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2000年(平成12年)

平成11年広審第113号
    件名
貨物船菱川丸漁船清栄丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年8月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

竹内伸二、工藤民雄、横須賀勇一
    理事官
道前洋志

    受審人
A 職名:菱川丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
D 職名:清栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
菱川丸・・・船首部及び左舷側外板に擦過傷
清栄丸・・・左舷側中央部外板に亀裂、機関室に浸水、船長とその妻が打撲傷

    原因
菱川丸・・・見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
清栄丸・・・動静監視不十分、警告信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、菱川丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事している清栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、清栄丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Dを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年8月5日11時16分
瀬戸内海伊予灘北部
2 船舶の要目
船種船名 貨物船菱川丸 漁船清栄丸
総トン数 1,441トン 4.92トン
全長 90.71メートル
登録長 10.87メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,427キロワット
漁船法馬力数 15
3 事実の経過
菱川丸は、水砕スラッグの輸送に従事する船尾船橋型の貨物船で、A受審人及びB、C両指定海難関係人ほか8人が乗り組み、空倉のまま船首1.82メートル船尾4.42メートルの喫水をもって、平成10年8月5日05時00分福岡県苅田港を発し、岡山県水島港に向かった。
A受審人は、船橋当直を4時間交替の3直制とし、毎0時から4時までは甲板手2人とともに自らが当直にあたり、毎4時から8時まで一等航海士と甲板手1人、毎8時から12時までB指定海難関係人と甲板手1人をそれぞれ当直に従事させ、毎8時から12時の当直については一級小型船舶操縦士の海技免状を有するB指定海難関係人を当直責任者として当直業務にあたらせ、相当直のC指定海難関係人が同人を補佐していた。

A受審人は、出航操船を指揮したのち、06時ごろ宇部港沖合で一等航海士と甲板手に船橋当直を命じ、その後前述の当直体制にしたがって瀬戸内海を東行した。
ところで、菱川丸の船首楼甲板と貨物倉との間に幅約11メートルのコンベア揚荷装置が設置されていたため、操舵室中央から船首方向を見たとき、正船首方向の左右各舷約6度にわたって死角が生じ、船橋当直者は、操舵室から左右ウイングに出るとかレーダーを活用するなどして正船首方向の死角を補う見張りを行うことが必要な状態にあった。
A受審人は、平素、船橋当直者に対し、前示揚荷装置のため船首方向の見通しが悪いので、注意して見張りを行うよう告げていたものの、具体的な指示をしなくても船橋当直者が適宜死角を補う見張りをすると思い、船首方向から接近する他船を見落とさないよう、左右ウイングに出て見張りにあたるとか、レーダーを活用するなど死角を補う見張りについての指示を十分徹底していなかった。

07時35分ごろB、C両指定海難関係人は、伊予灘航路第1号灯浮標付近で昇橋し、前直の一等航海士と甲板手から船橋当直を引き継ぎ、海図記載の推薦航路線にほぼ沿って伊予灘を東行した。
10時55分B指定海難関係人は、由利島灯台から135度(真方位、以下同じ。)1.2海里の地点に達したとき、針路を043度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ12.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
そのころB指定海難関係人は、前路に認めた数隻の操業中の漁船のほか、右舷前方及び右舷正横付近を同航中の貨物船に留意し、レーダーを3海里レンジとして使用していたものの、物標などの航過距離を確かめるのみで見張りにレーダーを活用しないまま、C指定海難関係人が中央から左舷側、自らは中央から右舷側の船橋内前部でそれぞれ見張りにあたった。

11時09分半B指定海難関係人は、正船首方向1.5海里にトロールにより漁ろうに従事中の清栄丸を認め得る状況となり、その後同船と衝突のおそれのある態勢となって接近したが、左右ウイングに出て見張りにあたるとか使用中のレーダーを活用するなどして船首方向の死角を補う見張りを十分行うことなく、正船首方向から自船に向首して来航中の同船に気付かないで続航した。
11時11分ごろB指定海難関係人は、船橋内右舷寄りのところに立って当直中、管理会社から同人への電話があり、船橋内後部のやや右舷側の場所で、前路を見ながら船舶電話の連絡にあたったが、前示揚荷装置のため正船首方向を見通すことができない状況であった。
一方、C指定海難関係人は、操舵室内左舷寄りのところで見張りに従事中、11時13分伊予灘航路第9号灯浮標を左舷側約300メートルに航過したのを見て同灯浮標通過時刻を使用海図に記入し、その後当直交替の準備のため操舵室内の灰皿を掃除するなどの雑務にかかった。

