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2000年(平成12年)

平成11年広審第130号
    件名
貨物船新日硫丸漁船蛭子丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年8月22日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

横須賀勇一、釜谷奬一、工藤民雄
    理事官
岩渕三穂

    受審人
A 職名:新日硫丸一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:蛭子丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士(5トン限定) 
    指定海難関係人

    損害
新日硫丸・・・左舷船首部外板に擦過傷
蛭子丸・・・・左舷後方ブルワークの欠損、櫓の倒壊及びネットローラーの破損等、船長が鎖骨骨折により3箇月間の加療を要する負傷

    原因
新日硫丸・・・見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
蛭子丸・・・・見張り不十分、各種船間の航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、新日硫丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事する蛭子丸の進路を避けなかったことによって発生したが、蛭子丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年7月20日17時30分
瀬戸内海 安芸灘
2 船舶の要目
船種船名 貨物船新日硫丸 漁船蛭子丸
総トン数 179トン 4.9トン
全長 41.75メートル
登録長 11.93メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 404キロワット
漁船法馬力数 15
3 事実の経過
新日硫丸は、大分県大分港を積地として瀬戸内海各港へ二硫化炭素の運搬に従事する船尾船橋型の鋼製ケミカルタンカーで、船長C、A受審人ほか1人が乗り組み、二硫化炭素100トンを載せ、船首2.2メートル船尾3.3メートルの喫水をもって、平成11年7月20日10時00分大分港を発し、岡山県水島港に向かった。
ところで、C船長は、前日、前前日は乗組員に十分休息をとらせ、航海当直については自らと機関長及びA受審人による単独2時間交替制とし、出入港、狭水道通航、狭視界航行時は自ら昇橋して操船に当たり、日頃から当直者には不安を感じたら報告するよう指導するなど適正な当直維持に努めていた。

こうして、新日硫丸は、伊予灘を東行し、A受審人は、16時ごろ釣島水道の西口で機関長と船橋当直を交代して同水道を航過し、16時52分波妻ノ鼻灯台から002度(真方位、以下同じ。)0.6海里の地点に達したとき、針路を来島海峡西口に向かう041度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、9.8ノットの対地速力で進行した。
17時17分A受審人は、来島梶取鼻灯台から226度4.9海里の地点に達したとき、船首方向3海里付近に数隻の漁船を認めたが、格別、気に止めずに、まだ、距離も遠く接近するまでには間があったので、舵輪後方に置いた背当てと肘当てを取り外した椅子に腰掛け、操縦台に両肘を立てて両手で頭を抱え下を向いた姿勢で家族との夏休みの過ごし方を考えながら続航した。
17時24分A受審人は、来島梶取鼻灯台から228度3.8海里の地点に達したとき、右舷船首4度1.0海里のところに漁ろうに従事している蛭子丸の船体を視認し得る状況となり、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近することを認め得る状況となったが、下を向いたまま考え事にふけり、見張りを十分に行うことなく進行した。

17時27分A受審人は、蛭子丸が船首方1,000メートルに接近したが、依然、見張り不十分で、同船に気付かず、同船の進路を避けずに続航中、同時30分少し前ふと前方を見たところ、左舷船首至近に蛭子丸の船体を認め、慌てて、椅子から降り、手動操舵に切り替えて右舵を取ったが効なく、17時30分来島梶取鼻灯台から230度2.8海里の地点において、新日硫丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首部が蛭子丸の左舷船尾部に前方から28度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力1の北東風が吹き、視界は良好で、潮候は下げ潮の中央期で、衝突地点付近には微弱な南西流があった。
また、蛭子丸は、汽笛を装備しない小型機船底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が単独で乗り組み、船首0.1メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、操業の目的で、同日05時愛媛県今治港内の係留地を発し、来島梶取鼻灯台沖合の漁場に向かった。

ところで、蛭子丸の底引き網漁は、袋網に接続する袖網の両端をビームで広げ、その両端に取り付けたワイヤーロープ(以下、「引き綱」という。)2本を蛭子丸船尾端両舷からそれぞれ延出して船尾端から全長300メートルとし、船舶の輻輳する安芸灘南航路の推薦航路線を斜めに横切り東西方向の潮流に乗じて約2ノットの速力で往復し、2時間ほどえい網したのち揚網し、魚を取り込むという操業を繰り返すものであった。
こうして、B受審人は、06時30分来島梶取鼻灯台の南西方約1.5海里の漁場に至り、トロールによる漁ろう中であることを示す形象物を船橋上部のマストに掲揚して、最初の投網を開始し、操業を繰り返し魚の取り込みを終えたのち、17時00分来島梶取鼻灯台から223度2.1海里の地点に達したとき、針路を小安居島に向く249度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、1.5ノットの対地速力でえい網を開始した。

17時24分B受審人は、来島梶取鼻灯台から229度2.6海里の地点に達したとき、左舷船首24度1.0海里のところに新日硫丸の船体を認め得る状況となり、その後同船が衝突のおそれのある態勢で接近したが、えい網開始時、周囲を一瞥して支障となる他船がいなかったことから、船首甲板上で揚げたばかりの魚の選別作業に専念し、見張りを十分に行うことなく、同船に気付かずに続航した。
17時27分B受審人は、新日硫丸が同方位1,000メートルとなったが、依然同船に気付かず、同時28分更に間近に接近するも機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく進行中、同時30分少し前左舷船首至近に新日硫丸の左舷側を初めて視認し、衝突の危険を感じ、船橋後方へ逃げたが、蛭子丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、新日硫丸は左舷船首部外板に擦過傷を生じたのみであったが、蛭子丸は左舷後方ブルワークの欠損、櫓の倒壊及びネットローラーの破損等を生じたほか引き綱が切断し、B受審人は鎖骨骨折により3箇月間の加療を要する負傷をした。


(原因)
本件衝突は、安芸灘北東海域において、新日硫丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事する蛭子丸の進路を避けなかったことによって発生したが、蛭子丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、単独で船橋当直に就き、安芸灘北東海域を来島海峡に向け航行する場合、漁ろうに従事している蛭子丸を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、椅子に腰掛け下を向いて考え事にふけり、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、蛭子丸に気付かず、同船の進路を避けることなく進行して同船との衝突を招き、新日硫丸の左舷船首部外板に擦過傷を、蛭子丸の左舷後方ブルワークに欠損、櫓の倒壊及びネットローラーに破損等をそれぞれ生じさせ、B受審人に鎖骨骨折により3箇月間の加療を要する負傷をさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、船舶の輻輳する安芸灘南航路推薦航路付近において漁ろうに従事する場合、北東進中の新日硫丸を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、周囲を一瞥して支障となる他船がいなかったことから、船首甲板上で揚げたばかりの魚の選別作業に専念し、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、左方から接近する新日硫丸に気付かず、衝突を避けるための協力動作をとることなく進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせたほか自身も負傷するに至った。

以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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