杵築湾東方沖合の漁場において、操業を終えて帰港する場合、北上する常豊丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、漁場発進時に周囲を一瞥したところ、常豊丸の灯火を認めなかったところから、周囲に他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、後部甲板で座って漁獲物の選別作業に専念し、衝突のおそれがある態勢で接近する常豊丸に気付かず、衝突を避けるための措置をとることなく進行して同船との衝突を招き、前示損傷を生じさせるに至った。

以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、単独の船橋当直にあたって航行中、緑、白、紅3灯を点灯した正弘丸を視認した際、引き続き同船の動静監視を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、同人が本件以後、船橋当直の職務を執っていない点に徴し、勧告するまでもない。


よって主文のとおり裁決する。

参考図(1)

参考図(2)






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