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2000年(平成12年)

平成11年広審第99号
    件名
貨物船第七有徳丸漁船正巧丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年8月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

工藤民雄、竹内伸二、中谷啓二
    理事官
前久保勝己

    受審人
A 職名:第七有徳丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:正巧丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士(5トン限定)
    指定海難関係人

    損害
有徳丸・・・右舷船首部に擦過傷
正巧丸・・・右舷船首部を破損

    原因
有徳丸・・・見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
正巧丸・・・動静監視不十分、警告信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、第七有徳丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事している正巧丸の進路を避けなかったことによって発生したが、正巧丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年12月1日20時45分
播磨灘西部
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第七有徳丸 漁船正巧丸
総トン数 199トン 4.9トン
全長 58.46メートル
登録長 11.22メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 625キロワット
漁船法馬力数 15
3 事実の経過
第七有徳丸(以下「有徳丸」という。)は、鋼材などの輸送に従事する船尾船橋型の貨物船で、A受審人及び機関長の2人が乗り組み、屑鉄600トンを載せ、船首2.6メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成10年11月30日18時30分静岡県清水港を発し、岡山県水島港に向かった。
A受審人は、発航後、船橋当直を機関長と4時間交替で交互に行い、翌12月1日17時ごろ紀伊半島日ノ御埼沖合において機関長から引き継いで単独の当直に就き、大鳴門橋を通過して播磨灘を西行し、20時15分大角鼻灯台から141度(真方位、以下同じ。)7.2海里の地点に達したとき、針路を290度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.5ノットの対地速力で、航行中の動力船の灯火を表示して自動操舵により進行した。

その後、A受審人は、しばらくして3海里レンジで作動中のレーダーを見たものの、右舷前方の明るい灯火を点灯して操業中の漁船のほか映像が見当たらなかったことから、この漁船のみに留意しながら操舵室中央の舵輪後方でいすに腰をかけ見張りに当たって続航した。
20時41分半A受審人は、大角鼻灯台から177度4.0海里の地点に達したとき、ほぼ船首方向1,200メートルのところに、トロールにより漁ろうに従事している正巧丸の連携する緑、白2灯及び緑、紅2灯のほか数個の作業灯を視認することができる状況で、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが、前路に支障となる他船はいないものと思い、右舷前方の前示明るい灯火を点灯して操業中の漁船の方位があまり変わらずに接近することから、その動静を監視することに専念し、船首方向の見張りを十分に行っていなかったので、接近する正巧丸に気付かず、その進路を避けることなく進行した。

20時45分少し前、A受審人は、ふと前方に目を移したとき船首近距離に迫った正巧丸の緑、白2灯を初めて認め、衝突の危険を感じ、急いで舵を手動操舵に切り替えて左舵一杯をとったが及ばず、20時45分大角鼻灯台から185度3.8海里の地点において、有徳丸は、287度を向いたとき、ほぼ原速力のまま、その船首が、正巧丸の右舷船首部に平行に衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候はほぼ高潮時にあたり、衝突地点付近には微弱な東流があった。
また、正巧丸は、小型機船底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、同日11時00分香川県志度港を発し、小豆島大角鼻南方沖合の漁場に向かった。
B受審人は、11時40分ごろ漁場に至り、その後東西に移動しながら曳網を繰り返し、やがて日没となったとき両色灯、船尾灯のほか、前部マストにトロールにより漁ろうに従事していることを示す緑、白の全周灯を連携して操業を続けた。

ところで、正巧丸の漁法は、長さ約20メートルの底びき網に2本の引き索を連結して船尾から投入し、同索を約250メートル繰り出し低速で曳網して主にかれいなどの底魚を獲るものであったが、曳網中の舵効きをよくするため、同索を船尾ブームの甲板上約2メートルのところに取り付けられた滑車を経由して操舵室後方甲板上のドラムに導くようにしており、網を揚げるときにはあらかじめ同索を船尾甲板に下ろしてから揚網作業に取り掛かる必要があった。
18時30分B受審人は、大角鼻灯台から210度3.8海里の地点において5回目の操業のため投網し、機関を回転数毎分1,200にかけ、1.7ノットの曳網速力で西北西方向に向け進行したのち、19時00分同灯台から221度4.1海里の地点で反転し、針路を107度に定めて自動操舵によって続航するうち、20時15分ごろから魚網にごみなどが入ったためか、0.7ノットの対地速力となって進行した。

B受審人は、操舵室内の右舷側でいすに腰をかけ、左舷船尾寄りにあるGPSプロッターを見ながら見張りに当たっていたところ、20時41分半大角鼻灯台から186度3.8海里の地点に達したとき、右舷船首3度1,200メートルのところに、西行中の有徳丸の表示する白、白、緑、紅4灯を初めて視認したが、漁ろうに従事していることを示す灯火を表示して操業しているので接近すればいずれ避けるものと思い、引き続き同船に対する動静監視を続けることなく、そろそろ揚網を始めるころとなったので、甲板上の100ワットの傘付きの作業灯4個を点灯して船尾に移動し、引き索を船尾ブームから甲板上に下ろす作業に取り掛かった。
その後、B受審人は、有徳丸の方位が変わらず衝突のおそれがある態勢となって、20時44分少し前同船が避航動作をとらないまま500メートルに接近したが、依然引き索を船尾甲板上に下ろす作業を続けていて、このことに気付かず、警告信号を行わないで続航中、20時44分半同作業を終え、操舵室に戻って間もなく近距離に迫った有徳丸を認め、衝突の危険を感じ、舵を手動操舵に切り替えて左舵一杯をとったが及ばず、正巧丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。

衝突の結果、有徳丸は、右舷船首部に擦過傷を生じたのみであったが、正巧丸は、右舷船首部を破損し、のち修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、播磨灘西部において、有徳丸が、見張り不十分で、トロールにより漁ろうに従事している正巧丸の進路を避けなかったことによって発生したが、正巧丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、単独で船橋当直に就いて播磨灘西部を備讃瀬戸東航路に向け西行する場合、トロールにより漁ろうに従事している正巧丸を見落とすことのないよう、船首方向の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船首方向に支障となる他船はいないものと思い、右舷前方の明るい灯火を点灯して操業中の漁船の動静を監視することに専念し、船首方向の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路でトロールにより漁ろうに従事している正巧丸に気付かず、同船の進路を避けることなく進行して正巧丸との衝突を招き、有徳丸の右舷船首部に擦過傷を生じさせ、また正巧丸の右舷船首部を破損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

B受審人は、夜間、播磨灘西部においてトロールによる漁ろうに従事中、船首方に西行する有徳丸の白、白、緑、紅4灯を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、漁ろうに従事していることを示す灯火を表示して操業しているので接近すればいずれ避けるものと思い、船尾甲板に移動して引き索を船尾ブームから同甲板上に下ろす作業にあたり、有徳丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行うことなく進行して有徳丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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