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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年11月30日11時40分 瀬戸内海伊予灘北部 沖家室島沖合 2 船舶の要目
3 事実の経過 大福丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.1メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、平成10年11月30日05時50分松山港三津の船だまりを発し、沖家室島沖合の漁場に向かった。 06時40分ごろA受審人は、漁場に到着し、間もなく沖家室島長瀬灯標(以下「長瀬灯標」という。)の東北東方約1,500メートルの地点において、魚群探知器に魚影を認め、多数の枝針と重りを付けた長さ約100メートルの幹糸を投入してアジの一本釣り漁を開始した。 同船における一本釣りは、機関を回転数毎分500ばかりの前進にかけてクラッチを少し滑らせながら対水速力を約1ノットとし、魚群探知器で魚影を見ながら仕掛けを引いて航行する引き釣りを行い、潮流に乗じて移動しては、魚影が薄くなると仕掛けを揚げ、潮上りをして元の位置に戻り、再び仕掛けを投入することを繰り返すものであった。 11時37分少し前A受審人は、長瀬灯標から193度(真方位、以下同じ。)1,850メートルの地点で、仕掛けを上げて潮上りをすることとし、針路を045度に定め、機関を回転数毎分1,000の前進にかけ、操舵室後方に立って遠隔操舵装置により操舵にあたり、折からの南西流に抗して8.5ノットの対地速力で進行した。
間もなくA受審人は、甲板上の桶に刺して止めた枝針が数本外れているのを認め、このまま仕掛けを投入すると釣糸がもつれることになるので、外れた針を元に戻すこととし、前路をいちべつしてしばらくそのまま潮上りを続けても大丈夫と思い、舵を中央としたまま腰を屈めて下を向き、桶から外れた枝針を元に戻して仕掛けの投入準備を始めた。 A受審人は、風や潮の影響で少し蛇行しながら漁船群の間を続航中、11時39分右舷船首6度300メートルのところに北西方に向首しほぼ漂流状態となって一本釣りを行っている宮地丸を認めることができ、その後衝突のおそれのある態勢で接近したが、依然仕掛けの投入準備に気を奪われて前路の見張りを行わなかったので、同船に気付かず、右転するなど同船を避けることなく進行中、11時40分わずか前枝針を戻す作業を終えて立ち上がったとき、正船首方至近に宮地丸を初認し、驚いて機関を全速力後進にかけたが及ばず、11時40分長瀬灯標から172度1,200メートルの地点において、大福丸は、原針路のまま、約7ノットの対地速力で、その船首が宮地丸の左舷側中央部に直角に衝突した。 当時、天候は曇で、風力1の北東風が吹き、潮候はほぼ低潮時にあたり、付近には約1.5ノットの南西流があった。 また、宮地丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首尾とも0.2メートルの喫水をもって、同日07時00分山口県大島郡東和町佐連を発し、沖家室島沖合の漁場に向かった。 B受審人は、07時15分ごろ漁場に到着し、魚群探知器で魚影を確かめたのち、長さ約80メートルの幹糸に多数の枝針と重さ約5キログラムの重りを付けた仕掛けを右舷船尾から投入し、機関を舵効のある最低回転数の前進にかけてアジ釣りの操業を始め、仕掛けが適度な角度で沈下し下端が海底から約2メートルとなるように操船し、潮流によって1時間ばかり圧流されては潮上りをしてほぼ元の位置に戻り、再び仕掛けを投入して操業を繰り返した。 11時37分少し前B受審人は、長瀬灯標から164度1,220メートルの地点で、船首をほぼ315度に向けて機関を回転数毎分450の前進にかけ、折からの潮流によって左方に圧流され、ほぼ漂流状態となって260度の方向に1.8ノットの対地速力で移動しながら一本釣りに従事した。 B受審人は、操舵室後方の右舷側甲板上に前方を向いて座り、操舵室内の魚群探知器を見ながら右手で魚の当たりを探り左手で機関の操縦ハンドルと舵輪を操作して一本釣りを行っていたところ、11時39分左舷船首84度300メートルのところに少し蛇行しながら北東方に潮上りする大福丸を認めることができ、その後衝突のおそれのある態勢で接近したが、魚の当たりを探ることに気を奪われ、左方の見張りを十分行わなかったので、このことに気付かず、速やかに機関を使用して前進するなど衝突を避けるための措置をとらず、ほぼ漂流状態のまま一本釣りに従事中、同時40分わずか前ふと左舷側を見たとき至近に迫った大福丸を初認し、驚いて機関を後進にかけたが及ばず、宮地丸は、315度を向首したまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、大福丸は、船首部防舷材の一部が折損し、宮地丸は左舷側中央部外板及び操舵室左舷側に亀裂などの損傷が生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、伊予灘北部の沖家室島沖合において、両船が一本釣りに従事中、潮上りのため移動中の大福丸が、前路の見張りが不十分で、仕掛けを投入し釣糸を引きながらほぼ漂流状態の宮地丸を避けなかったことによって発生したが、宮地丸が、左方の見張りが不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、伊予灘北部の沖家室島沖合において、アジの一本釣りに従事中、潮上りをする場合、前路で一本釣りを行っている宮地丸を見落とさないよう、前路の見張りを十分行うべき注意義務があった。しかし同人は、仕掛けの投入準備に気を奪われ、前路の見張りを十分行わなかった職務上の過失により、宮地丸に気付かないまま進行して同船との衝突を招き、同船の左舷側中央部外板及び操舵室に亀裂などの損傷を、大福丸の船首部防舷材に折損をそれぞれ生じさせるに至った。 B受審人は、伊予灘北部の沖家室島沖合において、ほぼ漂流状態となってアジの一本釣りに従事する場合、潮上りをしながら自船に接近する大福丸を見落とさないよう、左方の見張りを十分行うべき注意義務があった。しかし同人は、魚の当たりを探ることに気を奪われ、左方の見張りを十分行わなかった職務上の過失により、接近する大福丸に気付かないで同船との衝突を招き、両船に前述の損傷を生じさせるに至った。
参考図
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