11時14分B指定海難関係人は、通話を終えて船橋内前部に戻り、そのとき清栄丸が正船首940メートルのところに接近していたが、依然船首方向の見張りが不十分で、同船に気付かず、その進路を避けないで進行中、11時16分釣島灯台から250度1.8海里の地点において、右舷船首方から近づく漁船を双眼鏡で監視していたとき突然衝撃を感じ、菱川丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首が、清栄丸の左舷船首にほぼ平行に衝突した。
当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期にあたり、付近には0.5ノットの南西流があった。
B指定海難関係人は、直ちに左舷側ウイングに赴いて舷側を擦過する清栄丸を認め、同船と衝突したことを知ってA受審人に報告し、昇橋した同人が事後の措置にあたった。
また、清栄丸は、底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、D受審人が妻と2人で乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、同日06時45分愛媛県松山港を発し、伊予灘北部の漁場に向かった。

07時10分ごろD受審人は、釣島南西方2.3海里の地点に至り、トロールにより漁ろうに従事している船舶が表示する法定形象物を船尾に掲げて操業を開始し、10時00分ごろ由利島南方2海里の地点で1回目のえい網を終え、えびなど約10キログラムの漁獲物を網から取り出したのち潮上りのため北東方に航行し、同時50分釣島灯台から276度1.1海里の地点で2回目の投網を行い、針路を223度に定めて自動操舵とし、機関を回転数毎分2,300の前進にかけ、長さ330メートルのえい網索で60メートルの底引き網を引き、折からの潮流に乗じて2.1ノットの速力で、海図記載の推薦航路線の300メートルばかり南東側を同航路線に沿って進行した。
そのころD受審人は、船首方向約6海里に反航船2隻とともに菱川丸を初認したが、まだ距離が遠かったのでこれらに留意しないまま、妻に操舵室前で漁獲物の選別作業を行わせ、自らは操舵室後方に赴いて甲板の水洗いをしたあとガスコンロで湯を沸かすなど昼食の準備にかかった。

11時09分半D受審人は、正船首1.5海里に菱川丸を視認し得る状況となり、その後同船と衝突のおそれのある態勢となって接近したが、いずれ操業中の自船を避けるものと思い、衝突のおそれの有無を判断できるよう、菱川丸に対する動静監視を十分行うことなく、操舵室後方で昼食の準備にあたった。
11時15分D受審人は、衝突のおそれのある態勢で接近する同船が避航動作をとらないまま450メートルに近づいたが、依然動静監視が不十分でこのことに気付かず、備え付けのモーターホーンを使用して警告信号を行わないで続航中、同時16分わずか前ふと前方を見たとき至近に迫った菱川丸を認めたがどうすることもできず、清栄丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、菱川丸は船首部及び左舷側外板に擦過傷を生じ、清栄丸は左舷側中央部外板に亀裂が生じて機関室に浸水し、付近で操業中の僚船に救助されたが、のちいずれも修理され、またD受審人とその妻が打撲傷などを負った。


(原因)
本件衝突は、伊予灘北部において、菱川丸が、船首方に死角を生じた状態で航行中、見張り不十分で、トロールにより漁ろうに従事している清栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、清栄丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
菱川丸の運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対し、死角を補う見張りについての指示を十分徹底しなかったことと、船橋当直者が、死角を補う見張りを十分行わなかったこととによるものである。


(受審人等の所為)
A受審人は、船首部の揚荷装置によって生じる死角のため、船首方向の見通しが困難な状況下で航行する場合、船橋当直者が船首方向から接近する他船を見落とさないよう、左右ウイングに出て見張りにあたるとかレーダーを活用するなど死角を補う見張りについての指示を徹底すべき注意義務があった。しかるに、同人は、具体的な指示をしなくても船橋当直者が適宜死角を補う見張りを行うものと思い、死角を補う見張りについての指示を徹底しなかった職務上の過失により、船橋当直者が死角を補う見張りを十分行わないで清栄丸との衝突を招き、菱川丸の船首部及び左舷側外板に擦過傷を、清栄丸の左舷側中央部外板に亀裂をそれぞれ生じさせ、同船の乗組員に打撲傷などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

D受審人は、伊予灘北部において、トロールにより漁ろうに従事してえい網中、船首方向から来航する菱川丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるようその動静を十分監視すべき注意義務があった。しかるに、同人は、同船が操業中の自船を避けるものと思い、操舵室後方で食事の準備にあたり、菱川丸の動静を十分監視しなかった職務上の過失により、同船が衝突のおそれのある態勢で接近することに気付かず、避航動作をとらないまま間近に接近しても、警告信号を行わないで同船との衝突を招き、両船に前述の損傷を生じさせるとともに、妻と自らが打撲傷などを負うに至った。
以上のD受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、船橋当直中、船首方向の死角を補う見張りを十分行わなかったことは、本件発生の原因となる。

B指定海難関係人に対しては、見張りが不十分であったことを深く反省している点に徴し、勧告しない。
C指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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