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(事実) 1 事件発生年月日時刻及び場所 平成10年6月28日08時30分 福井県高浜漁港 2 船舶の要目 船種船名
漁船金伸丸 プレジャーボート(船名なし) 総トン数 4.96トン 全長 2.65メートル 登録長
9.50メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
147キロワット 3 事実の経過 金伸丸は、固定式刺し網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が単独で乗り組み、操業の目的で、船首尾とも0.5メートルの喫水をもって、平成10年6月28日08時00分港則法の非適用港である福井県高浜漁港を発し、同時05分若狭高浜港島堤灯台(以下「高浜港島堤灯台」という。)の西方約600メートルの漁場に至って操業を行い、さざえ3キログラムを獲て、同時26分半帰途に就いた。 ところで、金伸丸は、操舵室が船首端から後方約6メートルのところに位置し、同室内操舵輪の後方で見張りに当たると、船首部左舷側ブルワーク上に設けた高さ幅ともに0.4メートルの揚網機用油圧ポンプとその左舷側に配置した直径及びローラー幅とも0.4メートルの横置き揚網機とにより、船首わずか右から左舷側約10度の範囲にわたって死角を生じることから、B受審人は、操舵室の天窓から顔を出したり、船首を左右に振るなどして左舷船首方の死角を補う見張りを行うようにしていた。 B受審人は、発進後、操舵輪の後方で見張りと操舵に当たり、08時27分半高浜港島堤灯台から288度(真方位、以下同じ。)600メートルの地点において、針路を可航幅約80メートルの高浜漁港入口に向かう111度に定め、機関を半速力前進にかけて7.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。 08時28分半B受審人は、高浜港島堤灯台から286度390メートルの地点に達したとき、左舷船首8度330メートルのところにプレジャーボート(船名なし、以下「ボートC」という。)と左舷船首3度320メートルのところに別の手漕ぎゴムボート(以下「ボートA」という。)の2隻を視認することができ、その後ボートCが衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、定針時、同漁港入口付近をいちべつして何も認めなかったことから、前路に他船はいないものと思い、操舵室の天窓から顔を出すなど死角を補う見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、ボートCを避けることなく進行した。 B受審人は、08時29分少し過ぎ右舷船首5度150メートルのところに死角から外れたボートAを初認し、同船の動静に気をとられ、依然ボートCの存在及びその接近に気付かないまま進行するうち、08時30分高浜港島堤灯台から262度70メートルの地点において、金伸丸は、原針路、原速力のまま、その船首がボートCの右舷前部にほぼ直角に衝突した。 当時、天候は小雨で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期であった。 B受審人は、衝突音を耳にし、直ちに行き脚を止めて後方を振り返ったところ、泳いでいるボートCの2人を認め、自船に収容して手配した救急車に移送するなど、事後の措置に当たった。 また、ボートCは、長さ2.65メートル幅1.25メートルチューブ径0.32メートルの手漕ぎゴムボートで、C指定海難関係人と友人の2人が乗り組み、釣りを行う目的をもって、同月27日15時00分高浜漁港を発し、同漁港入口北方の通称一文字防波堤に至って釣りを行い、翌28日08時24分少し過ぎ高浜港島堤灯台から357度155メートルにあたる同防波堤の中央付近を、ボートAの後から発進して帰途に就いた。 C指定海難関係人は、前部の腰掛け板に座り、船尾方に向いてオールを漕ぎ、友人を後部の同板に相対する姿勢で座らせ、発進後、直ちに針路を高浜漁港入口の西側に位置する、通称がくじょう島の東端付近に向かう200度に定め、1.0ノットの対地速力で、ボートAの後方を30メートル隔てて進行した。 08時27分半C指定海難関係人は、高浜港島堤灯台から325度80メートルの地点において、右舷船首83度540メートルのところに高浜漁港入口に向けて入航する態勢の金伸丸を初認し、同時28分半同漁港入口付近に達したとき、同船の方位が変わらずに330メートルに接近したことを認めた。このとき、衝突のおそれがある態勢となったが、同指定海難関係人は、自船が手漕ぎゴムボートのため速力が遅く、接近する他船を避けることが困難であったものの、金伸丸がわずかにその船首を左方に振ったように見えたことから、同船が自船を視認しているものと思い、直ちに漕ぐのを止めるなどして金伸丸の通過を待つことなく続航した。 C指定海難関係人は、その後高浜漁港入口に漕ぎ入れ、08時30分わずか前金伸丸が自船を避ける気配を示さないまま至近に接近したため、衝突の危険を感じ、大声を上げたものの効なく、友人ともども海中に飛び込んだ直後、ボートCは、原針路のまま前示のとおり衝突した。 衝突の結果、金伸丸に損傷はなかったが、ボートCは、チューブ本体に破損を生じて全損となり、C指定海難関係人が左下腿三頭筋部分断裂及び左縫工筋断裂を負った。
(原因) 本件衝突は、港則法の非適用港である福井県高浜漁港において、両船が入航中、金伸丸が、見張り不十分で、手漕ぎ中のボートCを避けなかったことによって発生したが、ボートCが、漕ぐのを止めて金伸丸の通過を待たなかったことも一因をなすものである。
(受審人等の所為) B受審人は、福井県高浜漁港入口に向けて入航する場合、操舵輪の後方で見張りに当たると左舷船首方の見通しが妨げられたから、左舷前方のボートCを見落とすことのないよう、天窓から顔を出すなどして死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、前路に他船はいないものと思い、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、左舷前方のボートCに気付かず、これを避けないまま進行して同船との衝突を招き、ボートCのチューブ本体に破損を生じさせ、同船乗組員に左下腿三頭筋部分断裂及び左縫工筋断裂を負わせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 C指定海難関係人が、福井県高浜漁港入口に向けてオールを漕いで航行中、入航する態勢で接近する金伸丸を認めた際、直ちに漕ぐのを止めるなどして金伸丸の通過を待たなかったことは、本件発生の原因となる。 C指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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